魔石剣という魔物
「……う~ん、あ~~!!難しいよ、これ!!」
カヤが、そう言って魔力を練るのをやめる。練っていた魔力は、彼女の周りを覆う赤い光となって漂っていたが。カヤが魔力を練るのをやめると同時に消えた。
「外殻を作るって、難しい~~!!」
「私も、完全に作るまでは出来ませんね」
「私達もです」
「こんな事やってたベイさんって、超人じゃないっすか?」
目を閉じて、ミエル達が魔力を力みながら練っている。しかし、それはカヤ同様に彼女たちを覆う光となって周りを漂い続けるだけだった。シデンのみ、光の一部が結晶の様になっている。だが、外殻を作っているとはまるでいい難い光景であった。
「それが出来るだけましですよ。私とレムなんて、欠片も出来ませんからね」
「そうだな。まさか私達が、こんなにも魔力の扱いが下手だとは思わなかった」
そうレムとミルクは、言いながら魔力を練っている。しかし、それは彼女たちの表面にすら形となって出てこない。それは、カヤたちよりも完成度の低い魔法を扱っている光景のようにも見えた。
「何を言っとるんじゃ、お前たちは?」
その2人を見かねて、レーチェが近寄ってきた。ロロとジャルクの攻撃を受けながらだ。
「え、出来ないんですよ。それが何か?」
「お前たち、外殻を作るとはな、己の全てを再現するということじゃぞ。一部ではない。一部を作ろうとしても無理じゃ。それは、一つのパーツに過ぎない。全部でお前たちの外殻じゃ。じゃなければ、機能せん。作る前に崩れ落ちるんじゃ。それが、お前たちのしとることじゃぞ」
「……ああ~、つまり」
「私達は、私達のみを外殻としたから、作れていないということか」
「そういうことじゃ。お前たちは、誰と魔力で一体になっとるんじゃ。そういうことじゃろ」
「まぁ、そういうことですよね」
「主と私達は同一。魔力的に融合した存在。であれば、主すらも私達の外殻の一部ということか」
「そういうことじゃ」
その言葉を受けて、レムとミルクが再度魔力を練り始める。
「……おっ?」
すると、俺とレム、ミルクの周りに外殻が出来始めた。自身の表面を、魔力で大きく再現する。辺りに、魔力で出来た俺達の外殻が出来始めた。
「……無理でしょ、これ」
「ああ、同感だ」
すると、一気に外殻が壊れて消える。そして、レムとミルクがその場にかがんだ。二人共、短時間ですごい量の汗をかいている。
「全然、ご主人様レベルまで外殻を作れないんですけど~~!!!!」
「ここまで辛いとはな。流石、主だ。これは、血を吐くのも頷ける。無理だ。制御なんてものじゃない。こちらが、外殻に持っていかれそうになる。魔力を吸い上げられている。これが、ここまで辛いとは……」
「二人共、大丈夫か?」
俺は、駆け寄って回復魔法をかける。ある程度体力が回復する程度で回復をやめた。俺、回復魔法の回復具合が分かるようになってきたな。変な効果を封じ込めてきている。凄い進歩だぞ!!
「ふ~、生き返りました!!」
「ありがとうございます、主」
「いや、良いんだよ」
この2人は、もう俺と一緒に死んでしまう体なんだよな。そう思うと、俺のほうが感謝したり無いくらいだ。ありがとう、レム、ミルク。
「俺も、練習に付き合うよ。今度は、全員でやってみよう」
「そうですね。今までは、制御をご主人様に任せっきりでした。しかし、我々が協力して外殻を作れば!!」
「更に早い速度で外殻を作りきれるかも知れないな」
「では、やってみましょう!!」
フィー達を呼び寄せて、俺達は手をつなぐ。そして、目を閉じて集中すると、外殻を作り始めた。俺達の周りに、巨大な鎧の上半身が組み上がっていく。それは、腕の肘部分まで出来上がると、俺が目を見開くと同時に消えた。
「ぐばああああああ!!!!」
血を吐いた。そして、その場に倒れ込んだ。しかし、それを誰かが受け止めてくれた。
「食え、ベイよ。無くした血の分、食わんと不健康になるぞ」
「も、もが」
それは、レーチェだった。レーチェは、俺を抱き起こすと、口に腕力に任せてすり潰した野菜をブチ込んでくる。若干、血の味がまだ残っているが美味い。美味いんだけど、体が辛い。美味い。辛い。血の味がする。そして、俺は意識を手放した。
「ふぅ~。ま、これだけ食わせれば良い成長をするじゃろう」
「無茶苦茶ですね、あんたは」
ミルク達は、その場に辛うじて立っている。しかし、今にも倒れそうなほどふらふらしていた。
「ベイの中に戻れ。そのほうが、お前たちも成長できるやもしれん。ベイの体の負担も、若干早く治るじゃろう」
「……そうします」
そう言うと、フィー達はその場から消えてベイの中に戻った。
「さて、アリーよ。ベイを寝かせてやってくれ」
「分かったわ」
アリーが、強化魔法を自身にかけてベイを運んでいく。その様を、ロロとジャルク。そして、アルティが見ていた。
「……まだ上半身ですからね。私に負担がかかるのは、まだ先になりそうです」
そういうと、アルティは消えた。ベイの中に戻ったのだ。そう。下半身にまで外殻の再現が及んだ場合、その時には腰に有る物が形成される。それは剣。アルティという武器の外殻だ。それを無視することは出来ない。なぜなら、アルティは元からベイと一つであったからだ。アルティは、ベイの魔力を使った魔石で作られている。つまり、彼女は魔力で既にベイと同一の存在だったのだ。それも生まれながらにして。
「……気にはなっていたんじゃが」
「?」
「あれは魔物か?」
「あれって、アルティさんのことですか?」
「そうじゃ。奴を構成している魔力量はとてもでかい。神魔級。いや、それに少し片足を踏み込んだくらいかのう。つまり、本当に魔物なら、あいつはもっとかなり強いはずなのじゃが」
「なのじゃが?」
「魔力は凄いのに、あいつから感じる力は弱すぎる。神魔級とはとても呼べん。しかし、あいつから感じる魔力は間違いなく神魔級じゃ。面白い存在じゃのう。例えるなら、最弱の神魔級と言ったところか」
「最弱?アルティさんは強いですよ。夫が振るうと」
「……なるほど。武器としては最強というわけか。なるほどな。ますます面白い。ベイが使って、初めて神魔級となるわけか。一個体としての強さではなく、使い手がいる前提であやつは存在しているわけじゃな。そんな存在、自然界では出来ようはずもない。もしかするとあやつは……」
「?」
「誰にも真似できない能力その物かもしれんな」
ベイが倒れ、時が過ぎていく。そして、日付をまたぎ、あっという間に次の日の朝を迎えた。




