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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・六部 ???? ミルク編
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知らせ

 5分後。血反吐を吐いて、ベイがその場に転がった。


「ぐはっ!?」

「べ、ベイイイイイ!!!!」


 ベイが出てきた瞬間に、圧縮されていた空間が元に戻る。それと同時に、レーチェが窓から家に入ってきた。


「よく保ったほうじゃな。ほれ、ゆっくり呼吸しろ」


 レーチェは、倒れたベイを片腕で掴んで起こす。そして、魔力を腕に乗せて、叩きつけた。


「ガッ!?」

「べ、ベイがあああああ!!!!」


 アリーが、取り乱してベイを抱きしめる。すると、ベイはいきなり何事もなかったかのように動き始めた。


「アリー、大丈夫だ。落ち着いた」

「でも、さっき!!」

「大丈夫。もう、外殻を作ってないから」

「あれ、やばいですね」

「見た目は鎧だったのに、ちゃんとした体の延長だったよね」

「内部の魔力も、主に近い作りになっていた。まるで、召喚解除されているときの空間のようだ」

「そりゃあ、消費多いわよね」

「その上、自らを強化し始めていた」

「は?」


 アリーは、ミズキのその発言に、首を傾げた。


「鎧が、自らを強化し始めた?」

「ええ。己を保つために、足りない部分を補強し始めたのです。その結果、さらに魔力消費が急激に起こり始めました」

「擬似的な外殻じゃからな。足りない部分も出てこよう。それを補う。あたり前のことじゃな」

「いやいやいや、勝手に鎧が自身を強化するっておかしいでしょ。ベイの魔力なのに」

「お主は、自分の体を、完璧にコントロール出来るのか?」

「……」

「そういうことじゃ。外殻として作り出した以上、勝手に自身を保とうと動く。そういう物じゃよ」

「それって、本当の体みたいにってこと?」

「そうじゃ。体には、無数の器官がある。魔力で出来ていようとも、それは同じじゃ。作り出したものが、それぞれの働きをし、自身を生かす。そういうもんじゃよ。ましてや、不完全ともなれば、足りないものを補うのは普通であろう。少々、手荒すぎるがな」

「これ、命を落とす可能性のある程の、過酷な修行じゃない!!」

「そうじゃよ。楽ではないと言ったじゃろ」


 レーチェは、そう言うと再び魔力を腕に纏わせて俺に触れる。なんだろう。心なしか、少し楽になった気がする。


「うむ。無意識に魔力を吸収しておるな。僅かではあるが、上出来じゃろう」

「えっ?」


 俺は、自身で自分の状態を確かめてみた。本当だ。勝手に魔力を吸収している。レーチェの魔力を分解して。


「言ったじゃろう。体を保つために、補い始めると。それは、自分自身とて例外ではない。外殻を平常として維持するために、自身すらも強化する。それが補いであり、急激な強化というわけじゃ。ま、短時間でこれだけならば、十分じゃろう」

「本当に、この短時間でそんな事が……」

「外殻を平常としての生と死を、体が無意識に認識するからのう。ベイ自身も、無意識レベルで必死に動かざる負えなくなる。己自身を書き換えるほどにな。それは、どの修行にもまさる体の強化となる。限界を超えた力を、維持する修行じゃからな」

「しかし……」

「こんなこと、繰り返していれば命がいくつあっても足りない。そう言いたいのじゃろう」

「そうです」

「そんなことはない。体が、無意識にさっきまでの構築を覚えておるはずじゃ。その続きからの構築となる。ゆえに、若干の負担は軽減されていく。前よりは、じゃがな」

「そうなんですか?」

「ああ。じゃが、勿論構築には魔力を使う。その覚悟はしておくのじゃぞ」

「つまり、魔力消費量は変わらないと?」

「消費量と言うか、構築するための思考魔力分が減るのじゃから、少しは減っておるぞ」


 思考魔力。思考魔力ってなんだ?


「まだ、試作段階の魔力で作られた器官ってこと?」

「そうじゃ。完全に維持した外殻を保つためには、器官を試行錯誤して作る必要がある。それを、無意識に行う。その間の消費が減るのじゃから、まぁ、楽にはなる」

「なるほど」

「それに、一晩寝てみれば分かると思う。ベイの体の魔力保有量。一気に増えるであろうな」

「えっ」

「それ、本当?」

「当たり前じゃ。何倍もの体を支えるように、自身を変えるのじゃからな。今までの、保有量で足りないのなら増やす。それが生命というものじゃ」

「この短時間で……」

「そんなに」

「ま、寝てみれば分かる。当人しか分からんしな。試してみるが良い」

「分かりました」


 なんだろう。寝ていいと言われると、急に眠くなってきた。一気に、意識が消えていく。前のめりに力なく倒れ、俺はミルクの胸に顔をうずめた形で意識を手放した。


「おっと、ご主人様!?」

「……」

「寝ていらっしゃる」

「やっぱり、相当な負担が体にかかっているのね」


 アリーが、心配そうにベイを見つめる。その時、誰かが庭で叫んでいるのが聞こえた。


「す、すいませーん!!!!」


 それは、ローゼットの声であった。彼女は、国の兵士として活動している傍ら、ベイたちに国の情報を伝える手紙を出してくれている協力者だ。ここ最近は、彼女の情報は後手後手に周っていてベイ達の助けにはなっていない。だが、その彼女が直接焦った様子で、ベイ達の家へと今日はやってきた。


「皆、ベイを宜しく」

「分かりました、アリーさん」


 アリーは、その声に窓から飛び降りて、ローゼットの前へと着地する。アリーを見ると、ローゼットは焦った様子で小声で話し始めた。


「アリーさん、国が一つ壊滅しました」

「……は?」


 時は過ぎていく。そして、新たに押し寄せる荒波を、ベイはまだ知らない。



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