誓い
「うむ。スッキリした」
「想像よりも、デンジャーな光景だったぜ……」
俺とローリィは、トイレを終えると戻ってきてかけ湯をし直した。いや、俺はトイレを使ってないけど気分で一緒にしている。しかし、お互いに真っ裸の状態でトイレに入ることになるとは思わなかった。結局見ていろと想像通りに言われた俺は、ローリィを終わるまで見ていたのだが、あれだな。何だか子供の成長を見守っている気分になった。父親になるってこういうことなんだろうか。しかし、風呂場だと湯気とか反射した光とかで重要な部分が見えづらくなっているが、トイレだと直だったからな。ホント、完成度の高い肉体だなと思った。まぁ、アリーが作ったんだし当たり前か。
「もう、入り直してもいいだろうか?」
「うん、ああ、大丈夫だろう」
「そうか。では、失礼して。ふぅ~」
お湯に浸かると、息を吐いてローリィは目を閉じる。気持ちよさそうだなぁ。俺も入り直そう。
「う~ん、やっぱ、ちょっと冷えた後のお風呂は最高だなぁ」
「そうだねぇ~」
顎付近までお湯に浸かりながら、ローリィが答える。もう威厳とかどこかに飛んでいったな。元魔王よ。
「夫」
「うん?」
「お背中、お流しします」
そう言って、何故かロロがジャルクで石鹸を泡立てながら待機していた。
「……ジャルク、大丈夫か?」
「クァ」
どうやら大丈夫そうだ。恐らくジャルクは今、力の限り両目を閉じている。石鹸への抵抗は、完璧なようだ。
「どうぞ」
「じゃあ、お願いしようかな」
「へい、お客さん」
俺は、ロロの案内でお風呂場用の椅子に座る。そして、ロロがジャルク抱き上げると、俺の背中にこすり付けてきた。
「ゴシゴシ」
「クァッ、クァッ」
俺がジャルクで泡立つたび、ジャルクのくぐもった声が聞こえる。大丈夫なのだろうか、ジャルクは?
「うむ、あわあわになった」
「……」
それと同時に、ジャルクの声が聞こえなくなった。 ……俺は、後ろを振り向いてロロからジャルクを受け取る。そして、お湯をかけて泡を払うと、そっと脱衣所でタオルで拭いて、寒くないようにタオルを掛けて寝かせた。
「お前は、よく頑張ったよ」
「クァッ」
俺がそう言うと、ジャルクが反応する。そして、目を閉じて体の力を抜いた。ジャルク、今はゆっくり休んでくれ。
「さて、俺も洗い流そう」
俺は、戻って背中の泡を流そうとする。だが、何故か仕切りにローリィが俺を見て椅子をゆび指さしていたので、取り敢えずまた椅子に座り直した。
「私が流そう。こういう付き合いもあるのだろう、ベイ・アルフェルト。私は、君に感謝している。私の夢が、ようやく君のお陰で叶いそうだ。だから、感謝の気持ちを込めて君の背中の泡を流そう」
「……ローリィ」
そう言うとローリィは、桶でお湯をすくって俺の背中にかける。うん、心地いい。何度かかけてもらい、俺の背中は綺麗になった。
「おし、ありがとう」
「ああ。それでは、前を洗おう」
「……は?」
ローリィは、タオルで石鹸を泡立てる。そして、俺に近づいてきた。
「遠慮するな。私の夢を叶えてもらっているお礼だ。君の身体を磨かせてくれ」
「いや、そういうの良いから。自分で出来るから」
「むぅ~。アリーさんに私の使命として君の手伝いをすることを言われているのだが。私では、不服だろうか?」
「いや、不服とかじゃなくて前は自分で洗えるから。そこまで、手伝わなくていいから」
「そうか。では、せめてこのタオルを使ってくれ。泡立てておいた」
「ああ、ありがとう」
俺は、ローリィからタオルを受け取る。そして、前を洗うとお湯で流して再び風呂へと入った。
「ふぅ~。フィー、そろそろ結構な長湯になるけど、大丈夫か?」
「は、はい、マスター。大丈夫です!!」
「そうか。顔が赤くなってきてるからな、そろそろ上がろう。俺も、一緒に上がるから」
「はい!!」
その後、ローリィに身体の洗い方を、アルティとフィーが指導していた。フィー達も体を洗い終えると、フィーは俺の手を引いて脱衣所へと移動する。そして着替えた後、俺達は再び寝室へと移動した。
「皆、よく寝てるな」
「と、でも思っていたのですか、ご主人様」
布団に入り直した瞬間、股下から何かが這い上がってくる。ミルクさんでした。
「起きてたのか」
「ええ、アリーさん達以外は起きてますよ。ですが、まだ眠いのは事実でして」
「ミルク、無理しないで」
「……フィー姉さん、そうですね。それでは、おやすみなさい」
そう言うと、ミルクは俺の身体に体重を預けて寝た。おいおいミルクさん、興奮するだろ。ミルクの爆乳が、俺の身体にあたった状態だからな。
「よしよし」
ミルクの頭を撫でながら、俺は横になる。ふ~む、どうやら人一人乗せて寝るぐらい今の俺の身体ならば問題なさそうだ。あっさりと眠れそうだから、このまま寝るかな。ミルクの体温が心地良い。
「レム達も、寝て良いんだぞ」
「……」
どうやら、言うまでもなく寝直したようだ。枕元のシデンのみ、俺の頭に顔を寄せてから寝る。俺は、シデンの頭を優しく撫でた。
「ふぁ~~。おやすみ、ベイ・アルフェルト」
「ああ、おやすみ」
「夫、おやすみなさい」
「おやすみ」
ロロ達も、疲れがまだ残っていたのかすぐに寝てしまう。ロロは、ジャルクを抱きしめて眠っているな。仲が良くて何よりだ。
「俺達も寝るか、フィー」
「はい」
フィーが、そう言って俺の隣に寝そべる。
「マスター、私、マスターと共にいられてよかったです。愛する人に恵まれて、たくさんの家族も持てて。あそこにいる妖精達とは違うけど、私は、あの子達以上の幸せを掴むことが出来た。今は、そう思っています」
「そっか」
「本当は、あれが私のあるべき姿の一つであったのかも知れません。でも、今はそれが普通だとは思えないんです。それもマスターと出会えたから。私が、皆のお姉さんになれたからだと思います」
「うん。フィーは、皆のお姉さんだな」
「はい。初めは、ミルクに言われていただけでした。でも、そのうちミルクの呼び方を真似て、皆がそう呼び始めた。だから、私もそれに答えようと頑張ってきました。マスターのお役に立とうと、皆の期待に答えようと」
「フィーは、よくやってくれてると思うぞ。皆も、頼りにしてるだろう」
「だと、良いんですけど。皆、頼もしい子達ばかりだから、ちょっと不安です。でも、私これからも頑張って行きます。マスターの為に。皆の為に。だからマスター」
「うん?」
「必ず、この先も皆で一緒に過ごしましょうね」
「……ああ」
今の俺達が、フィーにとっての家族だ。だから、それを守るとフィーは言っているのだ。一生、命の続く限り。
「……」
フィーの手が、俺の手を握ってくる。そして、そっと顔を俺の方に寄せると、俺とフィーはキスをした。熱く、少しの出来事であったがそれは情熱的なキスだった。一生を誓う、そう言う意味のキスだと俺は思った。
「おやすみなさい、マスター。また明日」
「ああ、おやすみ、フィー」
俺達は、揃って目を閉じる。そして、お互いを感じたまま、眠りに落ちていった。繋いだ手を、離さないまま。
*****
闇夜。そこは静寂であり、音さえしない。その迷宮の周りには、生者は存在できない。故に、音が生まれない。聞こえても、風の音ぐらいなものだろう。だが、そこで音がした。それは、何かが軋むような音だった。その迷宮のほんの一部分。その場所に音の正体は存在していた。その迷宮の壁に、人の指先ほどの小さな亀裂が入っている。それは、数秒とまたずに修復されて消えたが、レーチェを起こすのには十分すぎる音を響かせた。
「……破壊される日は近いか。ベイ達が、頂に辿り着くのが先か、奴らが出てくるのが先か」
布団から、上体のみを起こしてレーチェはそう言う。
「まぁ、わしがベイ達を守りながら彼奴等も殺せばよかろう。わしじゃしな、それぐらい出来るじゃろう」
そう言って、レーチェは寝そべる。
「もっともその場合、この星も無傷は難しいじゃろうがな」
再度布団をかぶると、レーチェは目を閉じた。
「ベイよ。お前達次第じゃぞ……」
そう言うと、レーチェは再び眠った。




