一心一体
取り敢えず、お風呂からでる。そして、木製の椅子に腰を降ろした。
「……ん?」
いかん、瞼が重い。風呂から上がって気づいたが、もうすぐ寝れる。なんだったら、このまま寝れる。寝転べばすぐにでも。それぐらい今、体温と眠気がいい感じだ。しかし、このまま寝るわけにも行かない。早く、身体を洗って上がろう。ベッドに行こう。俺は、そう思った。
「主、ちょっと待ってくださいね」
「ん?」
見ると、レムが石鹸を泡立てている。その光景を見て、俺が僅かに目をつぶった次の瞬間、俺の身体は、泡まみれになっていた。
「んんっ!?」
「はい、流しますねぇ」
見ると、レムも泡まみれだ。一瞬。本当に一瞬である。一瞬で、全身のあらゆる部位を撫でられたのだ。レムに。正直、ミズキも桁外れの手際の良さだが、レムも大概だなと思った。まぁ、一体化無しで、通常の一体化(ディレイウインド有り)よりも斬撃が速いからな。こんなもんか。
「……」
俺は、黙ってレムに泡を流されるのを待った。お湯が、ゆっくりとかけられていく。こっちは流石に、一瞬とは行かないか。
「流し終わりましたよ」
そういうと、レム自身は頭から豪快に桶を真っ逆さまにしてお湯を浴びた。ワ、ワイルドだ。そう言えば、レムは髪が長いのだが、それを纏めることもなくお湯に入っている。あの髪、そんな雑な扱いだと言うのに、あり得ないほどサラッサラだ。人間と同じに見えるが、あの髪もどこか違う特殊物質なんだろう。手入れ不要の素晴らしい髪、羨ましい。……そう言えば、俺も髪いじってないけど毎日いい感じになってるよな。ミズキ辺りの仕業だろうか。普通なら、汗をかくとぺったりとしてくるもんだけど、そう言えばあんまりならないよな。とても有難い。
「ふぅ~。では、上がりましょうか、主。私も、眠くなってきました」
「ああ、そうだな」
お風呂場から移動して、脱衣所で共に着替える。そのまま、俺達は寝室へと向かった。
「……あっ」
「おっと」
あまりの眠気に、俺はよろめく。その時、レムが俺の真正面に周って、素早くその胸で俺を受け止めてくれた。うん、胸でだ。今、俺の顔は、レムの胸に挟まれている。
「……すまん、レム」
「いえ、良いんですよ」
レムが、力を入れて俺を立たせる。本当、軽々と持ち上げるよな。魔力の神秘だ。今の俺、結構重たいはずなんだけどなぁ。そう思いながら立たせられると、ふっと、レムと目が合った。
「……」
「……」
ああ、お互いの望んでいることが分かる。目を見ているからでもない。魔力で繋がっているからでもない。俺とレムだから。絆でつながっているから、相手の思っていることが分かる。
「主」
その言葉は、合図だった。お互いに、背中に手を回し合って抱き合う。そして、顔を近づけると、静かにキスをした。
「んっ……」
甘く、そして温かい。それでいて、レムの唇は驚くほどの肌触りの良さだ。いつもキスはしている。でも、今日はそれをより強く感じた。いつもレムは、こんなにも長く唇を合わせては来ない。短く、数多くレムはキスをする。だが、今日は違った。唇を付けたまま、俺を更に求めるように、レムはキスを続ける。離さず、お互いを確かめ合うようにレムはキスを続けた。そして、名残惜しそうにレムは、ゆっくりと唇を離す。
「主。やっぱり、私達は繋がってるんですよ。こんなにも、温かい絆で」
「ああ、そうだな。俺も、心が温かい。でもな」
俺は、そう言うとレムを、壁際に押さえつけた。
「えっ」
「まだ足りないよ、レム。もっと、お前を感じたい」
「あ、主、んむっ!?」
そのまま、俺はレムに唇を押し付けた。今度は、俺がレムを求めるように唇を動かす。あのままではやめられない。だって、レムが我慢をしたからだ。俺とのキスで、遠慮をした。だから、俺は強引にだけどキスを続けた。だって、もっとレムに求められたかったから。まぁ、別の意味では、俺がキスを続けたかっただけとも言う。
「んっ、主……」
「レム」
長い間、俺達はそこでキスをしていた。俺の求めに、レムも答えて、俺を求めてくれた。そしてある程度の時間が過ぎ、お互いに唇を離す。これ以上はまずい。皆が、こっちにやってくるだろう。俺達の戻りが遅いからだ。そう、俺達は思った。
「……そろそろ、行きましょうか」
「……ああ」
俺とレムは、そのまま手を繋いで寝室へと移動した。
「主」
「ん?」
「私、守ります。大好きな貴方を」
「……俺も、レムを守るよ。レムが大好きだからさ」
どんな絶望的な敵が相手でも、俺達には負けられない理由がある。それは、俺達の強さの証でもある絆があるからだ。失えない。この幸せを。だから、俺達は立ち止まらず進むだろう。この先に、まだ見ぬ巨大な壁が待っていたとしても。
*****
「見てみて。おっきなお花」
「本当だ!!おっきい!!」
それは、魔力で作った花だった。その花を、誰かが覗き込んでいる。それは妖精。フィーと同じ種族の魔物だ。だが、その顔は人間に近くありながらも、人間とは言い難い。肌は人間のようだが、目は昆虫のように、一色の色に輝いていた。
「ニヤリ」
見てと言っていた妖精が笑う。すると、その花から大量の水が吹き出した。
「わあああああ~~!!!!」
「あはは!!引っかかった!!ひっかかった!!」
妖精は笑う。しかし、その水圧は笑い事ではない。生身の人間であれば、それを受ければ骨が折れ、死を覚悟する。だが、吹き飛ばされた妖精は、負けじと同じような威力の魔法で攻撃を始めた。
「やったなぁ~!!」
「あはは!!あててみ~なさい!!」
彼女たちにとって、その魔法が脅威でないわけではない。だが、身体の骨が折れるほどではない。けど、その水圧を受けた妖精の手は、自身の血で汚れている。それさえも気にせず、妖精たちは楽しく笑いながら魔法を打ち合っていた。
「えい、えい!!」
「あっ、当たっちゃった!!」
風の魔法で、水の妖精の羽が切断される。そして、妖精は地面へと落ちていった。その光景を、風の妖精は無邪気に笑いながら見ている。
「あはは!!あはは!!」
すると、空間が揺れた。そして、何かが落ちていた水の妖精を捕まえた。それは、巨大な妖精であった。白く、八枚の羽を持った妖精。
「はしゃぎすぎですよ、貴方達」
「は~い!!」
短い叱りの言葉だ。だが、それで妖精たちには十分だった。どうせ、言っても聞かないのだ。この場で大人しくするだけ良しとしよう。そう、その白い妖精は考えた。そして、彼女たちに回復魔法をかける。すると、すぐに彼女たちの欠損した羽や、腕は元通りになっていった。
「「ありがとう~!!」」
そういって、二匹は飛んでいく。その光景を、白い妖精は見送ると、また姿をブレさせて消えた。




