英雄集結
「はぁっ、はぁっ」
「……」
息を切らしながら、俺は剣を構えている。だが、レムに疲れた様子はない。呼吸も穏やかだ。
「どうじゃ、感覚の方わ?研ぎ澄まされたか?」
レーチェは、迷宮の外で野菜をいじりながらそう言う。その言葉に、レムは頷いた。
「ええ。研ぎ澄まされています。速く、打ち合い続けるほどに」
「うむ、ならば良し。次は、そのまま感覚を遠くに広げてみよ。いつもより、遠くまで魔力が伸ばせるはずじゃ」
「はい」
レムが、目を瞑る。俺も、同じように目を瞑った。そして、感覚で周囲を感じ取る。魔力を感じ取り、遠くを把握し、周囲を脳の中で知覚した。その時、俺も、いつもよりも遠くを見渡せた気がした。
「ん?……まさかな。ベイよ、レムの感覚を認識してみよ」
「レムの感覚お?」
俺は、レーチェその言葉に、レムの感覚を感じようと意識を変えてみた。すると、いきなり見えている魔力の視界が広がっていく。俺は、先程の自分よりも、数倍長い距離を魔力で感じることが出来ていた。
「なんと、そんな事も出来るのか!?」
レーチェが驚く。俺も気づいた。この距離は、レムが感じている魔力の距離だ。それを、レムに魔力を合わせることで、俺も感じることが出来ている。つまり、俺はレムと同じ感覚で、魔力を感じられるということだ。
「主、見えているのですね」
「ああ。俺にも見える」
感覚を同調させる。初めての試みだが、まるで長くやってきたことのように、俺にはそれがスッとできた。お互いの魔力が溶け合って、一つになっていく。そう、それはまるで、一体化と同じだった。
「そうか、だから出来るのか」
俺は一人、その事実に納得していた。
「なるほど。これは強みになる。じゃが、他人だよりか。いや、ベイにはこれが合っとるのかもしれんのう」
「よく分かんないですけど、ご主人様流石です!!ご主人様偉い!!素晴らしい!!」
ミルクが、俺に称賛をくれる。褒められて伸びるタイプです。もっと褒めて欲しい。
「まぁ、これだけ見えとるのなら、良いじゃろう。もう、あいつと戦っても、それなりには戦えようて」
「そうですか」
そう言いながら、レムは武器を消した。
「では、明日には殴り込みに行きますか!!」
意気揚々と、ミルクがそういう。だが、いきなりレーチェが迷宮を消して、俺達を掴むと、家の2階の開いている窓に向かって優しく放り投げた。
「えっ?」
とっさのことで、反応が少し遅れる。しかし、特に苦もなく、俺達は2階へと着地した。それに続いて、レーチェが窓から入ってくる。
「来るぞ」
窓が、窓枠に生えていた土の腕で優しく閉まる。レーチェが、魔法で開けたんだな。そして、外を見ていると、庭に転移魔法でライアさんが出てきた。ただし、他にもお客を連れて。
「うわぁ~お」
「シア・ゲインハルトとライオル・ゲインハルトですね。それにガンドロス・エジェリン。そして、ジーン・サルバノ」
「極めつけに、ガーノ・バルトシュルツですか。これは、面倒な予感がしますよ」
「ああ。俺も、そう思う」
残念なことに、迷いなくシアは、俺達の家の扉を叩いた。
「はいはい」
「遅くにすいません。アリーさん」
「……」
アリーは、シアの顔を見ると。スッと、ドアを締めた。そして、鍵をかけた。
「えっ、ちょっと!!開けて!!開けて!!話を聞いて!!!!」
「アリーちゃん!!ヒイラちゃん!!」
「その声は、ライアさん?」
ライアさんの声に、アリーはそっとまた、ドアを開けた。
「ごめんね。非常事態でさ」
「ライアおばさん、おかえりなさい」
「ああ、ヒイラちゃんただいま!!って、今はそれどころじゃないんだよ!!世界の危機だよ!!」
ライアさんは、そう言いながら家へと上がる。それに続くように、他の連中も家へと上がってきた。
「元気そうだな。アリー」
「お祖父様……」
アリーは、ひどく嫌そうな顔でガーノを見た。その視線に、ガーノは苦しそうな表情を浮かべて耐えている。可哀想に。
「ほら、この部屋に入った入った。アリーちゃん、ベイ君呼んできて。他の子も」
「……はいはい」
アリーは、しぶしぶライアさんの言葉に従って、全員を呼び寄せた。ただし、フィー達は召喚を解除して俺の中にいる。レーチェは、部屋で寝ると言っていた。
「で、なんですか、皆さん揃って?」
サラサが、ガンドロスに尋ねるようにそう聞いた。
「実わな、魔王が復活した」
「……」
この家の誰もが、すでに知っている。だが、話を合わせるようにサラサは、無言になった。
「それで、なんでうちに?」
「レラよ。ここにいる全員が、人間の中では相当な実力者、だということは分かるな。それでも、今の魔王には、俺達では勝つことが不可能らしい。この、ライオルさんが言っていた」
「残念ながら、事実だ」
ライオルさんが、悔しそうに拳を握りしめて答えた。
「それと、うちに来ることに何の関係が?」
「実は、皆さんの力をお借りしたいのです」
シアが、代表してそう答える。
「断る!!」
アリーが、それに対して、我々を代表して即答した。
「そうですか、ありがとうございます。来てくださいますか。……ええええええええええ~~!!!! 」
シアが、家を震わせる勢いで叫んだ。
「馬鹿でしょ。私達よりも強いそのチームで勝てるかも怪しい魔王討伐をしろっていうの?馬鹿でしょ。死人が出るでしょ。ムリムリムリ。絶対無理。私達には、夫と幸せに暮らす義務がある。こんなところで、家族に死者は出せない!!絶対に出させない!!」
「アリーさん」
立ち上がって熱弁するアリーを、ニーナがなだめた。
「ですが、このまま魔王を放置しても、もう人類には勝てる可能性が……」
「だから死にに行けっていうの?冗談じゃないわよ!!こっちとら、これでもまだ学生よ!!全員がこの家に集まれるようにしてあるほど超天才的な魔法を使えるけれど、それでも学生よ!!いくら私が超天才でも、今回は行けないわよ!!絶対却下ね!!特にニーナ。ロデ、ロザリオは絶対無理!!確実にやばい。許可出せない!!」
「まぁまぁ、アリーちゃん」
ライアさんが、アリーに近づいて来て、静かにアリーにだけ聞こえる声で話始めた。
「あの子、手伝ってもらえないかなぁ?」
「あの子?」
「ほら、野菜好きの」
「……」
アリーは、ライアさんの言葉に、静かに頭をかいた。




