正体
その後、ノービスとカエラに、レーチェをやんわりと紹介し。俺達は、何事もなく一日を終えた。次の日、いつもと変わらぬ朝がやってくる。だが、微妙な魔力の動きを感じた俺とミルク、アリーは、自然と起き上がって外を見た。
「よし」
外を見ると、レーチェが魔法で雑草を除去していた。しかも、破壊魔法で。あの魔力は、一瞬感知しただけで、もう体が起き上がってしまうからやめて欲しい。しかも、それをあんな気軽に。
「そう言えばご主人様、よく、あの魔法を防げましたね」
「ああ、あれか」
「え、ベイ防いだの?あの、訳の分からない魔力お?」
「ああ、ヒイラのおかげだよ。あの魔法は、破壊の魔法らしい。今まで、壊せなかった物は無いそうだ」
「……そんなの、どうやって防ぐの?無理でしょ?」
「そう思った。俺もね。だけど、あれには防ぐ手立てがあった」
「と、言いますと?」
「対象を、破壊すると消える。存在し続けるわけじゃない」
「……え。でも、ベイは生きているのよね?」
「ああ。恐らく、ミルクと同質量の肉体を構成する魔力。それをぶつけたから、防げたんだと思う。それ以外の魔力をぶつけたが、勢いが収まる気配がなかった。だが、俺の腕を消していくに連れ、あの魔法の構成魔力は小さくなっていく。そこに気づいたんだ」
「だから、人体創造魔法で、勢いを削げたってこと?」
「そういうこと。対象を消したと誤認させたんだ。……ただ、あの様子だと俺じゃないと出来ないことかもしれない。どうも、俺の魔力をミルクの魔力と誤認してたから防げたっぽいし。対象が違うと、魔力が違うから、誤認させられないかもしれない」
「対象の、魔力の波長をよんで破壊してくるの?最悪の魔法すぎるでしょ」
確かに。対象を破壊するまで止まらない魔法だからな。今まで見た、どの魔法よりも強力だ。
「あの魔法、使えませんかね?」
「無理だな」
「無理?ベイが?」
「……アリー、悪いけどあれは無理だ。俺には出来ない。恐らくだが、レーチェが持っている特殊器官がいる。まさに、レーチェ専用の魔法だよ」
「ですが、彼女と一体化出来るとしたら?」
「……出来るかもしれない。だが、それは無理な気がする」
「無理?ベイが?」
アリーに合わせて、ミルクも疑問を抱いた様な顔をする。いや、普通に無理だろ。
「レーチェは、俺と契約しない。なぜなら、最強だからな」
「よく分かっておるでわないか」
俺たちが話していると、外からレーチェが、ジャンプして窓から入ってきた。
「わしは、誰にも縛られわせぬ。ましてや、魔力を用いた契約など、一生することは無いであろうな」
「養ってもらうのに?」
「それは、乳を揉ませたからのう。それに、仕事上の付き合いは別じゃ。とは言っても、もう乳は、別のやつには揉ませんがの」
「ま、それはそうでしょうね」
「しかし、そんな防ぎ方があったとはのう。次からは、雑に撃たずに、威力を上げて撃つとするか」
「……マジ最悪ですね」
「別にいいじゃろ。余程でなければ、もうお前たちには撃たんのだから」
「撃つ気はあるんですね」
「当たり前じゃろ。お前らは、飛んでいるうざいと感じた虫を、野放しにしておくか?そこまでくれば、排除するだけじゃ。そうであろう?」
「まぁ、確かに」
「そうならないようにすれば良い」
簡単なようでいて、難しそうなラインだな。取り敢えず、レーチェに嫌われないようにすれば良いのか。
「理不尽なのは、やめてくださいよ」
「分かっておる。撃つ前に、警告はする」
「なら、良しとしますか」
良いんだろうか?
「そう言えば、ベイよ。わしを、呼び捨てにしておったな」
「あっ」
「あっ」
「あっ」
目を離さず、レーチェは俺の目を見ている。やばい。これはまずいのでわ。
「……ふっ、しょうがないのう。特別に許す。お前だけじゃぞ?」
「えっ?」
「アリーさん、出来るのでわ?」
「出来る気しかしないわね」
ヒソヒソと、アリーとミルクが俺の後ろで小声で話す。そんな中、俺は冷や汗をかいていた。死んだと思った。
「それとな、お前ら死ぬぞ。このままでは、あの創世級共に勝つどころか、傷をつけるのが精一杯じゃ。いくら、ミルクのように常識離れした能力を宿していようともな」
「あっ。それよ。それを聞きたかったの」
「なんじゃ?」
「他の創世級。あいつらは、いったいどんな魔物なの?」
「……」
レーチェは、アリーの質問を聞くと、黙って空を見上げる。
「お前らは、何が強いと思う。この世界で」
「何が?」
「強い?」
大雑把な質問だ。それに、強さには色々な形がある。その中で、この質問は何を聞いているのだろうか?
「愛、ですかねぇ」
「まぁ、お前はそうじゃろうな。愛で、他人の魔力を操作出来るようになるやつなど、初めて見たわい」
だろうなぁ。
「この世で、一番強いのわなぁ。わしを除くと、自然現象じゃ。それに抗える生物は一握り。生きとし生ける物の糧。それでありながら破壊。それこそが自然現象。それが、奴らの正体じゃ」
「……は?」
「そういう反応をするであろう。だが、事実じゃ。奴らの殆どは、意志を持たぬ。されど生きている。生きた自然現象。魔力のみで出来た化物。それが、連中の正体じゃよ」
「えっと、雷や、竜巻ってこと?」
「正しい表現じゃ。しかしな、ただの自然現象ではない。魔力のみで出来ている。それは忘れるなよ。それも、わしのような高純度の魔力でな」
「……」
「大抵のものに、理性はない。出てきたのが、わしで幸運であったな」
俺達は、ただその言葉に頷くしかなかった。




