召剣封牛
「?」
レムの動きが変わる。まるで、自身の腕を確かめるかのようにレムは腕を見た。そしてその後、目の前のクローリを見る。まるで、いきなり別人になったかのような動きだ。それもそのはず。今、レムモードの鎧の制御権は俺、ベイ・アルフェルトになっていた。
「えっ?」
「その声、ベイ・アルフェルト!?」
クローリが、興奮したように霧の身体で殴りつけてくる。だが、それを俺は何事もなく回避した。
「はっ?」
俺は、頭が混乱していた。試しに、俺は片腕をクローリ目掛けて振るう。すると、ありえない速度の斬撃が出せた。それは、クローリを切り裂くことは出来なかったものの、辺りに衝撃波を撒き散らして消えていく。
「主、魔力の継ぎ目を狙って切るのです。見えますよね?」
「えっ。これか?これがそうなのか?」
俺は、クローリの攻撃を躱しながら再度剣を振るう。すると、今度は一瞬ではあるが、クローリの霧の身体を切り裂くことが出来た。
「なっ!?」
「これが、レムの見ている世界か」
「主。主は、その先まで見えるはずです。何故なら、私の鎧は主を守り、完全防衛を可能とする鎧。私の鎧のその全て、主を強化する為にあります。この鎧を纏った時、主は私の実力の全てを上回る力を発揮することが出来るはずです」
「レム以上って、そんな事出来るのか?俺達は、同じ修行をしていたとはいえ別人だぞ。簡単にレム以上なんて」
「いえ、既に一つですよ。私と主は……」
「!?」
レム。まさか、ミルクと同じか。レムも、俺の魔力と同一の存在になっているのか。ああ~、だからか。レムの感覚や思考を、今まで以上に違和感なく俺が感じることが出来るのわ。
「さぁ、行きましょうか主。決着をつけましょう」
「ああ。クローリ、勝負といこう!!」
「望むところだ、ベイ・アルフェルト!!」
霧状になったクローリが、辺りに広がっていく。その細かな霧の小さな一粒一粒を俺は、斬撃で斬り殺していった。その結果、俺達の周りの空間だけ、霧が侵食することが出来ずにいる。だが、徐々に霧がその距離を詰めてきていた。
「ハハハ!!いつまで保つかな!!」
「確かに、囲まれているのはヤバイな。この状態で、全方位斬撃でカバー出来ているのも相当やばいけど」
「主。何も剣にこだわらなくても良いのですよ?」
「えっ?ああ、そうか」
剣が、姿を変える。それは、カヤの持っている棒に近しい形となった。それを、盾を離して両手で振るう。そのまま俺が棒を振り回すと、突風で霧状になったクローリの身体を遠くへと弾き飛ばすことが出来た。
「クッ!!」
「それじゃあ、次は」
武器を、俺は鎖へと変化させる。鎖を振り回し、その圧倒的な回転で風を巻き起こしながら、俺はクローリの身体を切り刻んでいった。
「霧では飛ばされるか。ならば!!」
クローリの身体が、霧から液体へと変化する。その液体は、かなりの質量があるらしく、容易には風では飛ばない。液状化したクローリが、徐々に俺達へと距離を詰めながら近づいてくる。
「どうするんだ、レム?クローリの言う通り、奴を殺しきれないと意味がないぞ」
「お忘れですか、主。私には、闇以外の属性があることを」
その瞬間、鎧の腕の装飾が変わる。これは、小さいが創破滅砕のガントレット。つまり、ミルクの力!!
「えっ?私も出てこれるんですか、このレムモード」
「ミルクうううううう!!!!」
いきなり、ミルクが出てきた。え、と言うことは?
「我が鎧は、仲間を包む。今はミルクのみですが、使えますよ、主」
「ああ。そう言うことか。なら、行くぞミルク!!」
「あっ。はい、ご主人様!!」
「「クローリ、お前の魔法は、俺(私)達が使う!!」」
その瞬間、クローリの身体が再生しなくなった。
「な、何だこれは!!」
「お前の魔法の制御権は、俺達にある。さぁ、覚悟を決めろ!!」
武器を、剣に戻す。そして、剣に魔力を込めて、俺は構えた。
「馬鹿な!?。私の、私達の全てを超えた上で、魔法すら封じるというのか!!」
「これが、俺達の力だ!!」
「……見事だ。ベイ・アルフェルト!!!!」
最大限に、鎧を活かしきった斬撃を俺は放つ。その斬撃は、黒い衝撃波となって、クローリの身体を消滅させていった。クローリは、液化した身体を凝縮させて崩壊を防ごうとする。だが、崩壊を遅らせることは出来ても、完全にはその斬撃を受け止めきれないでいた。
「すまない、バズラ。だが……」
「いえ。私にも、やっと分かりました。彼らは強い。そう、貴方の夢を叶えている」
「ああ~、そうだとも。彼らこそ、私の夢だ。だからこそ、彼らは私達に負けてはいけなかった。何故なら、彼らは、私の夢みた最高の力を発揮しているはずなのだから」
再生を封じられ、クローリの身体は、その高密度の魔力を溶かしゆっくりと消えていく。
「クローリ。俺達は、戦うことでしか分かり合えなかったのか?」
クローリの言葉を聞いて、俺はそう疑問に思った。もしかしたら、分かり合えたかもしれない。共に、戦えたかもしれない。俺はそう思った。だが、クローリはそう思っていなかった。
「ああ。そうだとも、ベイ・アルフェルト。君と、私の道は違う。私達は、お互いを殺すことでしか、前に進めない運命だったんだ。君は正しい。私を乗り越えた。後は君に、この世界の未来を託そう。フフッ、君の敵である私が言うのも変な話だが、生き残れよ、ベイ・アルフェルト。私の夢を叶えし者よ。だが、そうだな。もしあの時に、人間たちに私達が受け入れられていたならば……」
クローリは、顔を起こしてライオルさんを見る。
「君とライオルと、共に戦えていたかもな……」
クローリは、そう言うと、どこか満足げに消えていった。
「最後に、そんな本音を言うなよ。クローリ……」
俺達は、一体化を解除する。そして、ライオルさんに俺は、神魔級回復魔法を使うと、転移してサイフェルムへと戻ることにした。




