三勇激突
そこからの時間は、過ぎるのが早かった。俺達は、何時も通りに日常を進める。何時も通りにご飯を全員で食べて、何時も通りに穏やかに体を動かしてから俺達は寝た。しかし、その中で俺は、クローリと戦うためのシュミレーションを脳内で行っていた。勝つ。その気持だけに意識を向けて、俺は一日を過ごした。明日、全力で戦い抜くために。
「よう」
「ライオルさん」
朝ごはんを食べて、俺はいつもの装備に着替えて家の外に出る。すると、既にライオルさんが来ていた。
「気合、入ってるな」
「そうですか?」
「ああ。歩きに迷いがない。俺には、そう見える」
「ライオルさん」
「ん?」
「勝ちましょう」
既に、戦う意志を確認する必要はない。俺は、ライオルさんにそう言った。すると、ライオルさんはニヤッと笑った。
「ああ、勿論だ!!」
その言葉に、俺は笑みを返して転移魔法を使う。クローリの魔力を探り、俺達はクローリがいるであろう場所の近くに転移した。
「……あれか?」
「だと、思います」
俺達は、近場に存在していた大岩の陰に身を隠す。それは、黒い魔力に覆われている城であった。あの周りを囲んでいる魔力。迷宮と同じだ。どうやら、城一つが迷宮であるらしい。
「あれの下から入るのか。いけるか?」
「ええ、任せてください」
俺は、ライオルさんにそう言うと、特殊な一体化を行う。それは、カザネの鎧だ。それを、俺は身に纏う。
「ライオルさん、作戦の前に、一つお願いが」
「ん?なんだ」
「アリー達が、今回の件を重く見ています。自分たちが、国に一般人でありながら重要視されすぎていると。迷惑だと」
「……なるほど」
「ですので、今回どのように俺が活躍したとしても、俺は少し手助けをしただけ。そういう報告にしていただきたいのです。俺達の存在価値を、国の目から少しでも背けるために」
「それは構わんが、良いのか?正統な評価をされなくても?」
「はい。俺には、俺達には、まだやらなければならないことがあります」
「……それが、国に目をつけられたら困るっていうのか」
「はい。今の状況で自由を奪われるのは、俺達にとって足枷になります。国の評価、恩賞すらも」
「危ないことを、やるってことか」
「ええ。詳細はお話できません。ですが、言えることが一つあります」
「なんだ?」
「俺は、大切な人を守りたい。それだけです」
「……分かった。ベイ君を信じよう」
「ありがとうございます」
ライオルさんの、説得に成功した。それと同時に俺は、片腕を天に向かって突き上げる。
「ちょっと待ってくれ。俺からも聞きたいことが有る」
「え?」
俺は、突き上げた腕を、力なく降ろした。
「ベイ君、君はあの場に残っていたな。クローリが、サイフェルムにやって来た時だ。俺があの場から退場した後、君は残っていた。そして、兵士が後に君の加勢に向かったはずだ。だが、その場には、君もクローリもいなかったと聞いた。一度倒したのか、あのクローリを?」
「……いえ、俺は魔法使いです。色々と手があったもので、時間稼ぎをしていたんですが、兵士が近寄ってきたからか、クローリは撤退しました」
嘘は言っていない。ただし、兵士が近づいてきたから、レーチェが出てきてという部分を省いてはいるが。
「あの奴が、兵士が近づいてきた程度で逃げるか?そうは思えん」
「俺には、都合が悪かったように見えましたが」
レーチェっていう、最悪の守りがいたからな。
「ふーむ。やつも何か隠しているのか。弱点が有ると良いのだが」
「それは、難しいかもしれませんね。色々と試しましたが、奴は強い。それも普通に。どこかが尖っていて脆くなっているわけではなく、すべてが強い。弱点が有るかわ、俺には分かりませんでした。むしろ、勝てるのか不安になったくらいです」
「あの鎧を身に纏った君でさえか。やはり、生半可な覚悟では、今のあいつに挑むのは危険だな」
「はい。俺もそう思います。悪い言い方になりますが、命をかける必要がある。その覚悟がいる。そういう相手だと思います」
俺がそう言うと、ライオルさんは、強く自分自身の拳を握り込んだ。
「伸ばした寿命を、使い切る時が来たか」
「……ライオルさん」
「ベイ君。奴は強い。俺は、勝てないかもしれない。君もだ。だが、俺が倒れても、君は気にするな。奴を倒せ。そのことに集中しろ。俺を置いて逃げても構わん。君は、成すべきことをしろ。君の選択に、それは任せる。俺は、君を恨まない。それだけは、覚えておいてくれ」
「……はい」
「……共に戦ってくれること、感謝する。君という、一人の戦士がこの時代に生まれてくれて、俺は嬉しいよ」
「ライオルさん……」
「さぁ、共に行こう。若き英雄よ」
「は、はい!!」
再度拳を振り上げ、俺は、地面を全力で殴る。すると、拳の先端から風の魔力で出来た竜巻が発生し、それが地面をくり抜き始めた。それと同時にその竜巻は、俺達を高速で運ぶ風の通路としての役割もなしている。土魔法で更に土のくり抜きを加速させ、俺達は、一気に魔王城の真下を目指して進んだ。
「……来たか」
「魔王様?」
「準備しろバズラ。来たぞ、英雄が」
クローリは、椅子から立ち上がった。マントを靡かせ、室内を移動する。クローリが、目指すのは地下だ。それは宿敵。クローリにとって因縁の相手。だが、いつもバズラは、そんな彼らと相対するクローリを見て不思議に思っていた。何故、クローリは彼らと相対する時、こんなにも嬉しそうなのかと。未だに、バズラはその答えを出せないでいた。
「さぁ、共に語らおう。我が宿敵、ライオル・ゲインハルト。そして、ベイ・アルフェルト。我々の内、誰が未来を掴むのかお」
クローリの足取りは軽い。まるで、待ちきれない何かを迎えに行くかのようだ。鎧であるクローリには、表情がない。しかし、クローリはこの瞬間、どんな時よりも表情があれば笑っていただろう。それは、魔物という彼の背負う未来。人間という、ライオルの背負う未来。そして、ベイの背負う、人と魔物が共に手を取り合って戦う未来。その3つの未来が、クローリには今、激突し、この先を目指そうとしているように見えた。この戦いが、この星の未来を決める。そう思うと、クローリの胸はまるで子供のように、無邪気にはしゃいでいた。




