二勇共闘
「駄目です。あれは無理です。手加減を知らない。手加減をしない。すぐにバレます。あの頭の固い連中に」
「でもさぁ、全員死ぬよりは良いかなぁって」
「駄目です。あれは切り札でありながら、この星を破壊する爆弾です。使うのなら、最後にしないと。そう、まだ魔王よりも生易しくない物が、この世には残っているんですから。あれも含めて」
「……」
そう。まだクローリは、易しい敵なのだ。創世級に比べれば。
「でもなぁ。それだともう、打つ手が無いんだよ」
「ありますよ。既にね」
「え?」
アリーが、俺を見つめた。
「えっと、どういうお話なのでしょうか?」
シアが、我慢できずに、会話内容を聞いてきた。
「私達は無理。でもね、行かせられるとするのなら、ベイだけよ。他は足手まとい。ベイだけでいい」
「そうそう。そういう話」
「ベイ君だけ、ですか?」
シアが、不満そうにそういった。
「不満そうね」
「それは、だって、皆さんお強いですし」
「そうは言ってもね、一般人にしてはなのよ。前のように、一般人相手になら、私達でも何とか戦える。それも安全に。でもね、今回は違う。魔物の軍団。それも、ライアさん達が勝てるか怪しい相手。そんなの、足手まといよ。私達……」
正直に言うと、アリーとヒイラはそこそこ無双できる気がする。クローリを相手にするかわ別にして。
「でもね、ベイは違う。ベイなら、十分な力を持っている。それだけは確かよ」
「なるほど」
シアが、納得したように呟いた。
「正直、貴方もいかないほうが良いんじゃない、シア。ベイ達の邪魔よ」
「えっ」
アリーにそう言われて、シアは動きを止めた。
「そうかもな」
「え」
ライオルさんが、続けるようにそういった。
「無駄な犠牲を出すか。確かに、俺がそう感じたからな。有り得るぞシア。今回ばかりわ」
「……」
シアが、ライオルさんの言葉に黙った。しかし、すぐに言葉を続けた。
「私は、国を守る兵士です。国民を守れるのなら、この命、惜しくありません」
「そうか」
ライオルさんは、その言葉を聞くと黙った。
「いえ、俺とライオルさんで行きます。行くのなら」
「?」
「はっ?正気か?」
俺の言葉に、ガンドロスがそう言った。
「はい。大人数で行く利点。それが、今回は薄いです。少人数での潜入、魔王の即時撃退。それが、一番いいと思います」
「なるほど。一理ある」
俺の言葉に、ライオルさんが賛同した。
「ちょっと待てよ。そんな事出来るのか?魔王だぜ。護衛も、かなり居ると思うが」
「ええ、出来ます。ですが、少人数でないと無理です」
「確証があるんだな」
「はい」
「ふ~ん。じゃあ、私はベイ君を信じるよ」
俺の言葉に、さらにライアさんが賛同してくれた。
「待てよ。内容も聞かずにそれはないだろ」
「いったい、具体的にはどうするんだ?」
「土魔法です。土魔法で、地面を掘り進みます」
「土魔法で?」
シアが、疑問の声を上げた。
「ええ。地中から、魔王を強襲します」
「それ、ばれないの?」
「ばれたとしても、我々は地中。相手に、手は出せません」
「いや、そうとも限らないんじゃないか。相手は、魔王だぞ?」
ガーノが、余計なことを言う。
「いえ、魔王でも同じです。すぐに移動し続ける我々に、魔王であろうとも、的確に攻撃魔法を当てることは不可能なはずです」
「なるほどな。それほど速く、移動するということか」
「はい。それに、我々はすぐに魔王の拠点の下に移動します。その状況で、拠点下の地面を魔王が高威力の魔法で攻撃できるでしょうか?いえ、出来ません。何故なら、拠点下の地面が吹き飛ぶからです」
「ふむ……」
ガーノが、俺の言葉に黙った。
「でも、そんなに速く、どうやって移動するの?」
「俺とライオルさんなら、可能なはずです」
「そう、かもな」
ジーンさんが、俺の答えに頷いた。
「ジーン、何か知ってるみたいだな。なら、作戦的には有りってことか」
「え、マジですか。2人でですよ?魔王討伐ですよ。駄目じゃないですか?それこそ、死にに行くようなものなんじゃ」
「シア、これが、一番討伐確率が高い作戦なのよ。本当に……」
アリーが、シアにそう言い聞かせた。
「そう、ですか……」
「ですが、皆さんには、別のことをして頂きたいんです」
「別のこと?」
「はい。それは、この国を守ることです。魔王は、この国を攻撃してくる可能性があります。俺達を動揺させるために」
「なるほど」
「ですから、皆さんには守っていただきたい。俺達が戦っている間、この国を」
「……そうか。そうくるか」
「ああ、任せろ」
俺の言葉に、ジーンさんが頼もしく答えてくれた。しかし、実際にはこの都市はどこよりも安全だ。レーチェが居るのだから。
「ライオルさん」
「ああ」
「それで宜しいですか?」
「俺は構わない」
「そうですか。では、明日の朝出発にしましょう」
「分かった」
「え、ええ~。本当に、それで行くの。これを、上に報告するの。なんて言われるか」
「シア、諦めろ。他の手立てを、今のうちに考えろと言っておけ」
「そ、そんなぁ~」
シアは、ガクッとその場で前のめりに俯いた。
「はい。というわけで、解散解散。我が家は、これから食事なの。ほら出ていって、出ていって。あ、ライアさんは大丈夫です。残ってください」
「今日は何かなぁ~?」
「野菜スープです」
「あ、ちょっと!!」
アリーに押されて、シア達は出ていった。
「さて、面倒になったわね」
「ライオルさんも一緒か」
「ま、そこは良しとしましょう。問題は、ベイが魔王を倒したと思われたくないこと」
「目立つの、嫌だしな」
「そうよ。だから、ライオルさんと口裏を当日は合わせて来て」
「というと?」
「ブラックアクセルでも何でも良いから、それが出てきて倒したか。ライオルさんが倒したことにすること。いい?そうしましょう」
「そうだな。もう今回みたいに、シアに皆を危険に晒すような頼まれごとをされたくないしな」
「そう。そこよ。あいつ、あんなことも分からないなんて、ほんと、困るわ」
「でも、実際に皆は強いよ。そこは、俺も同意する」
「……そうね。そういう意味では合ってるわね」
アリーは、その俺の言葉に、苦笑いを浮かべた。




