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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
最終章・一部 真の救世主
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シュア・ゲインハルト ~前に進む君~

 一応言っておくと、暴走していても俺にはまだ理性があったのでロロとジャルク、ローリィには変なことはしていない。取り敢えず、訓練しといてと言って庭に残してきた。その後は、気づいたら寝室にいたのでよく知らないが。まぁ、訓練して、あるもの食べて寝に来たのだろう。そうだと思う。


「……ふむ」


 訓練を続けるだけの日々が続いたが、それだけで月日はあっという間に流れていく。気づけばもうすぐ四月だ。復活したライオルさんが、改めてローリィの顔を見に来たり。新年の挨拶などで皆の実家を回ったことぐらいしかあまり大きな行事はなかった。しかし、その中でもニュースとしてでかい出来事はあった。


「た、大変だよ、ベイくん!!」


 それは、ある日のライアさんの報告で明らかとなった。3月も終わろうというこの日、創世級迷宮に変化が訪れた。創世級迷宮を形作る壁。その壁の色が、変色しだしたのだ。今までは、無色透明であった。しかし、今は所々が水に油を落としたかのように変色している。そして、それらが治ったり浮き出たりを繰り返していた。


「……薄く、なってるな」

「はい」


 壁が、薄くなっている。それ故の変色なのだろうか。


「……」


 終わりは近い。そのことを、現実は俺達に突きつけてきた。そんな気がした。


「ま、焦らず行きましょう」


 その事実を伝えると、アリーは冷静にそういった。確かに、焦っても良いことはないのだろう。取り敢えず、レーチェ曰くまだ時間はあるということらしいので、俺達は何時も通りに訓練を続ける事にした。


「ベイ、どうせなら気分転換しましょう。ちょうどいい行事があるわ」

「行事?」


 4月。それは、別れと出会いの季節。俺達も、でなくて良くなったとは言え、一応は学生だ。ヒイラ達は、まだ出ているが。その進級式兼、入学式に俺達も付き合って出ることにした。新入生たちよりも少し早く席に付き、俺達は待機する。スペースが学年ごとで決められていないので、俺達は固まって座った。その近くに、レラの研究会仲間が固まって席に座っている。俺は、やたら研究会の子たちに挨拶された。少ししかいなかったけど、フレンドリーに挨拶されると嬉しいな。皆、やたらと握手をしてくるのは何故だろうか? そこだけが疑問だった。


「それでは、校長先生。お願いします」

「うむ」


 久しぶりに校長を見た。相変わらず、威厳のある人だ。校長は、進級おめでとうの挨拶と、これから来る新入生とも仲良くしてやって欲しいと言った。まぁ、俺が関わることはないだろうが。


「次に、生徒会長挨拶」


 そう言われると、シュアが出てきた。そう言えば、今年でシュアも生徒会卒業か。


「……今年、多くのことがありました」


 シュアが、生徒会で感じた思い出深い出来事を上げていく。そして、次の生徒会長となる人物を紹介した。そんな中で、俺は取り敢えず心を落ち着かせようと目を閉じていた。創世級迷宮の光景が、まだ目に焼き付いている。心の高ぶりを抑えるために、俺はアリーの隣で瞑想していた。


「……私には、まだこの学校で心残りがあります」

「ん?」


 シュアが、突然そう言い出した。挨拶が終わろうとしたその直後だったために、少し気になった。


「私には、尊敬している人がいます。その方は、私の姉にも師として慕われており、大きな実力を持った方です」

「ライオルさんか」

「その方が、今この場にいる一人の生徒の実力を褒めていました。ですが、私には分からないのです。何故、あの人が彼をそこまで評価するのか。彼が評価されるのか」

「……帰ろうか、アリー」

「そうね」

「その意味を、私は知りたいのです。ですので、そこの帰ろうとしているベイ・アルフェルト。貴方のことですよ。私は、貴方の本当の実力が知りたいのです」

「……」

「ですので、胸をお貸しいただけませんか、ベイ・アルフェルト。貴方ほどの実力ならば、私の相手をするぐらい、どうということはないでしょう?」


 俺は、無言でアリーを見た。


「……蹴散らしてくる?」

「マジで?」

「私は、良いと思う」


 俺は、視線をシュアに移した。


「失礼。どうぞこちらに。わざわざ、校長先生にお尋ねしてスペースを頂きました。さぁ、始めましょう」

「……」


 俺は、腰にあるサリスを握った。今朝も、磨いたばかりのピッカピカのサリスだ。それを、柄を握って感触を確かめる。


「……よし。手加減できるな」


 俺は風魔法を使うと、宙を舞ってシュアの前へと着地した。サリスの柄を握って。


「貴方、変わりましたね。昨年、見た貴方とは別人のようです。あの人の病室でもお会いしましたが、あの時は気が動転していてその事実に気づきませんでした。ですが、今なら分かる。貴方は、とても大きな存在になった」

「……」


 シュアが、置かれていた剣を抜いて俺に向ける。真剣だな。練習用じゃない、刺さったら死ぬ剣だ。マジか。俺は、サリスに鞘をつけたまま握った。鞘をすっぽ抜けないように、魔法で作った水の糸で結わえて固定する。これで、傷つけなくて済むだろう。


「では、お願いします」

「ああ」


 シュアが、魔法を剣に纏わせる。だが、俺はサリスに何もしない。あの程度の強化では、サリスは折れないだろう。


「生徒会長、本気か?」

「やばいんじゃないの?」


 シュアは、魔法を使っている。俺は、魔法すら使わない。ただ身構えているだけだ。それがどれほどの戦力の差であるか、分かっているものは少ない。今、俺はシュアには、どう見えているのだろう。


「……」


 分かるはずだ。今の俺と向き合ったのならば。


「……」


 シュアは、何もしていないのにその顔に汗をかいていた。そう。今、お前の前にいる俺は、去年の俺ではない。分かるはずだ。俺に、刃を向けたんだから。


「くっ!!」


 シュアは、体の全体重を乗せて突きを放ってきた。最速で出せる、シュアの目一杯の攻撃だろう。だが俺は、それを見るとその剣を素手で掴んだ。


「えっ!?」


 シュアが剣に纏わせている魔法だが、強化用の魔法であって攻撃魔法ではない。故に、腕は痛くない。用途が違うとそういう物だ。魔法って不思議だなぁ。だから俺は、それが分かり突きの速度を見た時点で素手で剣を掴んだ。勿論、刃で俺の手は切れない。しっかり、剣は俺の腕で固定されている。だから切ることが出来ない。


「なっ!?」


 シュアが、全体重をかけて剣を押す。しかし、動かない。それも、俺の純粋な腕力でだ。 ……自分のことだけど、すごいな。流石、俺のマッチョボディー。一味違うぜ。


「どうする、まだやるか?」


 俺は、サリスをベルトのホルダーに戻しながらそういう。そして、シュアの腕を握って、剣を取り上げた。


「あっ!?」


 全力で握っている剣が、あっさりともぎ取られるもんだから、そんな声も出るだろう。俺、マッチョになったんだよ、シュア。驚くほどマッチョ。その割には、細い方だけどな。


「……流石ね。でも、まだよ」


 シュアの腕に、攻撃魔法が浮き上がる。それは、聖属性の球体。 ……やばいな。聖属性魔法を使えることが皆に知られたくないから、相殺出来ないぞ。無難に、土魔法あたりで壁を作って防ぐのが得策か? しかし、シュアと距離が近すぎる。この方法だと、距離を取らないと無理そうだな。


「私は、まだ貴方を知らない」


 シュアが、攻撃魔法を放つ。俺は、取り敢えず力任せにシュアを振り回した。


「えっ!!」


 攻撃魔法の狙いがそれて、外野に飛んでいく。それを、サラサが剣でぶった切って消した。お見事。


「……」

「どうする?」


 筋肉は力だ。それを、改めて俺は実感した。



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