土の輝き
「そして、今からその力をお主に向かって放つ。威力は、お主をすべて消す一撃分。今までは生存率0じゃったが、お主は最初の一人になれるかのう?」
「なんだ、その手加減の威力わ」
「手加減と言うには、あまりにも設定が狂ってますね。皮肉でしかありません」
「それは違う。これは、遊びじゃ。お主が、どれだけ耐えられるかのな。潰れるのが前提じゃ。それ以外は考えておらぬ。これは、いつ潰れるのかを見る遊びじゃ。その上で最低を決めておる。先のギャラクシーハンドも、お主が創滅を使っていなければ潰せていたであろう。じゃが、創滅をお主が使ったことで、わしは少しではあるが楽しむことが出来た。もう良いぞ。死んでも。じゃが、ここで生き残ってくれてもそれはそれで面白い。出来るなら、やってみて欲しいのう。出来るならじゃが」
レーチェは、不敵に微笑む。生存率0%の攻撃。全てを破壊する最悪の一撃。そんなもの、乗り越えられるはずがない。
「……ご主人様」
「なんだ、ミルク?」
「今まで、お世話になりました」
「……何、言ってるんだ?」
「私、幸せでしたよ。ご主人様に出会えて、フィー姉さんたちと一緒に入られて。色んな危険も、色んな幸せも一緒に過ごしてきましたけど。それも、今日で終わりみたいです」
「何、言ってるんだよ。何を言ってるんだよ、ミルク!!」
「さっき、ご主人様は、彼女の衣食住を保証する保証人になりました。それに、ご主人様は彼女の胸も揉んでいます。そして、彼女は地属性。……きっと、私のいない穴を埋めてくれると思いますよ。ご主人様なら、きっと彼女を落とせます。だから、救ってあげてくださいね。アリーさん達を。フィー姉さん達を」
「……違う!!そんなの、俺は望んでない!!俺は、お前を失うなんて!!」
「……」
乱暴に胸ぐらをミルクに掴まれ、俺は引き寄せられた。そして、俺はミルクとキスをする。触れたミルクの顔には涙がつたい、悲しみが、その表情を通して全て俺に伝わってきた。目を閉じているミルクの目から、触れている唇から。ミルクの全ての感情が、俺に伝わってきている気がした。それは感謝と、別れと、そして消えることのない愛を誓う決意のように感じられた。やがて、ゆっくりと唇が離れる。
「……赤ちゃん、欲しかったですね」
「……ミルク」
そっと、俺はミルクに押された。俺の身体が、ミルクから離れていく。そして、レーチェがミルクに向かって手をかざしているのが見えた。俺は、ゆっくりとその光景を見ている。その中で、俺が俺であるために、俺を突き動かす何かが、俺を迷いなく動かした。
「ディレイウインド!!!!」
それは、カザネの魔法。自身を加速させ、常識を打ち破った行動を可能にする魔法。それを使い。俺は、ミルクとレーチェの前に、腕をかざして立ち塞がった。加速する時の中で、俺は自身の腕がゆっくりと消えていくのを見ている。何かが、俺の腕に当たっているのだ。だが、俺はそれを捉えることが出来ない。それは、ゆっくりと俺を消そうと近づいてくる。だが、俺に抗うすべはなかった。そう感じた。
けれど、俺の後ろにはミルクがいる。俺には、負けることが許されていなかった。俺は抗う。魔力を総動員し、触れている何かの正体を掴もうと躍起になって魔力を浴びせかける。ディレイウインドも使い、身体を、思考力を限界まで加速させて俺は、その魔力、その物の本質を捕らえた。
「うがあああああああああああああ!!!!」
やがて、時が進む。俺の右腕は消滅し。辺りに、残っていた傷口から溢れ出した血が飛び散った。
「えっ」
「ほう。まさか、受けきったのか。ベイよ。お主が」
「あああああああああ!!!!」
獣のような咆哮を上げて、俺は腕を作り直す。まさか、ヒイラの魔法研究がこんな所で役に立つとは思わなかった。俺は、消滅した腕と全く違いのない腕を魔力で練り上げて装着する。そして、回復魔法をかけると、すぐにその腕は俺の体に馴染んだ。
「ご主人様!!」
「だ、大丈夫だ。少し、無茶をしたよ。だけど、大切なものを守れた……」
「ふむ。凄いんじゃが、ベイが受けても意味がないんじゃがのう。と言うわけで、もう一回じゃ」
「ご主人様。もう良いんです。もう、良いですから。私、ご主人様が傷つくところなんて……」
「ミルク。お前を、俺は失わない。お前の代わりなんて、誰にも出来やしない。お前は、俺の何だ?俺は、お前を愛している。フィーも。レムも。ミズキも。皆、皆、お前を愛している。お前も、俺を愛してるって言ってくれただろ。なら、俺達は何だ。仲間であり、家族でもある。その上で、俺とお前は何だ?」
「……夫婦。夫婦です!!」
「なら、俺はお前を幸せにしてみせる。こんな所で失ったりしない。俺が俺である限り、お前を、皆を失う気はない。ミルク。お前も俺と夫婦なら、最後まで諦めずに足掻いてくれ。俺は、皆を幸せにしたいんだ。アリーを、フィーを、皆を。そしてミルク、お前を」
「ご主人様……」
「答えてくれミルク。お前は、俺のスペシャルなんだろ。いつか、約束してくれたよな。俺好みの魔物になってくれるって。だったら、見せてくれよ。俺の嫁が、どれだけスペシャルかって事を!!」
「……ご主人様!!!!」
ミルクが、俺を抱きしめる。その力は痛いくらいだ。だが、何故か優しい。再びミルクが顔を上げた時、その顔からは、涙が消えていた。
「ミルク……」
「ミルク姉さん」
「フィー姉さん。シデン。それに、皆……」
「私達、一緒だよ」
「姉さん、みんな……」
「行きましょう、ミルクさん。私達にも、迷いはありません。貴方なら、奇跡を起こせる。そう信じています」
アルティの言葉に、全員が頷く。その光景に答えるように、ミルクは、ゆっくりと力強く立ち上がった。
「ありがとう御座います。皆。そして、ご主人様。私、忘れてました。いちばん大切なことを」
「……」
「私の何より強い力を。それは、貴方への愛です。この力がある限り、私は、何者にも負けない。負けるはずがない。そうでした。簡単なことでした。私には、ご主人様。いえ、大好きな夫であるベイ・アルフェルト。貴方がいる。だから、私。負けません。だから皆、私に、私に力を」
「もちろん!!」
「ああ、思う存分使え。ミルク!!」
「遠慮はするな!!」
「すぱーっと、ぶっ飛ばしちゃって!!」
「ミルクさん!!」
「行くっすよ!!」
「今日の私達、気合が違います!!」
「創世級、関係ありません!!」
「超えて下さい、ミルク姉さん!!」
「皆、ありがとう……」
ミルク以外の全員の召喚を解除し、俺は俺の内に皆を戻す。そして、俺自身をアルティは、自身の内に内包した。
「……見せてあげますよ、創世級。いえ、レーチェデカブラ。これが私の、私達の力です!!」
「まだ、何か出来るというのか。お主自身が」
「……、アルティィィィィ!!!!」
「行きましょう、ミルク姉さん!!奇蹟を、今こそここに!!!!」
ミルクの呼びかけによって、アルティが変形し、ミルクの両腕へと装着される。その形は、巨大なガントレット。幾重にもまばゆい光を放つガントレットが、ミルクの腕へと装着された。
「何じゃ、それは?新しい武器か?」
「いえ、違います。これこそが奇蹟!!これこそが、私と皆と、ご主人様の愛の証!!」
輝くガントレットを、胸の前でミルクは打ち合わせる。すると、辺り一面を土の魔力が覆い始めた。
「これが、私の一体化だああああああああああああ!!!!」
空気を揺らし、大地が吠える。確立を凌駕し、勝率を覆す。そして、その覚悟と愛を持ってして、今ここに、奇蹟が降臨しようとしていた。




