移動
「意外と早かったな……」
新年開けてから4日目。そんなに時間が立っていないのに、学校への手続きに向かうことになった。まだ聖属性聖魔級迷宮には移動中だ。だというのに、これからは7日間馬車で揺られる事になる。転移でなら一瞬だが……。
「よし、ベイ行く準備はできたな。では行こうか、カエラ」
「ええ」
この通り、保護者同伴だ。このリアクションのいい二人の前で転移魔法を使えば、顎が外れかねない。おとなしく馬車で寝るとしよう。と、思っていたんだが、馬車が来ても二人は乗り込まない。と言うか、三人用にしてはちょっと馬車の乗るスペースが多いな。最後の旅用の荷物は分かる。だがそれ以外に、乗る馬車カゴが2つある。
「早く乗らないの?」
「ああ、実はまだ一緒に行く人がいてな。その人を待っているんだ……。実は、馬車を借りるのは凄くお金がかかる。今回は、そちらの方と半々でお金を出しているんだ。おかげで多少は、安く済んだ」
へー、でもなんで家の前で待ち合わせなんだ。この家は国の端だ、よっぽどじゃない限り、その人を先に乗せてくるべきでわ。
「お、いらっしゃったようだ……」
「ベイ!!」
上空から、風魔法で1人の少女が降り立つ。言わずと知れたアリー・バルトシュルツ、俺のお嫁さんである。
「今日から、7日間は一緒ね!!楽しい旅になりそう!!」
「ああ、アリーが一緒なら最高だね!!7日間もあっという間だよ」
アリーは、そのまま俺に抱きついてくる。うーん、親の前でキスまでしたといえ、やはり照れるなぁ。……というか、アリーが一緒に行くのか。知らなかった。
「おはようございます、ノービスさん、カエラさん……」
「おお、マリーさん。この度はどうも。ベイ、こちらはアリーちゃんのお母さんで、マリーさんだ」
「貴方がベイ君ね。マリー・バルトシュルツよ。合うのを楽しみにしていたわ」
「ベイ・アルフェルトです。お会いできて嬉しいです。よろしくお願いします」
鋭く、どこか温かみのある目、赤い髪に黒いローブ。そして感じる魔力量はかなり大きい。これがアリーのお母さんか、美人な人だなぁ。……胸が結構あるということは、いずれアリーも、ということだろうか……。
「礼儀正しい子ね。アリーが気に入った子だから、どんな変わった子なのかと思っていたのですけど……」
ミズキの可変状で魔力量を抑えているから、見た目普通に見えるだろう。どんなに見られても、ボロは出ないはずだ。滅茶苦茶怪しまれているみたいだが……。
「まぁ、いいわ……。今後も、うちのアリーをよろしくね」
「はい!!もちろんです!!」
「ふふ、良い返事。アリー、いい旦那様を見つけたみたいね」
「はい!!お母様」
「さて、あまり話し込んでも出発が遅れてしまいますね。では、行きましょうか」
前の馬車かごに大人3人、後ろの馬車かごに俺とアリーが乗ることになり。馬車は出発した。
「……というか、アリーも一緒に来るんだね。知らなかったよ」
「ふふ~ん、実は、私達もちょっと用事がね。まぁ、内容は後のお楽しみに秘密にしておくわ」
やたら嬉しそうに微笑むアリー。まぁ、悪いことじゃなさそうだしいいか。
「ところで、ベイ達は今、どういう状況なの?聖属性迷宮には行った?」
「ああ。実は今、行くために転移距離を伸ばしてるんだ。後一日あればつくんだけど、とりあえずこの7日間の後かな」
「なるほど……。私は、今は魔石の研究をしているわ。魔石をうまく使えば聖魔級強化がより楽になると思ってね。それができたら、次は神魔級強化を考えてみるつもりよ」
「うーん、それは面白そうだね。あ、それなら……」
俺は、即座に魔石を作り出す。聖魔級の魔力を流し込んでも、大丈夫な作りの魔石だ。火・水・風・土・雷、それぞれの魔石をアリーに渡す。
「これを使って。神魔級とまでは行かないけど、それなりに魔力を入れても大丈夫だよ」
「わぁ、ありがとうベイ!!大切に使うわね」
嬉しそうに、アリーは微笑んだ。可愛い。うん、いいことをした。……神魔級かぁ。もしかしたら、今の俺なら使えるんじゃないだろうか……。1回、試してみてもいいかもしれないな。帰ったら、カエラとノービスに聞いてみるか……。
(主、ご提案があるのですが)
「うん、どうしたレム」
(この移動中、特にトラブルがなければ動くこともありません。ですので、今のうちに時間をかけて、私達の魔石の魔力許容量をあげようと思うのですが)
「ああ、なるほど……。確かに、良い考えだ、そうしよう」
(ありがとうございます。実は私も、フィー姉さんも、ミルクも、結構ギリギリのところで魔石に収まっている状況です。カヤも、ミズキも、いずれそうなってくるでしょう。そう言う意味では、この時間はある意味ありがたいですね)
フィーは上級なのに、聖魔級で上くらいの魔力があるのか。まぁ、うちのチーム最強だから、それぐらいあっても不思議じゃないよな。
「そ、そうだったのか……。じゃあ、増やせるだけ増やそう。聖属性魔物も仲間にしないといけないから、それも合わせて作るか」
(そうですね。では、私が補助を致しますので、ミズキはその作成で出る魔力の隠蔽をお願いしていいですか?)
(承知)
「つまりこれから、神魔級でも耐えられる魔石を作るのね。うーん、興味が有るわ」
「地味で疲れる作業だけどね。時間もかかるし、レムがいてくれるから少しは楽だけど……」
「うーん、あまり話しかけないほうがいいのかしら?」
「俺1人だったらそのほうが良かったけど、レムもいるから話しながらでも大丈夫だよ」
(おっと、ご主人様!!ここに超弩級の土の魔力を扱える魔物が、もう一人いるのをお忘れなく!!召喚魔力はレムに任せましょう!!土魔法補助は、私にお任せください!!)
「お、ミルクも手伝ってくれるのか?」
(ふふ~ん、前までの私なら魔力もレムに負けてましたから手伝うことを遠慮していたのですが、しかーし!!今の私は、魔力も身体能力もパーフェクト!!必ず、ご主人様のご期待に答えてみせます!!神魔級クラスの魔石だろうと、チョチョイのチョイですよ!!)
ふーん、と荒く鼻息を吐き出すミルク。相変わらずのすごい自信だ。
(そ、それでですね……。うまくできたら、また搾乳を……)
「……」
(あ、いえ、じょ、じょじょ、冗談ですよ!!普通に、手伝います!!!!)
アレは色々問題があるからな。……まぁ、気が向いたらしてあげよう。柔らかいし……。嫌じゃないし。むしろしたいし……。だが、アリーとフィーの前でその話題はやめるべきなんだ。だから俺は、沈黙を保つ。許せミルク。
「搾乳……」
ほら、アリーがまた自分の胸を触って見てるじゃないか!! 大丈夫!! 気にしなくていいんだアリー!!
「ベイ、私はまだ。これからよね!!」
「え。ああ、そうじゃないかな……」
「そうよね。お母様も、結構あるもの。娘の私がこのままなんてことは、ないと思うわ!!」
グッ、と拳をアリーは握りしめる。そこまで大きくなりたいのか……。
「と、とりあえず、魔石を作り始めるよ……」
話題を逸らすように、俺は腕に魔力を集中させる。この旅で、何個の魔石を作るべきだろうか? 新たな仲間用に、最低3つは余分に作っておきたいな……。