魔鎧技鎧
光が、クローリを侵食していく。ライオルさんは、その手を緩めない。剣が輝きを増し、クローリの人生に幕を下ろそうとしていた。だがクローリの鎧は、徐々に自身を修復し、胸に空いた穴を閉じていく。すべてを覆う極光の中で、闇の魔力が力を増した。
「ライ、オル」
「クッ!!」
クローリの腕が、動いてライオルさんの腕を掴んで、握りつぶす。しかし、ライオルさんはそれでも攻撃をやめず、剣に力を込め続けていた。悲鳴すら挙げず。
「無駄だ。その剣でも、私の命には届かない」
「ああ、だと思ったよ。だから、俺の全てをくれてやる!!!!」
ライオルさんが、剣ごと力を込めてクローリの胸部に自身の拳を押し込んだ。そして、ライオルさんは自身の持つすべての魔力を、クローリの中で爆発させる。正真正銘、ライオルさんの全てが、力がクローリへと流れ込んだ。その爆発で、ライオルさんすら、その場から吹き飛ばされる。力無く吹き飛んでいくライオルさんを、俺はアルティを鎖へと変化させて繋ぎ止めた。魔力で局所的に壁を張って、爆発の衝撃を俺は防ぐ。飲み込まれそうなほどの極光の光の魔力の中で、俺は、歯を食いしばりながらその場で耐えた。
「……」
一瞬、音が消えて光が消える。辺りは魔王城すら消えて、俺達は、地面へと降りていた。ライオルさんは、力なく倒れている。最早意識すら無いだろう。生きているのかすら、確認できない。確認しに行けない。何故なら、俺の目の前に下半身だけしか無いはずの鎧が、起き上がって立ち上がったからだ。
「ライオル、流石だよ。人間にこれほどの力があるとわ、私は思わなかった。だが、これが君の限界だよ」
鎧が、全てを修復していく。その場に、無傷のクローリが現れた。
「……ライオル。君へのとどめは最後にしよう。不安要素を、排除してからな」
「……」
クローリが、俺を見つめる。俺は、その視線に答えるかのように、アルティを剣に戻して構えた。
「さて、君とも決着をつけるとしようか。ベイ・アルフェルト」
クローリが、一歩俺に歩み寄る。しかし、それを見ると俺は、剣を降ろして姿勢を楽にした。
「?」
「悪いな。お前と戦うのは、主ではない。この私だ」
その場に現れたのは、闇の力を纏う鎧。完全武装したレムだ。俺達の一体化の中心。その大本の鎧。それが、クローリの前に剣と盾を構えて立ち塞がる。
「……無粋な」
「いや、俺達は俺達で一つの力だ。クローリ。俺は、俺達でここにいる。レムが戦おうと、俺が戦おうと同じことだ。クローリ。俺達は、俺達でお前を倒す」
「……フッ、なるほど。ベイ・アルフェルト。それが君か」
「ああ。これが、これこそが俺の、俺達の強さだ」
「そうか。……少し、話をさせて貰ってもいいかな」
クローリは、そう言って歩みを止める。その姿を、レムは瞬きすらせず睨みつけていた。そんな中で、クローリは話し始める。
「私はね、理想を持っていたんだ。この星を分ける2つの力を持つ生物。人と魔物。それが手を組んだならば、この星を創世級から救えるのでわないかとね。だが、その私の願いは、人間たちの王によって拒絶されてしまった。私が、力ある魔物であったからだ。ライオルのように勇気ある者だけが人間ではない。愚かで、弱き選択をするものがいる。それも人間だと、私はその時に学んだ」
「……」
「それによって、私は覇道を歩み始めた。人間たちとの戦争だ。こちらから仕掛けたものではなかったが、仕方のないことだろう。人間にとって、我々は脅威でありすぎた。今のこの状況を見れば分かるだろう。あの人の頂点に立つ力を持ったライオルでさえ。私を打倒するには至らない。そう、魔物は人間よりも遥かに強いのだ。その身に多くの魔力を宿す限り、魔物は強くなり続けることが出来る。人間とは違うのだ」
「……そうか」
「だが、私の中で今もその理想は残り続けている。理想の実現を失った私は、自身の仲間である魔物を守る道を進んだ。だが、今でもその理想が実現した時、どうなっていたのだろうとたまに思う。そんな時、私の前に現れたんだよ。君が」
クローリが、俺を真っ直ぐに見つめる。
「君は、人でありながら魔物である彼女たちの隣りにいた。それを恐怖するでもなく、敬遠することもなく、君は隣りにいたんだ。そして、共に戦っていた!!しかも、その力を一つにして!!!!」
クローリの言葉に、熱が乗る。まるで夢を語る子供のようだ。
「ああ、信じられないものを見た気分だったよ。あの場では、その事実を現実的に受け止めた。しかし、君がしていることは、私が実現出来なかったことなんだ。君は、私の夢を歩んでいる。その事実。私は嬉しかった。私の理想が、私の手ではないが実現されていたのだ。君と、君の仲間たちによって」
身振り手振り、全てを使ってクローリは話す。どうやら、かなり興奮しているようだ。
「だがね、ベイ・アルフェルト。私は強い。強いんだ。最早、君たちが止められるかも分からない。先の戦いで分かっただろう。君たちも強い。だが、今の私に底はないんだ。ここで、私は自らの理想である君たちを倒す。そして、魔物の未来を切り開くのだ」
「……クローリ。お前は勘違いをしている。俺達は、まだ残しているぞ。お前と戦うすべを」
「……あの、創世級のことか?」
「いや、違う。俺達の力だ」
「そうか。それは嬉しい。勘違いだったのか。私の、勘違いだった。ああ、見せてくれ。その力を。君たちの到達点を!!」
クローリから、闇の魔力が吹き出す。それに合わせて、レムが一歩前に出た。
「その前に、試させてもらおう。お前が、その力を使う資格のある者か」
「私を試す?それほどか!?それほどの力なのか!!面白い、ならば試されよう!!勇者すら倒した魔王の力、受けてみろ!!」
クローリが、魔力で身体を強化して剣を作り出し、レムに斬りかかる。それを、レムはあっさりと盾でいなした。
「!?」
「その程度か?」
クローリの動きは、俺達とサイフェルムで戦った時よりも早い。だが、相手が悪い。レムの反応速度は、俺の比ではない。その程度では届かない。うちの最強の剣士にわ。
「その程度か、魔王」
魔王の攻撃にすら、揺らぐことさえせずに、彼女はその場の立っている。相手が勇者を倒した魔王であろうと、レム・アルフェルト。その技術、高く、分厚い壁のようだ。




