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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・六部 ???? ミルク編
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圧倒的な違い

「生意気にも、これほどの魔力量の中でも動きよるか……」

「鍛え方が違うんでね」


 まるで、その魔力は大気中に渦巻く砂嵐のようだ。何故、未だに自分がこの中で立てているのかすら疑問にも思うほどの閉塞感。辺り一面に広がるレーチェの魔力の残滓。目を凝らせば凝らすほど、その量の凄さは視界を通して頭に流れ込んでくる。この一帯に、彼女の魔力以外の全ての空気中にあるものがなくなったのではないかという錯覚すら覚える。


 だが、俺はこうして立てている。ちゃんと空気もあるし、この魔力も物理的実体を持っていないのだろう。だが、それでも無視できない程の圧倒的な威圧をこの魔力から感じる。それは、この魔力を従えている、内包していた者の実力そのものをこの魔力達が生物に伝えているからだと俺は思った。


「……」

「喋ることすら、辛く思えるとは……」

「息苦しい。だが、耐えられないほどではない」


 レムや、ミズキの言う通り。耐えられはするが、気持ちが落ち着かない。正常な気持ちになど、この空間では成れやしない。なんせ、この重圧を放っているものが、今視界の中にいるのだから。


「……いつでも来い」

「そうですか。では、お言葉に甘えさせて頂きましょう」


 ミルクが、ガントレットを胸の前で打ち合わせて呟く。


「破砕のガントレット」


 ミルクのガントレットが、その形状を変え、指先の尖った姿へと変わる。それを地面に打ち付け、ミルクはレーチェへと飛んだ。


「ガントレットか。面白い武装をするものじゃな……」


 ミルクの腕の力は、脚の力よりも強く強力だ。それを使って空中に飛んだミルクの移動スピードは、放たれた砲弾に等しい。巨大な土のガントレットを携えた超重量級の砲弾だ。まともにくらえば、生物の生存を許さない程の威力を持っている。それを、俺達は訓練で魔法を、技術を使い受け流してきた。だが、レーチェはそれが、自身に近づいてきても気にもしない。


「直撃する」


 レーチェは、何も行動しなかった。直撃するのは当然だ。ミルクの腕力による加速と、腕の振り下ろしによる打撃。その2つの威力の乗った攻撃を、レーチェは何もせずに顔面で受けた。


「……」

「……かったい」


 ……あり得るのだろうか。何もしていない人物が、重量級の砲弾をその我が身で受けて、一瞬の揺らぎすら見せずに弾き返すなどということが。少なからず、レーチェの身体が吹き飛ぶと思っていた。ダメージは通らない気がしていたが、それにしてもこれ程とわ。


「ぬるいぞ」


 レーチェの腕から、何かが伸びる。それは腕だ。土の魔法で作られた腕。それは、ミルクのガントレットとは見た目が違い、なめらかな形状をしている。土独特の無骨さはあるものの、その動きの滑らかさは、武器というよりも腕そのものの延長のように感じられた。


 それが伸び、ミルクへと迫る。そして、未だ空中にいるミルクを叩き伏せるように動くと。そのままミルクを、地面へと叩き落とした。


「うわっ!!」


 ガントレットでガードし、ミルクは地面へと着地する。難なく着地したところを見ると、手加減されたようだ。


「次だ。今のが全力でもあるまい」

「よくお分かりで」

「身体の動きで、全力であるかどうかなどすぐに分かる。お前の実力の底もな」

「そう、ですか」

「全てを判断した上でいうが、お前ではわしに傷一つつけられはしない。安心して殴れ」

「……それの何処が、安心できるっていうんですかねぇ、全く」


 ミルクは、再び拳を打ち合わせた。


「破神の、ガントレット!!」


 また、ミルクのガントレットの形状が変化する。その形状は更にゴツく変化し、重量も破砕の2倍以上に変わる。これにより、ミルクの打撃力は、先程よりも増した。


「そう言うなら、確かめさせてもらいましょう。本当に、傷一つ付かないのかお」

「勿論よい。寄れ」

「……」


 ミルクが、歩いてレーチェに近づく。そして、ガントレットを構えると左右に揺れだした。その揺れは、僅かな揺らぎだ。だが、その揺れと共に、ミルクは体の力を抜いていく。そして、全身の力が一心に抜けきった瞬間、ミルクはその揺れに合わせて筋肉を爆発的に伸縮し、拳を一気に振り抜いた!!


「……」


 空気が破裂する音がする。ミルクのガントレットは、レーチェの左頬に命中した。しかし、レーチェは無傷。それどころか、体勢を崩した様子すら無い。普通なら鼓膜が破れると思うのだが、どうやらそんな様子もないようだ。


「……すぅ~」


 ミルクが、軽く息を吸う。その一瞬の硬直の直後、更にミルクは反対側の腕を振り上げた。ガントレットを、ミルクはレーチェの右の頬に向かって叩きつける。しかし、今度はそれだけでは止まらない。その力を利用して腰をバネのように動かし、限界まで縮めきると、そのバネの瞬発力を更にもう一方の拳に乗せて、ミルクは打ち付ける。そしてそれを左右の腕で繰り返し、ミルクは拳での乱打を行った。その拳の乱打は、一回打つごとに威力を増し、速さを増し、レーチェをまるで暴風雨のように風を巻き起こしながら滅多打ちにしていく。ミルクのパンチで大気が歪み、周囲の空気が全て動いていくのが感じられた。


「凄い!!あれなら、創世級といえど!!」

「いや、ミルクの腕が弾かれている。自身の力で、反動すら押さえ込みうち続けているが、あれは……」

「くっ!!」


 やがて、ミルクの連打が止まる。ミルクの顔には、大量の汗が滲んでいた。しかし、それとは真逆に、殴られていたレーチェは平静そのもの。まるで、穏やかな風でも通り過ぎたかのように、そこに佇んでいた。


「分かっていた。分かっていたが……」

「これ程なのか。創世級とは……」

「どうも、勘違いをしているようじゃから言っておくが。見えているものが、創世級の全てだと思わないほうが良いぞ。わしとて、本体はこの様にスマートじゃがな。いや、微妙に違うのは違うんじゃが。ともかく、この身体の構造は、明らかに貴様らの知っているそれとは違う」

「全く、その通りですよ。でなければ、私の連打が効かない理由が分からない」

「創世級と言う意味にはな、次代を作る・破壊できるの他にも、定められた意味がある」

「定められた、別の意味ですと?」

「そうじゃ。魔力を統べる者。純魔力生命体という意味がな」

「純魔力生命体?」


 聞いたことのない意味だ。アルティみたいな感じなのだろうか?


「純魔力生命体。それは、魔力そのもので体のすべてを構成されている生物のことじゃ。姿、形、その細胞に至るまで、全てをわし達は魔力で構成されておる。故に、生物のように見えて有り得もしない強度を持っておる。柔らかそうに見えて、有り得ない程の力を生み出す筋力を備えておる。この身体は、全てが魔力。しかも、超高純度のな。自然界に存在するどれとも違う、まさに究極の肉体。それをわしは、魔力で生み出しておるのだよ」

「つまり……」

「お前のような低純度で構成された魔力の肉体。それから放たれる打撃など。わしには響きもしないし、傷にすらならない。単純に、構成魔力量の時点でわしとお前には決定的な差があるのじゃ。じゃから、お前たちが束になろうともわしには敵わない。単純な話じゃろ」


 そうか。そういうことか。確かに単純だ。魔力こそが、俺達と彼女の筋力量の違いのようなものだったのか。ならば、俺達と彼女とでは圧倒的に質量。いや、魔力量が違う。そして、身体をレーチェ以上の高純度の魔力で構成するなんて、俺達には出来やしないだろう。そう考えると、今の俺達では彼女に勝てやしない。勝てるわけが無い。


「……ふっ。ですがね、私は貴方に勝っているものがある」

「ほう。わし以上の物があるというのか?」

「ええ、そうです。圧倒的にとは言えないかも知れません。ですが、少なからずとも、私は勝っている自信がある」

「冗談を申すな。強がっても、特にならんぞ」

「いえ、事実です」

「なら申してみよ。何処が、わしに勝っていると言うんじゃ?」


 ミルクは、顔を伏せる。そして、大きく息を吸い込むと、空中に向かって大声で叫んだ。


「おっぱいです!!!!」

「……」

「……」


 いろんな意味で、辺りが静かになった。





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