思考の中の強敵
「ちなみにじゃが、わしの種族にも上位種と呼ばれる存在がおってな」
「ほうほう」
「そいつがな、わしの生まれた日にこの子はとんでもない力を宿している。と言って、その力を使おうとしたそうじゃ」
「破壊の力ですか」
「それでのう、その場で跡形もなく消えてしまったらしいぞ」
「……」
「わはははは!!」
やっぱ、破壊の力って恐ろしいな。間違っても、真似るのはやめておこう。
「それでのう、数年は自身を破壊する力じゃと周りに思われとったんじゃよ。懐かしい話じゃなぁ」
「そんなあなたを軽んじて、滅ぼされた訳ですか」
「ま、あいつら生きとっても道徳的に問題があるからのう。しょうがないじゃろう。少々野蛮な生き物過ぎたな。致し方あるまい。性格が丸くなった今でも、あいつらは殺してよかったと思っておるぞ」
「どんだけ酷いんですか、あなたの種族」
「ま、わしには指一本触れられんくらいに弱かったと言っておこう。それ以上は語るに耐えぬ」
「そうですか」
「まぁ、何がいいたいかと言うと、そういう相手が使うと死ぬほどの絶大な力を持てば一瞬で勝てるやもしれんぞ、フィーよ」
その言葉を聞いて、フィーは頭を抱えた。無理だろ。常識的に考えて。正直、ミルクの能力でもかなりの高性能だぞ。それでも相手は使えるのだろう。それ以上で破壊寄りとなると、今の俺達では無理じゃないか?
「……ありますね」
「えっ?」
そう、カザネが言う。
「ディレイウインド・フルアクセルブースト。あれは、私の鎧でないと使用できません。でなければ、魔法に体が耐えきれず自壊します」
「なるほど、その手があったか!!」
「ディレイウインドの最高性能。それならば、使えなければ相手はカザネに追いつけず、使えば相手は消滅。うってつけの魔法じゃないですか!!」
「カザネモードつえええ!!」
俺がそう言うと、カザネが胸を張る。いや、実際強すぎる。やはり速さは、何者にも勝る可能性を持っているな。カザネが居てくれてよかった。本当にそう思う。
「じゃから、言ったじゃろ。そう思い込むなと。相手がどう来るか分からんぞ?」
「ですが、フルアクセルブーストならば、魔法の操作をされようと関係がありません。相手が自身にかけても自壊。私達は、自身にかけるので、ほぼノータイムで魔法を使えます。つまり、操作をしても二度目に割り込む隙がないのです。勝利確定ではないですか?」
「じゃから、追いつかれる心配をしろと言っておるんじゃ」
「……むっ。私の主人との絆が、追いつかれると……」
「まぁ、能力に自信を持つのは分かる。特別な思いもあるじゃろう。じゃがな、相手も馬鹿ではない。それに、他の魔法を使えるくらいには、確実に相手の身体は変わっておる。そんなやつが、弱いと思うのか?」
「……い、いえ」
「そういうことじゃ。確かに、使用能力に開きはあるかもしれん。しかし、それが圧倒的とは誰にも言えんのじゃ。お前の能力が、少し相手より早く動ける程度じゃったらどうする?有利性が他の能力で封じ込められれば、お主は仲間もろとも敗北するぞ」
「……くっ。軽率でした」
「それでよい。気を引き締めて貰わんとな。わしも、まだベイを失うのは惜しいぞ。せっかくわしの種を預けたんじゃ。その期待に答えて貰わんとな」
「……こいつ、落ちてません?」
「しっ、聞こえるぞ」
ミルクが、レムに口を押さえられている。何か言ったんだろうか?
「しかし、難しい相手だな。まさか、俺達と同能力、同等の力を持つかもしれない相手とは」
「気を引き締めろとは言ったが、発想は良い。初手で試すのは有りじゃろうな」
「じゃあ、最初はカザネモードであたるか」
「はっきりというが、考えても答えのでん戦いになるじゃろう。何かが上回ったほうが勝ち、足りなかったほうが負ける。じゃが、戦わねばそれが何なのか何も分からん。まぁ、当たってみればいいということじゃ。じゃが、覚悟を持っていけ。勿論戦術もな。それらを持ってから、今回は行くと良い。それが、ベストじゃろう」
「覚悟、か……」
俺は、そう呟くとカザネから、フィーを受け取って抱き上げた。
「フィー。俺達もだが、今回はフィーの覚悟が重要になってくると俺は思う。もし、俺達が今ある力で相手を上回れなかった場合。その時は、フィーの力が頼りだ。たとえ、それで相手が俺達と完全に同等になるとしても、それにかけるしかない場面もあるかもしれない。だからフィー、フィーが覚悟を決めたら言ってくれ。その時、今回は迷宮に挑むことにしよう」
「……はい」
難しい顔をして、フィーは頷く。正直、フィーにこんな事を言うのはちょっと辛いんだけど、でもフィーの属性特化一体化は、俺達の一つの到達点になるだろう。間違いなく、現状で最強の力になるはずだ。だから、今回はフィーに悩んでもらうしか無い。でもきっと、フィーなら何かしらかの答えを持って覚悟を決めるだろう。その時は、きっと相手が上位存在だろうと負けやしない。だって、皆のフィー姉さんだもんな。そう、俺は信じている。いや、そうでなくても、俺はフィーを信じるぞ。それが俺の覚悟だ。丸投げにする信頼ではなく、フィーの望んだ力で勝ってみせるという覚悟が俺にはある。正直、俺が何日か寝たきりになる可能性もあるだろうが、まぁ、仕方ない。それぐらいの覚悟で行こう。
「勝つぞ、フィー」
「……はい!!」
元気よく、フィーは俺の言葉に返事を返してくれた。ありがたい。その言葉で、更に俺の覚悟は燃え上がる。
「ま、それまでは訓練でもして無心になると良い。肉体作りは、戦闘の基本じゃからな」
「……そうだな。じゃあ、訓練しておくか」
「……あの~、お話終わったかしら?」
声のした方を見ると、玄関でアリーがこっちを見ている。俺は、取り敢えずアリーに頷いた。
「じゃあ、取り敢えずそこのを返してくれる。まだ調整中だから、馴染むまで待たないと」
「むっ、そうか。ベイ・アルフェルトよ、もしもの時は私も力を貸す。いつでも呼んでくれ!!」
そういえば、ローリィ出しっぱなしだった。戻したほうが良いのか。なら、戻さないとな。
「ありがとう、ローリィ。気持ちだけもらっておくよ。今は、ゆっくり休んでてくれ」
「いや、正直君と一緒に戦えるのが凄いワクワクする!!ましてや、今度は私が君と一体になるのだ!!今まで共に歩まなかった私と君が、一緒に!!しかも、魔物と人間が!!ああ~、最高だ!!きっと、無限に手が届く力が手に入る。私は、そう信じているんだ!!是非呼んでくれ!!是非!!頼んだぞ!!」
「お、おう。まぁ、体調が良さそうだったらお願いするよ」
「絶対だぞ!!絶対だからな!!」
「お、おう。またな」
そう言うと、俺はローリィを送り返した。
「さて、じゃあ次ね」
「次?」
「そっ。じゃあフィー、後ろ向いて」
「?」
「巨乳に出来るか見るから」
「!?」
そうだ。そういう話だったな。そして、アリーはフィーの背中に手を当てた。




