創世級と元〇〇
「うっ、ううう、うっま、うっまい!!」
「落ち着け、ローリィ!!落ち着け!!」
「落ち着いてローリィちゃん、どうどう。どうどうだよ」
俺とフィーが、立ち上がったローリィをなだめる。すると、ローリィは我に返って席に座った。
「わ、私としたことが!!……しかし、これが美味いという感覚か。初めて知った感覚だが、私には分かるぞ。これが、美味いということだろう!!なぁ、そうなのだろう、ベイ・アルフェルト!!このスープを口にした瞬間、身体が喜んでいる!!これが、これが食事をするということか!!!!ズ、ズズ、ズズ~~!!!!」
そういうとローリィは、あまりにも速い手付きでスプーンでスープを掬い、皿の中にあるスープを全部啜り飲みきった。
「……プッハァ~!!……無い!!無いぞベイ・アルフェルト!!さっきまでこの皿になみなみとあったのに、スープがもうない!!……おかしい、いつ飲んだんだ!?……でも、私しかこの皿に手を付けていない!!私が飲みきったのか!?……うわあぁぁあああああ~~~~~!!!!スープがもう無いいいいいい~~!!!!」
「やれやれ、しょうがないやつじゃのう。誰か、この食いしん坊に、スープのおかわりをくれてやれ」
「えっ。今日は、1人一皿分しか作って無くて……」
ヒイラが、申し訳無さそうにそういう。
「な、なんだって……。そ、そんな……。この感動を、もう、味わえないというのか……」
「ほうほう、そんなに美味しかったのかのう~。わしの作った、野菜で出来たスープが」
「……なに?な、なんだと!!これの具材を!!この野菜を作ったのが、創世級だというのか!!」
「そうじゃ。わしが作った、野菜で出来たスープじゃ。どうじゃ、うまかったじゃろう?うまかったじゃろう?」
「くっ!!恐ろしきかな創世級!!まさか、生物が生きるために必要な野菜まで、その力で作り上げていたとわな!!この旨味がたっぷり詰まった野菜で、全生物の味覚を支配し、支配下に置こうという魂胆だろう!!だが、もう私はその事実を知ったぞ!!だからもう、私はこの野菜スープを飲まない!!お前なんかの、策略に嵌ってなるものか!!絶対。絶対だ!!」
「ほうほう、そうかそうか。ところでのう、ここにその具材になった野菜があるんじゃ。こいつがのう、生で齧っても美味しいんじゃよ。ほら、どうじゃひとくち」
「くっ、やめろ、近づくな!!私に、そんな物を近づけるんじゃあない!!く、口に押し込もうとするな!!力が強くて、抵抗できな!!……うっ、うっっっまああああああああああああいいいい~~!!!!」
ローリィが野菜を口にした途端、魂からの叫びを上げた。めっちゃ美味かったんだろうなぁ~。
「ほれほれ、どうした~。まだ残っておるぞ。残してはもったいないじゃろう?そら、自分からかじってみてはどうじゃ?」
「うっ、やめろ~!!私の口に、それを近づけ……。はむっ……。うっまああい!!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。ほれほれ~、まだまだあるぞ~!!」
「……美味しい!!美味しいよ~!!……グスッ。でも、嫌だ~!!創世級の思惑通りになんて、動きたくない!!助けて~、ベイ・アルフェルト~!!助けてくれ~!!」
後半、涙を流しながら俺に助けを求めてくるローリィ。その間も、次々と口に運ばれるレーチェ印の野菜を、ローリィは嫌々ながらも口に運ばれると食べてしまい。美味しい、美味しいと呟いていた。そのローリィを、俺はレーチェから抱っこする形で取り上げて、自身の膝の上に座らせる。ローリィは、フィーの隣に座る形になった。
「はいはい、ストップストップ。あんまり食べさせると、まだお腹を壊しちゃうかもしれないからね。そこでストップだ、レーチェ」
「むっ、失敬な。わしの野菜じゃぞ。お腹に優しいに決まっとるじゃろうが!!」
「ヒック。……助かったよ、ベイ・アルフェルト。創世級の魔の手から救ってくれた。命の恩人だ」
「はいはい」
若干、まだ泣いているローリィの背中を擦る。まるで赤ん坊をあやしている気分だ。元魔王さん、なにやってるんだよ、あんた。
「ふっふっふ。これで逃げたつもりか?言っとくがのう、この家庭の野菜事情は、わしが既に握っておる!!そこの野菜炒め!!そこのサラダ!!そこの付け合せに至るまで、全て、わしの野菜なのじゃあああああ!!!!」
「な、なんだとおおおおおおおお!!!!」
「お前は逃げられぬ!!この家庭にいる以上、貴様は、わしの野菜しか口に出来ぬのだ~~!!見届けてやるぞ!!貴様が、無様に落ちていくさまを~~!!!!」
「う、うわあああああああああああああああ~~~~!!!!」
絶望した顔をしながら、目一杯力強く俺に抱きついてくるローリィ。それを、よしよしと撫でて落ち着かせる俺。なんだよこれ。ちょっと前までこいつと命のやり取りをしてたのに、なんでこんなに信頼されてるんだよ。意味分かんないよ。
「助けてベイ・アルフェルト~!!助けて!!」
「クハハ!!無駄じゃ無駄じゃ!!これを食ってみろ。わしの野菜に追いやられた、この星産の格下の野菜じゃ。腐るのも勿体無いから交配に使えるか見ようと持っておったが、これを食えば分かるじゃろう。事の次第の大きさが」
レーチェは、そういうとレタスを投げてよこす。それを俺はキャッチしてちぎり、ローリィに食べさせてあげた。恐る恐る、あむあむシャキシャキとレタスをローリィは食べる。というか、交配用にレタスを取っておいたのか? まぁ、レーチェならあの状態からでも成長促進して種まで持っていけるのかもしれない。
「……うん、まぁ、うまいんじゃないか?良いと思うよ、私は。飾りっ気がなくて、いい味じゃないか」
「物足りないんじゃろう?」
「……」
「それ単品でそれじゃ。今、自然と脳内で比較したじゃろう。わしの野菜と、それを。……分かったはずじゃ。どちらが優れているのかを」
「くっ!!」
「我慢できるのか?優れたものがあるのに、うまいものがあるのに、その味で我慢できるのか?出来んじゃろう?その通りじゃ。お前は我慢できぬ。何故なら、お前の身体が欲するからじゃ!!栄養を!!旨味を!!だからこそ、お前はわしには逆らえぬ!!お前は今日から、わしの野菜ファンになるのじゃああああ!!」
「うっ、うわああああああああ~~~~!!!!」
また俺に、強く抱きつくローリィ。そのローリィを、フィーまでも背中を撫でて慰めていた。お姉ちゃんだな、フィーは。
「ベイ・アルフェルト助けて~!!……そうだ!!ベイ・アルフェルト、君が野菜を作ってくれ!!それなら、私も安心して食べられる!!」
「……なんじゃと?」
レーチェが、俺に目線を向けてきた。




