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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・六部 ???? ミルク編
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菜園

 歩いて外に出ると、レーチェは辺りを見回す。そして、家の近くの地面に、線を引いた。


「この程度で良い。畑をくれ」

「いや、でかすぎでしょう」


 アリーも言っているが、本当にでかい。この程度も何も、普通に農場クラスの大きさだ。家庭菜園とは、わけが違う。多分、うちの敷地から出てるし。


「ここまでが、うちの敷地。で、出来てもこのぐらい」

「うーむ、小さいのう。それでは、この街の全員に、わしの生産物が行き渡らぬ」

「いや、そこまでしなくていいから」

「そうか。美味いぞ。わしの作った野菜わ」


 そう言うと、レーチェは、アリーが示した部分に種を投げた。すると、あっという間に野菜が生える。それも、育ちきった状態で。


「食べてみろ」


 それは、トマトだった。真っ赤で、とても瑞々しい見た目をしている。とても、今出来たとは思えない代物だ。農家の人が、一日も欠かさず管理したかのような見事さがある。それを、アリーは受け取ると、少し拭いて食べた。


「……美味しい」

「そうじゃろう?」


 俺も、アリーに食べさせてもらって味見をする。美味い。かなり美味い。トマトの味を残しつつ、食べやすいほどに甘い。熟した果実。そういう感想が、頭に浮かんだ。


「わしが作った最強品種の一つじゃ。全てを押しのけ、この街で売れまくるであろう」

「確かに、これは、食べたら忘れられない」

「味付け無しでこれだもんな。それに、あっという間に食べれてしまう」

「ええ。体に染み込むかのようね。栄養もあって美味しいって感じがするわ。体が喜んでる」

「ふふっ。これを超えるものなど、市場にあるまい」

「そうね。確実に無いわね」

「確かに、これは売れる」

「じゃろう?じゃから、わしが量産して売り払ってじゃなぁ。家をもっと、増築してはどうじゃ?勿論、畑も増やしてじゃのう」

「ちょっと待ったああああああああ!!!!」


 その声は、街の中心街辺りから聞こえた気がする。見ると、ロデが走って戻ってきた。


「金儲けの匂いがしました!!」

「当たってるのがすごい」

「ちっ、どんな嗅覚してるのよ」


 アリーが、ロデに吐き捨てるように言う。だが、ロデは気にしたふうもなく、レーチェからトマトを貰うと、それをかじった。


「う、うっっま!!!!」

「じゃろう(得意げ)」

「しかし、これを流通させすぎてはいけない!!」

「ほう。なんでじゃ?」

「出回ると、これを元にした劣化品がすぐに出回るからです。それも、さらに安いのが」

「なるほどな。これの種を使うのか」

「そうです。それによって、品種を変えた闘いが始まる。このトマトを基準として、最高位のトマト戦争が始まってしまいます」

「ま、わししか、ここまで管理した味には出来んのじゃがな」

「それでもですよ。人間は慣れる。最初こそ、狂ったように食べるでしょう。ですが、そのうちこれが普通になる。それがどれだけ、高級で素晴らしいものでも」

「まぁ、それはそうじゃな」

「そうすることで、物の価値の見方が下がる。大量生産されたものであればなおさら。すぐにこのトマトの価値が下がっていく」

「ほうほう」

「故に」

「故に?」

「少数生産で、高額で売り出しましょう。最高級ブランドとか、それっぽい文句をつけて、通常ではありえないほどの値段で」


 ロデは、そう言いながら空中で何やら指を弾いていた。そろばんでも使うかのような動きだ。


「じゃが、それで客がつくか?」

「売り込みますとも。我が商会が、高級料理店に。それだけで、かなり長い年月、流出を防げます。そして、高いトマトがあるというイメージを、ちょっとずつ蔓延させることが出来る。広めることが出来る」

「ほうほう」

「するとですね、市場に少数出回っていると言う噂を聞きつけて、わざわざ買い付けに来る人が来るわけです」

「うむ」

「その人が、さらに高級なトマトというイメージを広げる。結果、トマトの高級品と言う値段イメージが守られたまま、市場にこのトマトが根付くわけです。普通のトマトとは別物」

「なるほどな」

「普通のトマトなら、そこまで行けないでしょう。ですが、このトマトならいける。常識を超えて、世界に広まる。それで行きましょう。大量生産ではなく、少数生産でなが~く最高の利益を稼ぐ。それによって、トマトの市場を壊さずに、これを売り抜けられます。連日完売」

「有りじゃな」

「というわけで、作りすぎないでいただけると……」

「分かった。そうしよう」

「あ、ありがとう御座います!!!!」


 ロデは、深々とレーチェに頭を下げた。


「しかし、そのお金で畑は大きくするぞ。それならば、文句あるまい」

「ええ、無いわ」

「あ、今日中に企画をまとめて家に提出してきます。しばしお待ち下さい」

「うむ」


 そう言うと、ロデは家に走って入っていった。


「商人までおるのか、この家わ」

「ええ、まぁ……」

 

 レーチェは、そう言いながら種を蒔いていく。すると、ひょこっと小さな目が地面から顔を出した。しかし、今度はすぐには成熟しない。


「よし。ここからじゃな」

「何、してるの?」

「品種改良じゃ。こうやって、少し成長させて見守り、特性が変わったものをかけ合わせて新たな品種を作る。それが、わしの趣味なのじゃ」

「なるほどね。それで、あんな美味い野菜を作れたの」

「そういうことじゃな。ふふっ、生きがいを取り戻した気分じゃ」


 そう言いながら、レーチェは生えてきた植物の芽を撫でている。その姿は、創世級ではなく、愛らしい少女そのものであった。


「ま、趣味があるのなら、大人しくはしててくれそうですね」

「だな」


 俺は、そういうミルクと顔を合わせて微笑みあった。



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