レーチェデカブラ ~封印から解き放たれた獣~
新たな族長の誕生だ。それは、若くして頂点へとたどり着いたコンビ。ロロ&ジャルク。
「族長、優勝おめでとうございます」
「ありがとう。でも、言った通り私はすぐに出ていく。もう、私とジャルクは一人前。それを、証明した」
「はい。お二人は、もう一人前です」
「うん」
ロロに、前族長が敬語を使っている。そういうしきたりなんだなぁ。
「ただ、その前に一つだけ決めごとを決めたい」
「決めごと、ですか?」
「うん」
ロロは、見ている狩猟天使たちに向かって視線を移す。
「我々狩猟天使は、この星を守るために我が夫、ベイ・アルフェルトに協力することとする!!」
そうロロは、皆の前ではっきりと言い放った。
「協力、ですか」
「そう。私とジャルクも、ちっぽけだけど役に立つために頑張っている。だから、皆にも力を貸して欲しい。創世級から、この星を守るために」
ロロは、熱を込めてそういった。その言葉に、前族長達が頭を下げる。
「ははっ」
「うん。じゃあ、族長。あと、よろしく」
「はい。……ロロ、行くのか」
「うん。まだ、私達弱いから、夫のためにあっちで頑張らないと」
「クァ~~!!」
「……元気でな」
「勿論、元気!!そして、世界を救う!!」
「クァ~~!!」
ロロ達が、俺に駆け寄ってくる。そして、皆を連れて俺は、家へと転移した。巣立っていくロロを、優しく狩猟天使たちが見送っていた。
「疲れた」
「ご飯食べて、休憩するか」
「うん」
「クァ~~!!」
時刻は、丁度お昼時だ。参加人数の割には、早く勝負がついたな。まぁ、皆全力で殴り合ってたし、こんなものか。
「ベイよ。その前に、あれをするのじゃろう?」
「あ、そうだな」
俺達は、料理をしているアリー達も集めて家の庭に集う。今日は、ノービスとカエラも一緒だ。そこで俺は、皆を代表して言葉を述べる。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします」
「「「「よろしくおねがいします」」」」
皆が、俺の言葉に合わせて挨拶を返した。何をしているかというと、家族間での交流だ。まぁ、俺の勝手で挨拶は日本式にした。ようは、これから食事会をするのだ。普段は、俺達が倒れてばっかなのでノービス達と同じ時間に飯を食べることが少ない。家族なのにだ。なので、年始は一緒に食べることにした。これは、その軽い挨拶みたいなものだ。まぁ、普通に呼んで食べればいいじゃんと思うのだが、アリー達が年始だし特別な気分で始めたいというのでこうした。まるで日本みたいだぁ。あるのは、洋食ばかりだけど。
「さて、それじゃあ用意しましょ。ごちそう、たくさん作りましたよ」
「本当、アリーちゃん」
「はい、お義母さん。ささ、こちらへ」
「ノービスさんも、どうぞ」
「ヒイラちゃん。君も、お義父さんと俺を呼んでくれていいんだよ」
「は、はい!!」
全員が、アリーを先頭に家の中へと入っていく。その最後尾を、俺はついていこうとした。
「ベイよ」
その時俺は、レーチェに呼び止められた。
「ちょっと、手伝ってくれんか」
「うん、何をするんだ?」
「なぁに、すぐに済む」
そう言ってレーチェは、俺を引っ張ってとある部屋へと向かった。
「うん、ベイは?」
「どこかに行ったみたいですが」
「悪い、遅くなったかな?」
「大丈夫、今準備できたわよ」
「そうか。なら良かった」
「ふむ。良いものじゃった」
「?」
そのレーチェの言葉に、ミルクは首を傾げて疑いの目を向けた。
「それでは、頂きます!!」
「「「「いただきます!!」」」」
アリーの合図で、俺達は食事を始める。眼の前には、これでもかと豪華な料理が並んでいた。中でも目を引くのが、巨大な肉の塊の丸焼きだ。これは、何の肉だろうか?
「レムさんに頼んで取ってきて頂きました。グランドドラゴンの肉です」
「……ドラゴンの肉の、丸焼きだと」
「私が、完璧に焼き上げた」
そう言うのは、サラサだった。流石、肉料理の専門家。丁寧な仕事だ。
「ジャルク?」
「……」
ジャルクは、静かに肉から目を背けた。
「さて、切り分けるぞ」
サラサが、肉の塊に包丁を入れる。すると、切れ目から肉汁が溢れ出した。
「おお~~!!」
「下さい!!」
すっと、ロデが皿を差し出す。その上に、サラサが肉を置いた。それを、まるですするようにしてロデは口へと運ぶ。いや、まじですすってたぞ。それ程、柔らかいということか?
「うう~~~ん!!美味い!!!!」
「どれどれ」
俺にも、肉の乗った皿が配られる。それを、俺も同じようにしてすするように食べた。
「うっ!?」
美味い。柔らかいのに、噛みごたえがある。それでいて、肉汁が豊富でジューシーだ。まるで、一つのスープ料理。これが、ドラゴンの肉か。
「……美味いが、野菜が欲しくなるのう」
レーチェがそう言う。俺も、野菜を食べることにした。合う。濃い肉に、レーチェ印の野菜の旨味がベストマッチしている。これは、無限に食える組み合わせだな。
「めっちゃ美味い!!」
「感動……」
みんながそう言う中で、何故かジャルクが、気配を消すように身を伏せて静かに食事をしていた。安心しろジャルク。お前は食べないから。
「いやぁ~~、いい食事だった」
「そうねぇ」
あっという間に、あれだけあったごちそうがなくなった。まぁ、人数いるからな。そんなもんか。
「さて、戻ってのんびりするか」
「ええ。アリーちゃん、ベイをよろしくね」
「はい」
そう言って、ノービス達は実家に帰っていく。まぁ、実家のほうが静かで落ち着けるからな。それが良いだろう。新年といえども、俺達はこれから訓練をするしな。こっちはうるさくなる。
「ベイよ、飲み残しておるぞ」
「うん?」
レーチェにそう言われて見ると、俺のコップに何故か牛乳が並々と注がれていた。あれ、飲んだはずなんだけど、いつの間に。
「……まぁ、いいか」
「……ふふっ」
俺は、そのまま牛乳を一気に飲み干す。ほら、そこにはいつものように、慣れ親しんだうまい味が。
「……えっ、違う」
「ふっ」
濃い。明らかに濃い。いつものミルクの牛乳じゃない。味が違うのだ。脂肪分が多く感じる。それでいて独特の癖の濃さがある。だが、美味い。これも間違いなく美味いのだ。だが違う。確実に、ミルクの牛乳ではない。
「ご主人様、どうかしました?」
「……」
「うん?」
ミルクが、俺の持っているコップを見つめる。
「……レーチェ、貴方、まさか!?」
「ふはは!!ふはははははは!!」
「飲ませたな!!私のご主人様に、飲ませたな!!お前の、それを!!!!」
「そう。その通りじゃ!!あれは、お前のではない!!わしのじゃ!!!!」
そう。それはヤギのミルク。牛乳などではない。さっき、俺が手伝ったものだ。恐らくそうだろう。捨てるって言ってたのに。残してたのか。
「お前!!お前えええええええ!!!!」
「そう熱くなるな。何、どれほどの味か気になってな。飲ませる相手もベイしか嫌じゃしな。それで味見をしてもらったというわけじゃ」
「……ご主人様!!どうですか!!味は!!私のよりもすごいんですか!!!!」
ミルクが、大声で俺に言ってくる。だが、俺は今、それどころではない。
「なんか……」
「なんか?」
「なんか、めっちゃムラムラするな」
「……」
俺は、ゆっくりと視線をミルクとレーチェに向けた。




