創滅のガントレット
まず、始めに感じるのは感触だ。服のね。ミルクが着ている服の感触だ。だが、それすらも凌駕して次第に、圧倒的な重量が手の平に乗っていく。そして、その時俺は、1つのエデンを見るのだ。
そこはまさに、リゾート地のようだ。ひしひしと感じる心地よさ。周りの全てすらどうでも良くなりそうなほどの圧倒的な存在感。これこそ心の開放。ある種の自由そのものだろう。ここから離れたくない。一生このままでいたい。そう思わせるほどの魅力と、癒やしのパワーがこのエデンには詰まっている。ああ~、創世級がなんだ。この世界のパワーの前では無力。圧倒的に無力であると断言できる。と、今までは思っていた。まさか、創世級にエデンを持つものがいるとは、夢にも思わなかったのだから。
「さて、レーチェさんの番ですよ」
「う、うむ」
ミルクが離れていく。毎度この瞬間は物悲しい。それほどまでに強いのだ。あれわ。実際、気をしっかり持っていないと、一日中あれから離れられなく成る自信がある。だいぶ慣れた今でもこれなのだから、恐ろしいものだ。だが、それ以上に愛おしい。
「こ、こうか?」
ミルクのおさまっていた位置に、今度はレーチェがやってきた。俺は、ゆっくりと手を伸ばす。だが、途中で手を止めた。レーチェが、滅茶苦茶顔を赤らめて、目を閉じていたからだ。
「大丈夫ですか?」
「き、聞くな!!さ、さっさとやらんか!!」
そう言うので、俺はすばやくレーチェの膨らみに手を伸ばした。
「んっ!!」
ミルクの物とは違う、服の感触を感じる。そしてその上に、これまたとてつもない重量が襲いかかってきた。雄大。そのエデンは、あまりにも雄大。ミルクがリゾート地ならば、このエデンは秘境だ。まさに、未だかつて誰も見たことのない伝説の大地。そこには、人類が必要とするありとあらゆる満たされるものが有り。その一生を過ごすには、十分すぎるほどのポテンシャルを秘めている。それが、中に一歩踏み出した時点で俺には分かった。何と素晴らしいのだろう。感動すら覚える。心は、前代未聞の発見をした探検家そのものだ。俺は、そのさらなる可能性を見たくて、奥地へと一歩を踏み出そうとする。だが、これ以上は進めない。このエデンを、無理に荒らしてはならない。それが、俺の抱いた感想であった。写真、スケッチ、伝聞。どれもこのエデン語り尽くすには、狭すぎる媒体であるだろう。俺は、その尊いと思った感想を胸に、その場を離れることにした。
「も、もう良いか?」
「……素晴らしい」
俺は、すっと腕を離した。やっべ、ちょっと涙出てきた。
「お、これはわしの勝ちではないか?」
「マジですか?」
俺は、そっと涙を拭う。……手、洗いたくないなぁ。アイドルと握手して、手を洗いたくないファンっていうのは、こういう気持ちなのだろうか?
「ご主人様!!どっちが、どっちが上ですか!!」
「わしじゃろ。わし」
俺は、ゆっくりと立ち上がる。そして、2人の腕を取った。
「お?」
「?」
「勝者は……」
俺は、ゆっくりと片方の腕を上げた。
「ミルク!!!!」
「……ふっ。ですよねぇ~!!!!」
「な、なんでじゃ!!」
レーチェが、俺に掴みかかってくる。しかし、その力の入れ具合を見るに怒っているわけでは無さそうだ。だが、ガクガクと俺を揺らす。
「説明じゃ!!説明を望む!!」
「ミルクの勝因。それは、全体のフィット感……」
「全体のフィット感、じゃと……」
「ミルクのおっぱいは、そっと重さに合わせて手の平へと広がっていきます。この時、ずっしりと適切な重心で手の平へとのしかかってくるのです。両方共同じ位置。同じタイミングで」
「なるほど」
「かたやレーチェさんのおっぱいは、ミルクよりも少し上向きです。それ自体は素晴らしいことです。ですが、多少乗せた時に重量自体がレーチェさんの胸筋に引っ張られている感じがいたします。そのため、僅かながら強さを感じてしまうのです。そこが、安らぎポイントが下がった要因かなと」
「安らぎポイント……」
レーチェさんが、よく分からんという表情をしているが、伝わったのだろうか。
「ということで、ミルクの勝利です!!」
「どうですか創世級・レーチェデカブラ!!いかに創世級であろうとも、私の敵では無かったですね!!」
「……よ、良かろう。この勝負は、お前の勝ちじゃ。じゃが、まだ本来の遊びが残っておるぞ」
「えっ」
レーチェは、俺の服を掴む。すると、観客席に向かって、俺を投げ飛ばした。
「うおっ!!」
俺は、綺麗に観客席に着地する。
「さて、力比べの続きといこう」
「……順当。いえ、目的は果たしましたからね。ま、やるとしますか」
ミルクが、再びガントレットを構える。すると、レーチェの腕から、岩の腕が伸びて空へと上がっていった。
「おっ?」
レーチェは、ゆっくりと片腕を上げる。その先から出ている岩の腕はドンドンと伸び、天空を突き破って宇宙へと伸びていった。更にその腕は大きさを拡大し、空を覆い尽くしていく。
「な、なんだこれわ!!」
「ギャラクシーハンド」
桁が違う。その腕は、山を見るよりも大きく、月よりも遠い場所に有りでかい。太陽を覆い隠し、この星を握りつぶさんばかりに手のひらを広げている。
「一応、これで最低出力じゃ。受けてみい」
「これで、最低……」
ミルクが、空を見て呆れている。圧倒的すぎる。驚くしか無い。
「一応、言っておくか。じゃあの」
「……笑えない言葉ですね」
銀河が、落ちてくる。ミルク目掛けて。その威力は、いったいどれほどなのだろう。想像もつかない。ただ、言えるのは星を容易に破壊し得る威力があるということだけだ。
「こうなったら、奥の手を使うしか無いようですね……」
「ミルク!!」
「ご主人様、大丈夫です!!来ないで!!」
俺は、アルティを剣に変化させて投げようとした。だが、ミルクの声に動きを止めた。
「ここで、使う気はなかったんですけどね。未完成ですけど、やるしかないでしょう。……創滅の、ガントレット!!!!」
ミルクのガントレットが、片腕にその形状を魔力に変化させて集まっていく。そして、そのミルクの腕に、漆黒の巨大なガントレットが形成された。
「ほぅ……」
「銀河を砕けるか、試すとしましょうか……」
ミルクは、右腕を構える。落ちてくる銀河と、創滅のガントレット。2つの地の力が、今ぶつかり合おうとしていた。




