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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・六部 ???? ミルク編
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扱い

「モ~」


 競技場内に、のんきな牛の鳴き声が響き渡る。しかし、そののんきな声とは真逆に、参加者の表情には焦りが浮かんでいた。一人一人が、牛の部位を舐め回すように見つめている。持ち上げ方を考えているのだろうか?


「おし、次は俺が行くぜ」


 一人のマッチョマンが、スッと前に出た。男は牛の下に潜り込むと、背中で牛のお腹を押すように持ち上げようとする。牛のお腹に、ピタッと背中をつけると、前足と後ろ足を掴んで深呼吸を始めた。数秒後、大きな掛け声とともに、男は力を入れる。だが、それでも牛は持ち上がらない。しかし、その状態に変化が訪れた。ゆっくりと、牛が小刻みに震え始めたのだ。そして、ゆっくりと牛が地面から数センチ浮く。それを確認すると、司会のお姉さんが。


「成功です!!」


 と、合図を出した。すかさず、参加者の男性が、力を抜きながらゆっくりと牛を下ろす。


「ふっ。ざっとこんなもんよ」


 そういう男性の表情は、これ以上無く真っ赤に染まっていた。限界まで、力を込めていたようだ。その姿に、会場から歓声と称賛の声が飛び交う。すげぇ~、人間業じゃねぇ。


「おいおい、その程度かよ」


 それに続き、自分も成功させようと続々と参加者が牛の近くに集まっていく。その光景を、ミルクとレーチェさんは暇そうに見ていた。


「はい、合格です!!」

「うおおおおお!!!!」


 次々と、成功者が出てくる。全ての競技者が、競技を終えたのを見ると、ようやくミルクとレーチェさんも牛に近づいていった。


「さて、すぐに済みますからね」

「モ~」


 ミルクは、牛に語りかけるとその下に潜り込んだ。そして、両腕でお腹を押して、普通に持ち上げる。


「モ~」

「あ、少し痛いですか?ま、すぐ下ろすので、ちょっと待ってくださいよ」


 牛が浮いたのをお姉さんが確認すると、スッとミルクは牛をおろした。


「あ、汗1つかいてねぇ……」

「どうなってやがんだ、最近の子わ……」


 あまりにも軽く持ち上げるミルクに、成功者からの驚きの声が上がる。だが、ミルクが牛を下ろした直後、レーチェさんが牛の脇腹を乱暴に掴み上げて、片腕で持ち上げた。


「モ~~!!!!」

「うるさいのう……」

「いやいやいや!!それは痛いでしょ!!何やってるんですか!!」


 ミルクが、レーチェさんの腕を降ろさせる。お姉さんも確認していたため、競技としては成功扱いだが、下ろした瞬間、牛が暴れてレーチェさんを頭でどつこうとしていた。


「モ~~!!」

「やかましい……」


 レーチェさんが、一歩前に出ようとする。だが、それをミルクが止めて、片腕で、牛の頭を掴み動きを止めた。


「どうどう。怒るのは分かりますが、今ので分かるでしょう。勝てる相手ではありません。落ち着いて下さい」

「……モ~」


 牛が、ミルクの声に姿勢を正す。そして、競技場の壁際へと逃げていった。


「いや、あれは怒るでしょ」

「だいぶ、優しく持ち上げたつもりなんじゃがなぁ~」

「いやいやいや、めっちゃ肉を鷲掴んでましたよ!!あれは酷い!!!!」

「そういう競技じゃし、止む終えないじゃろ。あれが、持ちやすい持ち方なのじゃし」

「牛だって生きてるんですから、少しは配慮をですねぇ」

「あまり気にするな。ほら、次に行くぞ」

「あ、ちょっと!!」


 レーチェさんは、気にせず成功者が並んでいる列に並ぶ。その後を、ミルクが追いかけていった。


「……」

「ベイ」

「あの牛は、レーチェさんにはどう見えているんだろうな」

「……私達とは、違うように見えているのかも知れないわね」

「ああ。俺達が、道端の小石を拾うようなものなのかも知れない。それに意味があるのならやる。しかも、それがあまりにも簡単すぎて、それに加わる力であるとか、外傷を考慮しないのかも知れない。レーチェさんは、俺達とは普通に会話していたが、それは、人間と長く暮らしていたからだろう。で、それ以外には、ああなのかもな」

「そうね。まるで、なんでも無く物を持ち上げるように。邪魔だから殺す。そんな感じに見えたわね」

「ああ。ミルクが止めなければ、恐らくレーチェさんは、あの牛を殺していた。まるで、埃でも払うような手付きで、牛の首を払って吹っ飛ばしていた。そういうふうに、俺にも見えた」

「レーチェちゃん、凄すぎ!!世の中広いわ」

「居るものですね。ミルクさんのような女性が……」


 他の皆は、ミルクという前例があるから、そういう人なのだろうとレーチェさんを見て思っているようだ。 ……このまま、何もなくこのイベントが終わると良いのだが。


「さてさて、牛一頭を持ち上げた選ばれし筋力を持つ勇者たちよ!!あれを見て下さい!!」


 お姉さんが、場外を指差す。すると、何やら巨大な物体が全身に布を被せられた状態でやってきた。その物体は、先程の牛の体格の三倍ほどの大きさで、ゆっくりミルク達に向かって歩いていく。


「で、でけぇ~」

「それでは、ご紹介しましょう!!ブランデュシカが誇る、最大最重量を誇る闘牛・ブランビッガー!!!!」


 その声と共に、布が外された。そこに居たのは、あまりにも巨大な茶色い牛だった。


「なんだ、あれわ……」

「確か、一部地域の魔物が発生する地点では、魔物に対抗するかのように成長した牛がいるって話だったわね。好戦的で、人の飼育は困難なんだとか」

「この地域では、闘牛という牛同士を戦わせるお祭りも行われています。そのために、そうした牛も飼育されていると書いてありましたが。まさか、人前に出すとわ……」

「それでは皆さん、最終競技です!!あの巨大な怪物牛。ブランビッガーを持ち上げて下さい!!」


 お姉さんのその声に、ブランビッガーと言う怪物牛は、参加者目掛けて厳つく頭を下ろした。まるで、迫り来る挑戦者を威嚇するように。


「ただし、ブランビッガーはとても獰猛な種類の牛です。近づくことさえ困難!!その動きを、力で制して、見事持ち上げて下さい!!」

「嘘だろ!!」

「前回より、ハードル上がってるじゃねぇ~か!!」

「前回優勝者が、闘牛もってこいとか言ったからか!!そうなんだな!!」

「お前のせいかよ!!」

「……まじで、持ってくるとは思わなかった」


 一人のマッチョマンが、申し訳なさそうにしている。彼は、参加者の中でもそれなりに軽々と牛を持ち上げていた者の一人だ。まぁ、ミルクたちほどでもなかったが。でも、きっちりと牛を持ち上げきっていた。


「仕方ねぇ。俺がやる」

「……いや、お前は下がってな」

「えっ?」

「俺達が、お前に見せてやるぜ」

「ああ、今年の優勝者は、お前じゃないってことをな!!」

「お前ら……」


 優勝者のマッチョマンを止めて、他のマッチョマン達が牛へと忍び寄っていく。ある者は後ろから。ある者は前から。隙きあらば牛の下に潜り込もうとその機会を伺っていた。


「……貰った!!!!」


 一人のマッチョマンが、背後から駆け出す。だが、牛はすばやくそのマッチョマン目掛けてしっぽを振るうと、マッチョマンを叩いて吹き飛ばした。


「なあああああ!!!!」

「……」

「怯むな!!かかれ~!!!!」


 他のマッチョマンが、一斉に牛へと駆け出す。だが、その全てを牛は、体を震わせて弾いた。


「どわああああ!!!!」

「生き物の動きじゃねぇ!!!!」

「痛い!!結構痛い!!」


 マッチョマン達が、地面を転がりまわる。怪我はしていないようだが、すごく痛そうだ。


「ふっ、やはり、俺が行くしか無いのか」


 前回優勝者と思われるマッチョマンが構える。その光景を、ミルク達はあくびをしながら見ていた。






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