同等の存在
「……は?」
辛うじて絞り出した言葉でこれだ。まだ頭が混乱している。何故、俺達が苦労して手に入れた力を、何も関係のない妖精の女王が使えるのか。これが分からない。
「だがのう、一応条件があるはずじゃ。使えると言っても、その妖精・フィーが肉体で体験したものでなければ使えぬじゃろう。じゃから、お主たちが獲得した力でも、使ってなものは使えないはずじゃ。あと、発動が限定的なものも使えぬじゃろう。例えば、対象を固定して最適化した能力じゃ。そういうのは、妖精の女王にも使えんじゃろうな」
「となると、鎧を作ることは出来ないわけか。あれは、俺達の誰かに最適化されたやつだからな。あと、能力で使えないとすれば」
「レムのご主人様との完全同調ですね。あれは、ご主人様との間でなければ成立しない」
「完全同調という言い方は、主が私以上の力を得るので合っていない気がするが、まぁ、そうだろう。他のやつに、私の技術まで真似されてなるものか。あれは、主にしか使えんぞ」
「他に、何かあったっけ?」
「私の、物理力操作は使っていません。物理反射は、相手は使えないということですね」
「……無敵神牛の能力を、丸々相手にするのは避けられたわけか。それだけでも、救われている気がするな」
「流石に、相手が物理反射、魔法操作を持っていると思うと、いい気分ではないですね」
「気分どころの問題なもんですか!!私とご主人様との、愛の結晶である能力ですよ!!それを、どこぞの他人に真似されるなど!!このミルクちゃん、ちょっと怒りが溢れて、むかつきますねぇ~!!」
ミルクが、力を込めて拳を握る。 ……やばい。今のミルクが拳を握るだけで、聞いたことのない迫力のある音がする。あれで、拳自体は無傷なのか。どうなってるんだ。ミルク、俺はお前の拳が心配です。
「……皆、ごめんなさい。私のせいで」
フィーが、そう言って頭を皆に下げた。しかし、それを見た瞬間、カザネが後ろからフィーを抱き上げる。
「えっ!!」
それと同時に、俺がフィーの頭を指で軽く押して上げさせた。
「フィーのせいなわけ無いだろ」
「そうですよ!!」
「フィー姉さん、バンザーイ!!」
「カザネの言うとおりだ。フィー姉さん、誰もあなたのせいだなんて思っていません。だって、あなたが望んでこの結果を招いたわけでは無いことを、私達はよく知っているのですから」
「姉さんがどうにか出来ていれば、このようなことにはなっていないだろうからな」
「そういうこと、そういうこと」
「あたるなら当事者に、ですよね」
「そうっすね。しかし、どうするっすか?手強いのは、事実っぽいっすよ」
「いえ、勝つだけなら普通に出来るんじゃないかしら?」
「そうですね。私達の鎧が合って、あれらの魔法は初めてその力を発揮する。鎧が使えないのでは、威力は半減しているでしょう」
「こん!!なら、答えは簡単ですね!!」
「悪用されないうちに、ぶっ飛ばす!!私の、正義の心が叫んでいます。そうするべきだと」
なかなかに、カザネの発言は物騒だが、一理ある。正直、誰かに持たせてはいけないと思えるような力ばかりだ。特にディレイウインドはやばい。便利すぎるし、強力すぎる。
「さて、そう簡単に行くかのう……」
「……レーチェ、何か思い当たることがあるのか?」
「奴は、そこの妖精と繋がっておる。ということは、今までのベイ達の行動も知っておるはずじゃ。となると、ベイ達が来る可能性も考えていたはず。まぁ、何もしてないとは言えんじゃろうな」
「隠し玉を、用意していると?」
「そう考えた方が良いじゃろう。否、それでも不十分じゃなぁ。やはり、最悪で考えておいたほうが良い。こう考えるべきじゃろう。自分たちと、同じ力を持つものと戦うと」
「……」
俺達と、同じ力を持つ魔物。それってつまり。
「属性特化一体化を、すべて合わせたような力の魔物ということですね」
「アルティ」
「貴重なサンプルになりそうです。ですが、それもすぐに杞憂に終わるでしょう。なんせ、全ての属性の解析情報は既にこちらにあります。そして、今は残す所、属性特化を行っていないのはフィー姉さんのみ。……負ける要素がありますか?」
「……確かに、そう考えると何もな」
「あるじゃろ。その妖精が一体化した瞬間。つまり、それは妖精になる。一体化した時点で、相手に全ての能力が渡ると考えていいじゃろう。要は、一体化した時点で完全に相手に互角の力が備わると考えて良いじゃろうな」
「……」
「最悪ですね」
「つまり、今回は属性特化一体化をしないほうが、楽に倒せるかもということか?」
「そうかもしれん」
その言葉に、フィーの表情が暗くなる。ええーい!! そんな表情、フィーには似合わん!!なんとか出来ないものか。
「ちょっと待って下さい。まぁ、戦う理由は分かったのですが、必ずしも倒す必要があるのですか?」
ミルクが、レーチェを見てそういう。
「害がない相手なら、今は放置するという手もありますが」
「悪いことは言わん、倒しておけ。上位存在という個体は、全てではないが、相手を引き寄せる召喚のような能力を持っておる。相手が何を考えているのかは知らんが、それが創世級との戦いの間に使われてみろ。その妖精が、突然戦地から消えるぞ。普通の相手ならば、なんてこともない一瞬かもしれん。だが、相手が創世級であった場合。一瞬の戦力低下も死に繋がりかねない。殺しておくんじゃな。それも、力がある程度高まっている今のうちに」
「……なるほど。こちらには、殺す理由も十分にあるということですか。ということは、後は相手の思惑次第ですね。相手の考え次第では、そのまま殺さなければならない。そういう事になりそうです」
「……まともな相手って、可能性は無いのかな?」
俺も、自分でその発言を言っていて考えるが、風・雷・光・水。人類と敵対的行動をとった者が、実際多い。火は、こっちのことも考えてはくれてたけど、実際は脅迫してたしな。土はよく分からないが、有効的ではなかった。闇は、クローリだったから、ある意味では友好的だったと言えるかな。あれ、まともな相手いないじゃん、これ。戦わなければ、話し合えないやつばっかじゃん。
「諦めろ。魔物も、自分たちの都合優先じゃ。そうそう分かりあえるものではない」
「そっか……」
レーチェの言葉に、俺は頭を抱えた。ああ~、これ戦うことになる。戦うことになる気がするぞ。俺は、そう思うことしか出来なくなっていた。




