剣舞剣闘
その立ち姿は、誇り高くとても気高い戦士の姿。レムは、その場から俺に近づくと、跪いて俺に手を差し伸べる。
「お付き合いいただけますか、我が主」
「ああ、勿論だ」
俺は、レムの手をとって、共に立ち上がった。
「さて、どうやら国の兵士が戻ってきたようじゃのう。連中が引き上げたなら、始めるとするか」
「「はい」」
俺とレムが、声を合わせてそういった。
「しかし、足音がうるさいわねぇ。近所迷惑よ、ほんと」
「そうじゃのう」
アリーとレーチェが、兵士たちに愚痴を言う。彼らも仕事だし、国を守ろうと必死なんだろうけどなぁ。この2人には、関係ないようだ。
「わしには分からん。わざわざ、死体になりに行くようなもんじゃからな。無謀じゃよ。彼奴等わ」
「そうね」
……兵士って、大変だなぁ。
「そろそろでしょうかね」
「うむ。出るか」
俺達は、庭に出る。すると、レーチェが魔力で作った空間を作り上げた。それは小さな迷宮。その中で、俺とレムは剣を構える。
「良いか。本気で打ち合えよ」
「はい」
「勿論」
レムの目が、鋭く光る。あー、めっちゃ怖い。だいたい、レムは俺の剣技の師匠なんだよ。そのレムとやり合うというのが、すでに怖い。だが、俺だって鍛えてこなかったわけじゃない。今見せよう。レムに、俺がどれほど成長したのかお。
「……主、二刀流ですか」
「ああ。サリスと、アルティ。俺の愛剣だ。レムは、剣と盾。2つ持っている。合わせるには丁度いい」
「そうですか」
「サリス姉さん、共に行きましょう!!」
アルティが、嬉しそうにサリスに話しかける。しかし、ただの剣であるサリスは答えない。だが、俺の腕には、サリスがいつもよりもやる気であるというのが、なんとなく分かった気がした。俺の、気のせいかもしれないが。
「行くぞ、レム」
「はい!!」
「神魔級強化、からの、ディレイウインド!!」
「いきなり最大加速ですか!!」
ミルクが、俺の行動にそういう。そうとも。手加減なしの最大加速だ。俺の全速力の刃。それが、レムに迫る。これは、ただの練習試合だ。ここまでの全力をぶつけるべきではないのかもしれない。何故なら、怪我の恐れがあるからだ。だが、俺は速度を緩めない。何故ならば。
「フッ」
レムの目が、俺の動きを完璧に捉えているからだ。
「シッ!!」
俺が放った渾身の斬撃。それを、レムは易々といなして躱した。
「ほぅ……」
「凄い。さすがレム、あのご主人様の斬撃を、あんな簡単に」
「どうやら、わしが思っている以上に、あのレムという魔物。出来るやつのようじゃな」
「当たり前ですよ。レムですよ。伊達に土属性から、闇属性に進化した訳ではありません」
「……?ちょっと待て。今、なんと言ったんじゃ?」
「レムは、元々ゴーレムだったんですよ。土の兵士。それが、闇の魔力を吸収し、進化し、そしてあの姿に辿り着いた」
「……」
「どうです、凄いでしょう?」
「……化物じゃな」
「?」
レーチェは、その場で考え込むようにそう言うと、目を閉じた。
「なるほどのう。ベイか。ベイが、レムに魔力を貸したんじゃな。そのせいで、取り込めた。取り込んでしまった」
「うーん?そうですが。分かるんですか?」
「わしほどになるとな、集中力が違う。見えるんじゃよ。レムの中の魔力の軌跡が。しかし、二属性を持つ魔物か。恐ろしいのう」
「えっ、何を言ってるんですか。創世級が」
「お前には分からんか。あいつわな、わしらとは違う力を持てるんじゃよ。わしは土の力の頂点じゃ。一種のな。じゃが、奴が頂きに立った時、その力は二種類のものとなるじゃろう。闇と土。その力の頂点をじゃ。一種でも厄介なものを、それを2つ持つ。まさに化物じゃな」
「なるほど。ですが、それを言うと、フィー姉さんは更にやばくないですか?」
「……あいつは、妖精であろう」
「そうですが?」
「ならば、頂きに立てないじゃろうな。このままでわ」
「はっ?何を言ってるんですか、あんた」
「ま、可能性の話じゃ。可能性のな。気にすることでは、無いかもしれん。わしが、見たことがないというだけの話じゃ」
レーチェは、意味ありげにそこで話を区切った。
「この!!」
「鋭い。いい剣技です」
俺とレムは、速度を緩めることなく打ち合っている。打ち合っているうちに、レムが速度に慣れ、段々と反撃をし始めていた。それに合わせて、俺もディレイウインドの力を少しでも上げる。だが、レムの対応力のほうが早い。
「楽しい。楽しいですよ、主」
「……ああ、そうだな」
打ち合う度に思い出す。昔のことお。まだ、俺の動きが、人間離れしていなかった時のことお。
「よく、よくここまで成長されました」
「師匠が良いからな」
俺と、レムの剣技がぶつかる。2つの剣技は、まるで鏡合わせのように同じ太刀筋。同じ姿勢から繰り出されていた。ああ、懐かしい。久しく忘れていた。そうだ。これこそが、これこそが俺の剣技の原点だ。
「あの2人、まるで踊っているようですね」
「うん、楽しそう」
「お互いに、お互いを高めあっておる。お互いを認めあっておる。お互いに、お互いを信じておる。どうやら、最高の修行相手のようじゃな」
打ち合う度に、一歩進める気がする。打ち合う度に、まだ成長できる気がする。俺とレムは、お互いにそう感じながら、長く日が暮れるまでそのまま打ち合っていた。




