魔力で成長を促すということ
「いや、そんなことを急に言われてもだなぁローリィ。俺は、レーチェみたいに美味い野菜なんて作ったことが……」
「なるほどのう。……いい考えやもしれん」
「えっ?」
そういうと、レーチェは種を取り出した。
「食後に試してみるとするか。のう、ベイよ」
「は、はぁ……」
よく分からないが、何かやる価値はありそうだ。その後、取り敢えず俺達は食事を済ませてから、レーチェの後に続いて、庭に出ることにした。
「さて、これを使うと良い」
そう言って、レーチェが俺に種を投げ渡す。それを、俺は受け取ると、畑の前に移動した。
「で、どうすればいいでしょうか、レーチェ師匠?」
「師匠とな。悪いが、教えはせんぞ。こればかりは、わしも乗り気で教える気にはなれん。わしの楽しみであり、努力の証じゃからな。色々と考えて作った魔法なんじゃよ。さて、それをやってみよというわけじゃが。無理か?」
「が、頑張れ~!!ベイ・アルフェルト~!!」
「……取り敢えず、やってみますよ」
「おう、いい心がけじゃ。では、やってみせよ」
「……」
とは言うものの、植物の成長促進なんて、どうやるんだ? 回復はできるんだよなぁ。回復は。折れた木の幹から、新たに木を再生させるとか。そういうのに近いのかもしれない。だが、それはあくまでも再生。成長ではない。うーん。
「どう思いますか、ミルクさん?」
「そうですねぇ。成長というのは、細胞の変化です。それを加速する。言うは易しですが、出来るかは私にも分かりませんね。ただ、単純な魔力の組み方でないのは、確かだと思うのですが」
「……ああ~、なるほど。ミルク、お前最高。的確に答えをくれた」
「えっ?」
「細胞の変化で、それを加速させるんだろ」
「……気づいたようじゃな」
「俺達もやったじゃないか。外殻を作るってことを」
「ああ~!!あれですか!!確かに、あれも外側に細胞を変化させて作っていることになりますね!!」
「つまり、そういうことだよ。植物に、魔力を流して外殻を作らせてやるんだ。ただし、俺達とは違って、それが本体になる。つまり、肉体その物の変化をさせてやるんだ。それも魔力で」
「そう。そういうことじゃ。ただし、これは大雑把には出来ぬ。植物に使うわけじゃからな。繊細に魔力操作をしてやらんと、すぐにその繊維はボロボロになり砕ける。食えたものではないぞ。さて、やってみるが良い、ベイよ」
「おう!!」
俺は、種を畑に埋める。そして、目を閉じて魔力を種に集中させた。俺の魔力を受けて、徐々にではあるが種が細胞の変化を進める。焦らず、ゆっくりと種に魔力を流し込む。その魔力が種自身の外殻を作り、それが成長先になるように魔力を送り込んでいった。すると、あっという間に種から芽が出始める。それは次の成長先を目指して魔力で細胞を変化させ、まるで多くの時間を一瞬で過ごしているかのように成長し始めた。
「上手いぞベイよ。一回やっておるからな。このぐらいならなんともないかのう?」
「ああ。自分の時は、外殻が勝手に魔力を欲し始めたから余裕がなかったけど。こっちは、求められてもその量が少ないからかなり気が楽だ。魔力操作に集中できる」
「本来なら、こちらを基礎としてやらせるべきだったのかもしれんのう。じゃが、発展型を経験したとはいえ、基礎は大切じゃ。これで、少し練習してみるのもよかろう。外殻づくりが、少し楽になるやもしれんぞ」
「かもしれないな。……ふぅ」
俺は、畑に実ったそれを手に取った。それはレタスだった。それを、俺はちぎって口に放り込む。
「……うん、美味い」
「本当か!!」
俺は、ローリィにレタスの葉をちぎって渡した。
「あむっ!!……うん、美味しい!!すごい!!さっきのと、引け劣らない味だ!!」
「わしの作った種じゃからな。当然じゃろ」
「……でも、ベイ・アルフェルトが成長させたものだ。お前のじゃない!!」
「ふふっ。まぁ、そうじゃな。ベイよ」
レーチェは、そういうと何種類かの種を俺に投げて渡した。
「これで練習すると良い。ただし、いつか自分で自分の作った美味い野菜を作るんじゃぞ。それまで、それは好きに使うとよい。ま、わしは超えられんじゃろうがな!!ナハハハハ!!!!」
そういうと、レーチェはロロとジャルクに目で合図した。
「今日も同じことをする。準備せい」
「はい!!」
「クァ~!!」
そういうと、ロロは逆立ちをし、ジャルクは四肢を踏ん張って構えた。その2人の上に、レーチェが岩を魔法で作って乗せる。それを、2人は乗せたまま筋トレを始めた。
「1、2!!」
「クァ~、クァ~!!」
その動きを、レーチェは黙って見つめている。そのレーチェの隣に並ぶように、俺は移動した。
「どうした、ベイよ?」
「レーチェ、聞きたいんだけど」
「なんじゃ?」
「なんで、妖精の女王を殺さないといけないんだ?」
俺は、レーチェに聞きたいことを聞くことにした。フィーの為にも、この話は早めに聞いておくべきだろう。俺のその言葉に、フィーも顔を真面目にしてレーチェの言葉を待っていた。
「何故、ときたか。そこの妖精は、分からぬのか?」
「どうだ、フィー?」
「……いえ、分かりません」
「そうか。……ならば話してやろう。ベイよ。奴は、お前たちにとって最悪の敵じゃろうな」
「俺達にとって?」
「そうじゃ。たまにいるんじゃ、種族を統括する上位種のような存在が。それらは、自身の種族のものの技を体得し、それを管理するすべを持っておる。勿論、それが自分と同じ種族であるのならば、強制的にとも言えるほどの力でな」
「なるほど。つまり、フィーもその対象であると?」
「そういうことじゃ。その妖精が使える魔法。それを、奴も使うということじゃ。……ただ、それだけじゃといいんじゃがのう」
「えっ?」
「一体化と言ったか。あれ、全部をひっくるめて一体となるじゃろう。つまり、あれも妖精であると一部的には言えるわけじゃ」
「……つまり?」
「分かるじゃろ。奴は、お前たちが使える全ての魔法を使えるかもしれんのじゃ。それも、一体化の特殊魔法も含めてな」
……その時、俺達の誰もが、その事実に言葉を発するのをやめた。




