続く未来に割り込む影
夢を見ていた。楽しい夢だった。平和になった世界で、皆と、あの人と遊ぶ夢だ。もう、自身と仲間たちに対抗し得る相手などいない。毎日が平和だ。崩れることのない、約束された平和。それは、とても素晴らしい物だった。
「マスター!!」
あの人目掛けて、フィーはかけて行く。しかし、その瞬間視界が切り替わった。それは、どこかの森の中。森の植物たちは、神秘的な光を放ち、辺りを照らし出している。その中を、多くの妖精たちが飛び回っていた。妖精たちは、誰もが笑顔で笑い合っていた。しかし、その光景にどこかフィーは違和感を覚えた。誰もが笑顔だ。笑顔でないものがいない。おかしいとフィーは思った。だがそれも一瞬、特に気にすることもないだろうと、フィーは他人事のように辺りを見回し始めた。
「平和的な光景でしょう。穏やかで、それでいて尊い」
「?」
何かが、フィーに話しかけてきた。しかし、フィーは言葉を発さない。自身に言われた言葉だったのか、若干の迷いがあったからだ。
「貴方もそう思うでしょう。貴方も私達の仲間。皆を見て下さい。嬉しそうに、毎日微笑んでいる。でもね、皆、自身で気づいていないのです。自分たちが、どれだけ力ある存在であるかを。だから、誰かが皆を守ってあげなくてはいけません。……貴方なら、それが出来ます。どうですか、ここに帰ってきませんか?」
「???」
フィーは混乱した。やっぱり、これ自分に言われてる言葉じゃないんじゃないかと思った。しかし、そうであるらしかった。
「どうしました?」
どうしたもこうしたもない。勝手なことばかり言われて、訳が分からない。取り敢えず、こういう時は深呼吸をしよう。フィーは、落ち着くべく深呼吸した。
「すぅ~、はぁ~」
「どうしました、息を吸って吐いて?」
やはり、この声はフィーに話しかけているらしい。取り敢えず、フィーは思ったことを口にすることにした。
「いえ、この子達は私の仲間ではありません。見たのも初めてですし、だいたい見た目が違う。あんな目を、私はしていません。あのように、昆虫のような羽も既に私には無い。貴方は勘違いしているんじゃないですか?仲間とは、心を通わせて誰かと共に人生を歩むことです。だから、この子達は私の仲間じゃありません。そして、私の家もそこではない。貴方の言っていることは、全てが滅茶苦茶です。あっていません」
「……そうでしょうか?ですが、貴方も妖精なのでは?」
「それの、何が関係あるのでしょうか?妖精であることと、その質問の何が関係しているのでしょうか?私が妖精であろうとも、私の仲間はここにいる子達ではありません。それが事実です」
「私の亡き後は、貴方が妖精の王になる確率が高いのですよ?」
「いえ、なりませんよ。私は、マスターのお嫁さんなので。それに、王とか興味ないです」
「いえ、そういうものではなくてですね。王が消えれば、誰かが王になる。そういうものなのです。そして、現在妖精で一番力が強いのは私の次に貴方です。ですから、そうなりますよ。なので、貴方はこの子達を守らなければいけません」
「?」
フィーは、首を傾げた。
「いえ、なりません。進化のことでしょうか?勝手に進化が起きて、その王になると、そう言っているんですか?」
「そうですね。多分その解釈であっています。私も、いきなり身体が変化しましたからね」
「でしたら、私はなりませんよ。そんな進化を望んでいません。ですから、なりようがない。それに、私の進化はマスター達と共にある。貴方達の為にはないのです。なので、王にはならないでしょう。確率0%です」
「いえ、なるならないでは無くてですね」
「ああ~、そういうことですか。それも解釈違いですよ。進化というのは、勝手に起こるものではありません。きっと、貴方と繋がっている迷宮が貴方をそう変わるようにしたのでしょう。ですので、勝手になるわけでは無いのです。そして、そちらの迷宮の魔力は、私に干渉できない。何故なら、私はマスターと共にいるからです」
「いえ、出来ますよ」
「?」
何故と、フィーは思った。
「私と、貴方は繋がっていますから」
「?」
「私は妖精の王。全ての妖精の力を持ち。管理することができます。ですので、貴方とも繋がっていますよ。そして、私を通して、迷宮が魔力を送ることも可能です。ゆえに、貴方は次の王となる」
「いや、無理ですよ。マスターの中ですよ?今や、その領域は仲間たちの魔力に染まって外的魔力が入ってくるスペースは無くなっています。故に、私にその魔力、貴方との繋がりが届くことは極々稀でしょう。それに、先程も言いましたが私にはそういうふうに進化する気が一切ないので、魔力が来てもマスターのために使うだけです」
「どうやら、承諾はしていただけないようですね」
「えっ、当たり前じゃないですか。私には、どこにも特になる要素がありません。むしろ損失です。そんな場所に行きたくもありません。私の家は、別にあります」
「……分かりました。では、私はその時が来るまで口をつぐんでいることにしましょう。最も、その考えならば、貴方はこちらに自分から来ると思いますけどね」
「?」
そう誰かが言うと、フィーは目を覚ました。目をこすって起き上がると、見慣れない黒髪の少女がベッドに座っている。その少女は、目を開けてその青い瞳でフィーを見た。
「やぁ、フィー姉さん。お初にお目にかかる。私はローリィ。ローリィ・アルフェルトという新参者だ。以後、よろしくお願い致します」
「あ、どうもこんにちは。フィー・アルフェルトです。どうもご丁寧に……」
そうフィーが言っていると、いきなり、ローリィの胸辺りが巨大化した。正確には、巨乳になった。
「!?」
「ああ~、今身体を朝から弄くられていてね。この私の背中に手をついているアリーという少女にね。どうやら、アリーの背中に手をついているベイ・アルフェルトのお陰らしい。全く、驚いた能力だ。まさか、他人の魔力体に干渉まで出来るとはね。しかし、複雑な気分だよ。どんどん私の肉体が女性らしくなって……」
「アリーさん!!それ、フィーにも出来ますか!!」
「ん?ちょっと待って、それは後で見てみないと分からないわ。ちょっとこっちに集中させて」
「分かりました!!待ちます!!」
フィーは、元気にそう言うとベッドに正座した。
「ふむ。これの何がいいんだろうか?私には、分からないな」
ローリィは、そう言いながら自身の胸を揉みしだいた。
「それには、夢が詰まっているんだよ。目には見えないけどな」
そう俺は言う。
「へ~、夢か。なら、素晴らしいものってことだね。意外と」
ローリィは、その言葉を聞くと、誇らしげに胸を張った。




