希望
「生きている、自然現象……」
「想像し辛いじゃろう。見れば分かるんじゃがな。見せる訳にもいかん。一般人は、相対しただけで、その身を引き裂かれるからのう」
「理不尽にも、程がありませんか?」
「わしもそう思う。あれは、生物として終わっている。共存という言葉も無い一個体。全てを磨り潰し、己の構成魔力にすることしか考えていない厄災。……殺さねばならぬ。あれだけは、あいつらだけは、認める訳にはいかぬ。その存在も。その生き様さえも」
「そんなに、そいつらは酷いのか?」
「ベイよ。朝起きたら一面火の海で、どうすることも出来ず死ぬと考えると、どう思う。それが、お前の家のみではない。星を飲み込み、銀河を飲み込み。やがて、この宇宙となる。それを、お前は許せるか?」
「……無理だ。そんなの、考えたくもない」
「そういうことじゃ。あれは、今止めるべきなんじゃ。ここにあれらが集められたのは、もしかしたら、そのためかも知れん。たとえ偶然でも、あれを誰かが止めなけれ、この宇宙は終わっておったじゃろう。膨れ上がり続ける、あの創世級のせいでな」
限界なく広がり続ける厄災。確かに、どこかで誰かが止めないといけなかっただろう。じゃなければ、誰も止められなくなる。
「地獄という言葉があるそうじゃが、あれはそれじゃろうな。救いもない」
「そう言えば、なんで倒さなかったんですか?貴方なら、出来たでしょう?」
「出来た。出来たがな。相手は一体ではない。超弩級の魔力の塊。それが6体じゃぞ!!流石に、わしでも消すのに時間がかかるわい!!」
「消し飛ばしきれないと?」
「そうじゃ。しかも、あいつら避けるからのう。自然現象のくせに、危機回避能力は、生物並みにあるようじゃ。憎たらしい」
「えっ。貴方の魔法を、感知して避けるんですか」
「感知というか、体の一部を犠牲にして避けるんじゃ。しかも、回復もめっちゃ早いからのう。うざすぎたわい」
「……勝てるんですか、そんなの」
「……」
やばい。無理って言いそうになった。
「勝てる」
「マジですか?」
「おう、マジじゃ。ただし、連中よりも高い魔力量をぶつけて、相殺する必要がある。それも、回復量以上のな」
「いや、だから、それが無理なんじゃ……」
「今は、わししか出来ん。じゃがな、ベイよ。お主なら、行けるのでわないか?その力なら」
「俺、なら」
「そうじゃ。魔力を素早く吸収して、即座に使えるであろう。それを突き詰めれば、連中を超える無限の魔力を得ることになる。それを、仲間たちに配ることが出来れば、お主の仲間全てが、連中を殺す魔力体と成れるであろう」
「えっ。それって、爆弾ってことですか?」
「言い方がおかしいぞ。それほどの魔力なら、宿っている肉体も動きが違う。互角は怪しいかも知れんが、死ぬことを回避することは出来るかも知れん」
「互角は、無理なんですか」
「無理じゃろ。奴らは、いつから誕生していたかも分からん、高純度の魔力体。そう同じ魔力量を持ったからと言って、超えられる相手ではないわい」
「……ですよねぇ~」
……絶望の二文字。それを、俺ははっきりと感じた。それほどの魔力吸収。さらに分配。俺に、そんな事が出来るのだろうか。
「あ。あとのう、一気に相手をするとか、そういう気でおらぬほうが良いぞ。特性の違うものを、一気に相手になど無理にも程がある。わしのように、てんやわんやするぞ」
「えっ?」
「あっ。あの迷宮の中の話じゃが。あそこで暴れると、迷宮の壁が薄くなる。もしかしたら、戦っている間に迷宮が壊れて、奴ら全員が下層に落ちてくることもあり得る。そうなると地獄じゃぞ。じゃから、わしとしては一人が一体ずつを相手に出来るのが理想的だと思うんじゃ。それなら、連中の攻撃が同じ壁に集中せん。ならば、壊れることもあるまい」
「……え、ええ~」
「無理。マジ無理」
あっ、無理って言ってしまった。だって無理だろ。そんな相手を、皆が属性ごとに一体ずつ相手にして、尚且倒すんだぞ。無理だろ。無理だろ。
「ベイ」
「……」
アリーが、俺を見つめる。その瞳は、困惑したような、悲しんでいるかのようなどっちつかずの感情を表していた。その瞳を見ると、俺は、自分の発言の浅はかさを知る。俺は、今の一言で、アリーを悲しませてしまった。傷つけてしまった。それが、俺には何よりも辛いことだった。
「……」
「ベイ?」
「無理、じゃない」
「……」
「無理じゃない。ミルクの言う通りだ。俺には、こんなにも皆への愛がある。この愛が、そんな連中に負けているとは思えない。この思いがあれば、俺は勝てる。どんな奇蹟も、必然に出来る」
「ベイ」
「アリー、心配しないで。俺は、勝つよ」
「……うん!!」
俺がそう言うと、アリーは笑顔になった。やっぱり、この笑顔を失えない。俺は、勝つんだ。例え、無理を全て捻じ曲げてでも。
「よく言ったぞ、ベイよ」
「レーチェ」
「さすが、ご主人様!!」
「ミルク」
「では、始めるとするかの」
「えっ?」
俺は、レーチェに肩を掴まれた。弾みで、レーチェのおっぱいが当たる。だが、嫌な予感しかしない。
「もっとも効果的な成長のしかたを、知っているか、ベイよ?」
「えっと、なんですかねぇ……」
「適度に運動し、休むことじゃ。普通の生物ならば、じゃが」
「そ、そうですか」
「お主、回復魔法は使えるか?」
「つ、使えるような気がしなくも、ないと言いますか」
「連中はのう。回復魔法なぞ使わん。吸収した魔力で自身の一部を拡張して、巨大化する。そして、その増えた容量で自身の体を圧縮して強化する。それを繰り返し、創世級となった。最も効果的な成長のしかたじゃ」
「えっと、つまりどうしろと?」
「並では、奴らに追いつけぬ。じゃが、奴らは今縛られている。なら、同じことをすれば、差を縮められるのではないか」
「俺に、巨大化しろと?」
「わしを見ろ。巨大か?」
「いえ、そうは見えないです」
「要は感じ方じゃ。魔力で、巨大な己の外殻を形作れ。その上で、魔力吸収をし続けろ。そうすれば、自ずと自身が強化されよう」
「なるほど。実際に巨大になる必要はない。そのための器官を、魔力で外に作れれば良いのね」
「はっきりというが、並ではないぞ、ベイよ」
「……やります」
理屈は理解できても、実際に出来るのか分からない。取り敢えず、俺はやってみることにした。