ウィルクス魔術・戦士学校
旅途中の街で、宿を取りながら移動すること7日。特に何事も無く、学校に到着した。隙を見つけては、皆で訓練をしたり、魔石を作ったり。それなりに、無駄な時間ではなかったと思う。アリーとも過ごせたし……。魔石は、行き帰りを考えて作っているので、今はフィー、レム、ミルクの魔石を強化しただけだ。だいぶ時間をかけて作ったので、神魔級に進化しても、よっぽどの強さでなければ壊れないだろう。……フィーはその可能性があるが、その頃には、もっといい魔石が作れるはずだ。
「何事も無く、着いて良かった……」
「うーん、ベイがいるんだし。何が来ても、大抵は問題が無いんじゃないかしら?」
いや、まぁ、そうだろうけど。うちのチームなら、聖魔級や神魔級が大量に襲ってくるか、創世級とぶつかる以外、大した問題では無いと思うけども。やはり、なにもないということが大事なんだと思う。親たちに、俺達の力を見せたくないし……。
「おし、ベイ。教員室に行くか、えっと、こっちかな……」
「お義父さん、こっちです」
「ああ、すまんな。アリーちゃん……」
「まぁ、アリーったら。もう、お義父さんなんて呼んでいるの」
「お母様。早いか、遅いかの違いです。何も、問題ありません」
「ということは、カエラさんも?」
「はい、私もお義母さんと呼ばれて……。とても嬉しいです」
「お義母さん、いいですね。私もアリーに、お母さんと呼ばれたことはないですわ。アリー、しばらくお母さんと呼んでもいいのよ?」
「……お母さん」
「……うむ、いいものですね。お母様よりも、親密な気がします」
そう言ってマリーさんは、アリーを抱きしめた。アリーは、珍しく照れているようだ。しばらくして、教員室に移動する。
「失礼します」
「はい。おや、アリーさん。ということは、後ろの子がベイ君ですかね?」
「はい、手続きをお願いします、フィガ先生」
「分かりました、では、親御さん達はこちらへどうぞ……」
そう言われて、ノービス達は奥の机で書類の説明を聞いて、サインをし始める。フィガと呼ばれた人は、気の良さそうな初老の男性だった。その間に教員室を見回すが、特に変わったところはない。だが部屋自体は結構広く、置いてある机も多い。それだけ、教員が多いということだろうか。だが、流石に新年明けすぐだからなのか、このフィガさん以外、今は誰も居ないようだ。
「ちょっとベイ君、来てくれるかな?」
「あ、はい」
「この書類と、この書類の、ここのとこに君の名前を書いてくれるかな?」
「分かりました」
ススッと、自分の名前を書く。片方は入学に関しての書類で、もう片方は寮に関しての書類か……。特別魔法研究棟って、変な名前の住居だな。なにか、特殊な寮なんだろうか?
「はい、OKですね。これで、手続きは完了です。それで次は、こちらに来て頂けますか?」
フィガさんが書類を保管し、俺達を先導する。今度は屋外か。広い敷地だなぁ。この学校自体、かなり広そうだ。
「えっと、ベイ君は、魔法科に入学予定になりますが。今、どの程度魔法が使えるか、見せて頂いてもいいですか?私が、離れた距離で的を出しますので。それを狙って、魔法を撃ってみてくださいね」
そう言うと、フィガさんは離れたところに歩いて行き。土魔法で、的を作る。
「いいですよー!!撃ってみてください!!」
「……」
俺は、無言でウインドブラストを撃つ。風の弾丸が、的を正確に射抜き、破壊した。
「今度は、的を増やしますねー!!」
今度は的が3つ、等間隔に置かれて出てくる。
「いいですよー!!」
「……」
俺は、無言でウインドブラストを3つ同時に打つ。問題なく、3つとも破壊した。
「おおー!!3つ同時ですか!!すごいですね!!」
フィガさんが、歩いて戻ってくる。褒められるのは嬉しい。でも、アリーは少し不満そうだ。まぁ、俺の全力には程遠いけど。こういうのは、無難でいいと思うんですよ、アリーさん。
「では、次はこちらに来てください」
フィガさんの案内で、次は競技場のような施設に入る。なんというか、試合会場という感じの場所だ。そう言えばこの学校、闘技大会もあるんだっけか……。すごい観客席数だな……。まるで、スポーツドームみたいだ。
「さて。ここでは、全校生徒が鍛えた、魔法・技術を使っての戦いを行います。こちらの闘技場内ですと、身代わりの腕輪のように、致命的なダメージを受けてもその攻撃をこの闘技場に付けられた魔法陣が肩代わりして防ぐことができます」
そう言うとフィガさんが、土魔法の人形を出す。
「ではベイ君、試しにこの人形と戦って頂けますか?運動能力を見たいので、魔法は無しでお願いします。武器などはどうしますか?ベイ君は、自分のを持っているようですが。こちらで、貸し出すこともできますよ?」
「分かりました、武器は自分のを使います。大丈夫です」
俺は、闘技場に上がる。人形と向い合うように真ん中に行くと、では、はじめてください!! というフィガさんの声が響いた。人形が俺を殴ってこようとするが……、凄く遅い。そのまま俺は、無造作に伸びてきた腕を受け流して、胴体をそのまま真っ二つにした。
「うーん、すごいですね。完全に、動きが見えているようです」
「いいぞー、ベイ!!流石、俺の息子!」
「カッコイイわよー!!ベイー!!」
フィガさんはよく見ているようだが、親の声援がむず痒い!! やめて!! 恥ずかしい!!
「さて、それでは……」
「ちょっと待っていただけますか、フィガ先生」
そう言うとマリーさんが、闘技場に上がってくる。ゆっくり歩いてくると、俺の前に立ち……。
「ベイ君、私と戦ってもらえますか?」
「はい?」
「お母様!!なにを言って!!」
マリーさんは、ゆっくりとアリーを見つめると言う。
「アリー、貴方がベイ君をどれだけ好きかは、私も分かりました。ですが、世の中にはそれで納得をしない、かわいそうな大人がいるのが事実です!!だからこそ、ここで私自身がベイ君の実力を見たいのです!!貴方に、私の愛する娘にふさわしいかどうかお!!」
マリーさんが、熱を込めて言う。そう言われたら、俺も引き下がれなくなるが。
「はぁ……。お母様、駄目です」
アリーは、心底呆れたように言う。
「何が、駄目なのですか?」
「いいですか。お母様では、何があってもベイには勝てません。お母様の強さは、私もよく分かっています。ですが、どうやっても勝つことはできません。ましてや、ベイの完全な実力を見るなど、お母様では不可能なのです。それ程に、お母様とベイには実力差があります。ただお母様が負けるだけです。意味がありません」
そう、アリーが言うと、場が静かになる。マリーさんはもちろん、フィガさんも驚いた顔をしていたが、うちの親はもっと驚いていた。目はやや飛び出し、口を開き、表情をフルに使って驚きを表していた。だが、ノービスが驚きから立ち直る。
「またまた、アリーちゃん。ベイを高く評価してくれているのは嬉しいが、マリーさんは王国魔術師で、聖魔級魔法も使えるんだよ。流石に、うちのベイでは……」
「そうですね、お義父さん。でも、これは事実なんです。お母様が聖魔級魔法を使おうと、結果は変わりません。貴方の息子であるベイ・アルフェルトは、それ程に強い。冗談ではありません」
ノービスの顔から、笑みが消える。今度は、難しい顔をしだした。まぁ、そう言われても信じられないよな……。普通。というか、アリーさん。俺の実力を、ばらして欲しく無いのですが……。
「なら、何も問題無いですね。私が負けるだけのこと……。むしろ、それほど強いのなら大いに結構。私に勝てたなら、この場で私を、お義母さんと呼んでいただいて構いませんよ、ベイ君!!」
「!?」
「ベイ!!遠慮無くお母様をぶっ飛ばすのよ!!早く!!」
いきなりのマリーさんからの不意打ちに、アリーの親を倒せコール!! ちょっと、マリーさんは悲しそうだが、すぐに表情をまじめに戻すと俺に向き直る。
「では、ベイ君。お手合わせしてもらっていいかしら?」
「分かりました……」
俺は、ゆっくりと剣を構え、マリーさんの開始の合図を待った。