次目的地
そういえば、帰ってきた時に庭に誰か居たなぁ。急いでいたからちゃんと見なかったけど、誰だったんだろうか? 俺は、ふと気になって庭に出ることにした。
「200。201。202」
「うむ、その調子じゃな。手のひらから出ている魔力も安定しておる。300になったらやめるとしよう」
「う、うん」
俺が庭を見ると、ロロが逆立ちした状態で、レーチェを足の上に乗せて腕立て伏せをしていた。よく見ると、手のひらから魔力を放出させて、若干空中に浮いている。その状態で、ロロは腕立て伏せをしていた。ちょ、超人的過ぎる。
「おう、ベイよ。決着がついたようじゃな」
「ああ、レーチェ。終わったよ。で、何をしてるんだ?」
「見ての通り、稽古をつけておる。出来るだけ早く強くなりたいと言うのでな。身体強化、魔力コントロール、全身の筋肉強化の全てが出来るこの修業をしてもらっているわけじゃ」
「221。222」
「確かに、全てに効果がありそうだけど、無茶苦茶キツイんじゃないか?」
「当たり前じゃ。負荷をかければかけるほど、魔物にはよく効く。人間じゃと、すぐに壊れてしまうがな。ロロなら大丈夫じゃろう。後で爆睡するじゃろうが」
「……まぁ、そうだよな」
俺は、庭に腰を下ろして真剣に腕立てをしているロロを見つめる。まだ幼いながらも、ロロは必死に力を奮ってトレーニングに励んでいた。もう、里の族長ぐらい、普通に殴り飛ばせるのではないか? ふと、俺はそう思った。
「もうさ、こんなこと出来るぐらいだし、ロロってかなり強いんじゃないか?」
「幼子にしては、と言っておこう。自重を腕で支えるくらい、魔物なら普通じゃ。じゃが、これほどの力があれば、上級くらいには攻撃が効くんじゃないかのう」
「これでも、上級程度か」
「まぁ、それでも力は使い方次第じゃ。技によっては、既に聖魔級にも届く力であろう。2人でなら、なんとかなるのではないか?そうじゃろ、ジャルク」
「く、クァ~」
ジャルクの声がする。その声のした所を目で追うと、ジャルクが巨大な岩の下敷きになっていた。
「ジャ、ジャルク~~!?」
俺は、ジャルクに駆け寄った。
「ベイよ。そういう修行じゃ。のけるなよ」
「えっ!?これ、修行?潰れてるんだけど?」
「純粋に、四肢を鍛えておる。あと、翼じゃな。翼でのけろと言ってある。翼に力を入れておるはずじゃ」
「く、クァ~~!!!!」
ジャルクが、一際大きな声を上げる。すると、ジャルクの背中から岩が転がり落ちた。変わりに、空中には大きな翼が二枚羽ばたいている。ジャルクの広げた、龍の翼が。
「クァ~~!!」
「ジャルク、お前、翼が!!」
「クァ~!!」
ジャルクは、広げた翼を羽ばたかせる。すると、少しだがその胴体が浮いた。
「おお~~!!」
「ジャルク、飛ぶ!?」
ロロが、腕立てを中止してジャルクを見ていた。しかし、無慈悲にもジャルクの背中に新たなる岩が出現する。その重みで、ジャルクは再び地面に落下した。
「グァッ!?」
「ジャルク~~!!!!」
「まだ修行中じゃぞ。逃げるな」
「クァ~~」
ジャルクは、悲しそうに鳴いた。俺は、そんなジャルクを優しく撫でた。
「頑張れ、頑張れジャルク」
「クァ~」
ジャルクの目に、闘志が戻る。ジャルクは、再び四肢に力を入れて、岩を押しのけようとあがいた。
「へい、我が夫。私にも激励プリーズ」
「あ、ああ。ロロも頑張れ」
「これで、倍速でいける。293!!294!!」
宣言通り、ロロは倍速で腕立て伏せをし始めた。強い。
「300!!」
「うむ、終了じゃ。よし、わしの野菜を食え。栄養を取るのも、修行には必要じゃぞ」
「あむっ、うまい」
「クァ~~!!」
レーチェは、ジャルクに乗っている岩もよけて、野菜を2人に渡した。それを、美味そうに2人は口に運ぶ。その姿を、レーチェは満足そうに見ていた。
「……ジャルク、飛べる?」
「クァ」
ロロがそう言うと、ジャルクは食べるのをやめて、翼を羽ばたかせた。すると、ジャルクの身体が浮いていく。そして、ジャルクは地上を飛び立った。
「おお~~!!ジャルク飛んだ~!!」
「飛んだなぁ!!」
「あれでは、自重で精一杯じゃろう。ロロを乗せては、まだ無理そうじゃな」
「クァ~~」
「ジャルク~!!格好いい~!!」
「クァ~~!!」
ジャルクは、ゆっくりと地上に降りてくる。そして、また野菜を食べ始めた。
「ジャルクも成長した。これで、族長ぶっ殺せる!!」
「いや、殺しちゃだめでしょ」
「まだ無理じゃろうな。じゃが、わしが見てやる。勝てるようにな。以降、毎日ここに来るのじゃぞ。そうすれば、勝たせてやる」
「分かった」
ロロも、野菜を食べる。だが、あるところで急にロロの動きが止まった。
「えっ、ロロ?」
「……」
ドサッと、ロロとジャルクが同時に倒れる。駆け寄って見ると、二人共寝息をたてていた。
「ね、寝てる」
「栄養も補給して、即座に睡眠にうつる。完璧じゃな」
「な、なんとハードな」
「言っとくがのう、ベイよ。お主の魔力で外殻を作る修行の方がハードじゃぞ。それも数倍」
「……そうか。そういえば、血を吐いたなぁ」
「お主も、修行を怠らんことじゃな。いつになるか分からんぞ。彼奴等が出てくる日は」
「……分かった」
俺は、ロロとジャルクを抱えて、家に戻ろうとする。
「ところでベイよ」
「うん?」
「もし、あの妖精と契約を解除しろと言ったら、お前はどうする?」
「妖精って、フィーのことか?」
「そうじゃ。お前の仲間の中で、一番大きな魔力を保有しておる、あの妖精じゃ」
「……俺は、フィーと別れる気はない」
「……そうか。ならば、次にお主達が行く所は、決まったようなもんじゃな」
「えっ?」
「全属性迷宮。妖精の住処に行って、妖精の女王を殺せ。じゃなければ、妖精と契約を切ることじゃな。後方の憂いを断つ。勝つためには、必要なことじゃぞ、ベイよ」
「……」
俺は、頭が混乱していた。何故、フィーと契約を切らなければいけないのか? 何故、妖精の女王を殺さないといけないのか? それらの疑問に俺は、答えが欲しかった。だが、俺はそれを聞くのを躊躇した。自身が疲れているのもあったし、ロロ達を抱えているせいでもある。それと、何故か言いしれぬ不安を感じた。だから、俺はその場では何も聞かず、黙ってロロ達をベッドに連れて行くことにした。
「恐らく、ベイたちにとって最悪の敵と向き合うことになるじゃろう。ま、それも良い修行かのう」
レーチェは、そう言うと畑に種を蒔き始めた。




