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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
最終章・一部 真の救世主
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シュア・ゲインハルト ~前に進む君~ 後編

 これ以上、戦いを続けてもあまり意味はないと思う。だが、シュアは俺の問いかけに反応しない。それどころか、口元を釣り上げて笑っていた。


「……あいつ、何かあるっていうの。この状況で」

「無いよ、アリーちゃん。ベイくん相手だよ。何をしても無駄だよ。あるとすれば」

「あるとすれば?」

「自身の力を試すために、今出せる全力を使えるってことぐらいかな」

「シュアの、今の全力ね」


 シュアの腕が、ゆっくり光り始める。それを見て、俺はシュアの腕から手を離した。


「ほんと、呆れるほどの筋力ですね。きっと、それだけではなくて魔法もかなり練習しているのでしょう。でなければ、あの人が貴方を褒めるはずもないですものね」

「……」

「何故でしょうね。何故か嬉しいです。悔しいはずなのに、貴方が強くなっていることが悔しいはずなのに、それが嬉しい。きっと、貴方があの人に認められたからですね。貴方のお陰でしょうか。貴方の話をする時、あの人は楽しそうに見えます。私が知っている以前よりもね。貴方と出会って、一つ技をひらめいたとも言っていました。技というよりは、魔法に私は思えますけどね」


 ライオルさんが、そんなことを。


「だから、貴方が強くて嬉しいんだと思います。ベイ・アルフェルト。若くしてそれほどの底見えぬ力を持つものよ。その力で、貴方は何を望むのですか?あの人にすら認められるその力を、何に使うのですか?」

「……俺は、家族を守る」

「家族を」

「ああ。俺は、アリー達を何があっても守り抜く。この力で」

「……あの人の理由と同じなのですね。貴方の強くなった理由は」


 そうか。ライオルさんも、家族を守るためだったな。でも、あの人は全人類救うとかも思ってそうだよな。真の勇者だし。俺よりも、よっぽど救世主っぽい。


「やはり、強くなるにはそれ程の覚悟がいるのですね。決して、大事なものを失わないという覚悟が」

「……かもな」

「私には、それ程の覚悟がありませんでした。それどころか、理想を現実に押し付けて見ていました。私は、周りよりも魔法を扱う才能があった。剣の扱いも上手かった。幼き頃は、あの人に褒められて調子に乗っていました。あの人に褒められた私ならば、いつかこの人の力も超えるだろう。そして、同じ才能ある者たちがその力を伸ばし、この人が安心して休める世の中を作れるのだろう。そう思っていました」

「……」

「ですが、やはり前に進んでいる貴方を見ると違う。私がやっていることは、恐らく理想への甘えなのです。いつかではなく、超えるという覚悟が必要だった。それに、すべてを賭けるほどの覚悟が」

「なら、どうする?」

「せっかく気づけたんです。ここから始めますよ。私の、理想を守るということを」


 その瞬間、シュアの両腕に光が集まって鎧となった。その鎧は、以前俺がローリィ、いや、クローリとの決戦でライオルさんが見せてくれたものに似ていた。しかし、それよりも輝きは低く、シュアの腕に合うようにスリムになっている。外見的特徴は似ているが、どうやら別物のようだ。


「模造した魔法ですけどね。よく出来ていると思うのですが」

「ああ、外見はそっくりだな」

「使われている魔力は、圧倒的に私のほうが低いですけどね。それに、気の扱いも同時にしなくてはならない。私には、本物はまだ扱えないようです。……ですが、きっと扱ってみせる。私は、あの人を超える。そして、家族が安らげる世の中を作るのです」


 シュアが、魔法で聖属性の剣を作り出して握った。


「私の、今出来る最高の攻撃です。貴方なら、大丈夫ですよね?」

「……ああ、勿論だ」

「良かったです。間違って致命傷を受けるとかはやめて下さい。私の理想の中では、貴方はアリーさん達と一緒に平和を守る事のできる重要人物になっているのですから」

「ふっ、勝手だな」

「ええ、勝手な理想です。ですが、当たっていると思います。だって、その力が貴方達にはあるのですから」


 シュアが、腰を落として剣を構える。構えは突きだ。全力を込めたシュアの突きが、俺目掛けて飛んでくるだろう。流石に、あれを素手ではやばいよな。……使うか。


「アルティ」


 その瞬間、空間を光らせて一振りの剣が俺の手に握られる。それは創世級となった剣、アルティ。その姿、ただの剣でありながら放っている魔力の桁が違う。その姿を見た瞬間、会場の全員が目を見開いて言葉を失った。


「ぎゃああああああああああ!!!!アルティ!!!!これうああこくああああああああああ!!!!」


 ……静寂だったのは一瞬だった。多分、あれはアルティを作ったミオだろう。発狂してないか? 大丈夫か?


「なんですか、それは?」

「俺の相棒。いや、相剣かな。もう一振りあるが、敬意を評してこっちを使おう。いつでも良いぞ」


 そう言って、俺はアルティを構える。今のアルティは結構でかいのだが、片腕でも十分に扱える重さだ。だが、あえて両手で握る。そして中段で構えて、シュアを見据えた。


「ほんと、面白いですね。貴方は」


 その瞬間、シュアが俺に向かって突きを放った。それは、俺が構えたアルティに真っ向から当たった。俺が何もすることのないまま、アルティのその鋭い切れ味の前にシュアの剣は両断されて消えた。まるで、豆腐でもぶつかったかのように。


「……」

「いい剣だろ」


 そう言って、俺はアルティを召喚解除する。


「ぐああああああああああ!!!!何だあれ!!凄すぎいいいい!!芸術的いいいい!!!!あんなのもう超えられねえええええええ!!!!」


 客席で、ミオが叫びながら鼻血を吹いて倒れたっぽい。ニーナが走り寄っていったので大丈夫だろう。お大事に。


「ありがとう。何だか、すっとしたわ。流石、あの人に褒められた男ね。いい武器を持ってる」

「ああ、2本もいい剣を持ってるんだ。俺の自慢さ」

「くすっ、ちょっとムカつくわね」

「あまり剣を自慢できる相手がいないんだ。許してくれよ」

「まぁ、良いわ」

「それじゃあ、頑張れよ生徒会長。君の理想のために」

「ええ、ありがとう。と言っても、もう生徒会長は卒業だけどね」


 俺は、そう言ってアリー達のもとへと戻ることにした。


「……皆さん、この学舎では多くのことを学べます。しかし、皆さんに進む気がなければ、彼のような力は得られません。ですが、努力すれば皆さんにも出来るでしょう。彼のような力を得ることが。私は、今になってその事実に気づきました。ですから、最後に皆さんにそれを伝えたかったのです。彼の持っている剣はたしかにすごかった。しかし、それを扱う彼が弱くては意味がありません。彼は、微動だにせず、私の剣の衝撃すら無いものとして立っていました。それ程に鍛錬を積んでいるのです。彼には、それほどの力を得るだけの理由が有りました。皆さんに、そんな思いはありますか?前に進む理由がありますか?なければそれでも構いません。ですが、あるならば後悔せずに進んで欲しい。私は、そう思います。でなければ、そのための力は手に入らないのですから」


 そう言って、シュアは挨拶を締めくくった。


「あいつ、挨拶にベイを利用したわね」

「良いんじゃないか。ほら、どこか嬉しそうな笑顔だし」

「それが、更にムカつく」

「そっか」


 きっと、シュアはこれから強くなるのだろう。だが、前に進もうとする彼女の意志とは逆に、この星には時間が残されていない。


「……頑張るか」


 俺は、シュアの笑顔を見ながらそう思った。



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