創魔食堂
「無駄に動く必要はない」
俺達の鎧に、触れた複製体。その触れた部分が、塵のように消えて、俺達の鎧に吸い込まれていく。そして、触れた複製体達を全て、魔力へと変換し、吸収した。
「今、何をした?」
「見て分からなかったのか?」
地面から、再び複製体が湧き出てくる。それらが、一斉に俺に向かって再度攻撃を仕掛けてくる。だが、結果は変わらない。すべての複製体が、魔力に変換されて、そして吸収される。何度繰り返しても同じことだ。この複製体達も、元を辿ればただの攻撃魔法と大差がない。それに、今までの戦闘で複製体達の構成魔力の観察は済んでいる。今の俺には、この複製体達の吸収は容易だ。
(だが、攻め手がない。未だに、クローリの本体を発見できていないからな。吸収対策に、本体を出してもらえると楽でいいんだが)
そう俺は考えていたが、クローリは、少し考えるとまた複製体達を湧き上がらせる。
「その吸収、いつまで出来るかな?」
「……」
どうやら、クローリは魔力の吸収限界を狙ってくるようだ。確かに、吸収量には限度がある。だが、この鎧の魔力消費も相応に高い。今の調子なら、攻撃魔法を撃ち続ければ、吸収量が限界に到達することはないだろう。
「しかし、このままというわけにもいかない。少し、量を増やすか」
クローリがそう言うと、更に地面から、大量の複製体達が湧き出してきた。それら全てが、腕を剣に替えて、俺達を睨んでいる。まずいなぁ。あまり連続して来られると、魔力を消費している暇がない。これは、厳しいか。
「では、続きだ」
「悪いが、そうはいかん」
その声に、俺達は振り向く。すると、そこには一人の幼女が立っていた。その名も、レーチェデカブラ。この世最強の一人。創世級、その中でも最高位に位置する魔物である。
「誰だ」
「わしを知らんのか?ま、どうでもいいんじゃがのう。時期にこの場に、大量の兵士が駆けつける。その前に、うちのベイを返してもらおうと思ってな」
「邪魔をするか」
「邪魔?違うのう」
レーチェは、ゆっくりと手を挙げる。
「お前が邪魔なんじゃよ。わしのな」
レーチェが、指を弾く。それだけで、全ての複製体が虚無へと消えた。
「なんだ、お前は!?」
複製体が、一体だけ湧き出てくる。その言葉に、レーチェは特に気にしたふうもなく、指先を向けた。
「お前、知っとる魔物に似ておる」
「……」
「そいつわな。全てが自身の物であると勘違いをしておった。全てが、自身の一部になるべきだと、勘違いをしておった。全てが自身と一体になることで、全てが幸福になると、一人で思い違いをしておった。そいつに、今のお前は似ている。欺き、磨り潰し、飲み込み。これのどこが良いのじゃ?わしには分からん」
「……」
「ここまでの分身を、このサイフェルムに送り込むその魔力コントロール。それは凄かろう。じゃがな、それを続けていると、命を軽く見ていくぞ。自身で向き合え。真に戦う気があるのなら。そうすれば、見られよう。ベイの、ベイ達の本気を」
「……」
クローリが黙る。そして、レーチェが指を弾いた。
「じゃあの」
周囲から、複製体が完全に消えた。
「遠距離、魔力操作」
「そうじゃ。あの戦闘の中では、感知できんかったじゃろう。まだまだじゃな、ベイよ」
「はい……」
「さて、家に帰るとしよう。この辺は、すぐに騒がしくなる」
俺は、レーチェと共に転移魔法を使って、家に帰ることにした。
「ただいま」
「おかえりなさい」
自宅で、一体化を解除する。すると、程なくして大量の兵士が、家の近くの道を駆けていくのが見えた。
「騒がしい連中じゃ。あの練度では、束になってもあれには勝てまい」
「そう、ですね」
「ベイよ。どうした。元気がないようじゃが」
「奴の遠距離での魔力操作を、感じ取ることが出来ませんでした。修行不足かなと」
「ふむ。魔力感知範囲を広げるのは難しい。感知できるということは、その場所まで魔力を飛ばして、操作できるということじゃ。奴の魔力操作範囲は、あまりにも遠すぎる。わしには楽勝な距離じゃが、お主には経験のない範囲であろう。それが問題じゃな」
「遠距離、操作範囲か……」
「ま、修行すれば良かろう。わしが教えてやる」
「ありがとうございます」
俺は、しばらく兵士達が俺達が居た地点まで駆けていくのを、窓から眺めていた。
「主ばかりに、修行をさせてはならない。私達もしよう」
「そうですね」
「うん」
レムの言葉に、皆が頷く。
「しかし、クローリのあの速さ。いったいどうなっているんだ。私の一体化では無いとはいえ、ディレイウインドの速度に、あそこまで追いつけるとわ」
「それじゃがのう。単純に、あいつの魔力量がでかいからじゃな。それが、あいつの身体強化に影響を与えておる。はっきり言えば、奴の本体は、あれよりももっと早いし、強いということじゃ」
「私ほどではないと、思いたいですね」
「安心せい。速度で風の魔力を扱うものに勝てるやつなど、そうそうおらぬ。わしがそうであったようにな」
レーチェは、どこからとってきたのかさくらんぼを口に含むと、もぐもぐと食べ始めた。
「程よい酸味、甘み。噛みごたえのある果肉。種無し。ま、完璧じゃな」
「種無しさくらんぼ。美味しそう……」
「ベイも食べるか?」
無造作に、レーチェはさくらんぼを取り出すと、投げてよこした。今、胸の谷間から出さなかったか? 気のせいだよな? そう思いながら、俺はさくらんぼを食べた。
「……食べやすく、そして美味しい。いくらでも食べれそう」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
うまいものを食べると、活力がみなぎる。少し、元気が出てきた気がするな。
「さて、うるさい連中も一度居なくなったことじゃし、少し今のうちに修行方法を説明するか。ついてこい」
そうレーチェに言われて、俺達は、何故かキッチンに行くことにした。
「収穫した野菜がここにな」
レーチェは、山盛りの野菜の山を取り出す。いつの間に、こんなに大量の野菜を栽培していたのだろうか。果物も、何種類か混ざっている。
「これを指を弾いて、調理してな」
調理と言うよりも、ざく切りである。果物は、食べやすいように皮が消滅して、カットされている。細かい仕事だ。
「何種類か、こう握りつぶして、ドレッシングにする」
「野菜に、野菜ドレッシングを?」
「一応、成分調整してあるでな。濃厚なドレッシングじゃぞ」
それはそうと、握りつぶしただけに見えるのに、市販品のドレッシング並みにクオリティーが高いドレッシングだ。その技術、地味に欲しい。
「さて、食べながら話すとしよう」
俺達は、野菜を食べながら、レーチェの話を聞くことになった。
 




