並び立つ楽園
「……」
少女が席を立つ。そして、ゆっくりと歩み始めた。
「ベイ、と言ったな。わしはレーチェ。レーチェ・デカブラと名乗っている。もっとも、それ全てで本来は名前なのじゃが、長いゆえな。レーチェで構わんぞ」
「は、はぁ」
やがて、ミルクの前にレーチェは移動すると止まる。そして、マントの前部分をはだけさせた。
「!?」
「……」
そこには、並び立つ4つの巨大な山があった。片やミルクの奇跡とも言える神乳。少しだけ見えている谷間と、その圧倒的な胸囲から醸し出されている癒やしパワーは、まさに奇跡の産物。この世にもたらされた俺専用の楽園と言っても良い。
「互角じゃと。わしと、互角じゃと言うのか……」
片やレーチェの神乳も、これまた奇跡の産物と言わざるおえないものだ。大部分が今にもはちきれそうになっているシャツで隠れているが、そっと、その中で谷間部分が顔をのぞかせている。その褐色に染まっている肌のなんと健康的なことか。あれは、常夏の日差しのもとですくすくと育ったに違いない、常夏の楽園だ。ミルクとは、また違った場所に存在する楽園なのだ。そうに違いない。エデンは2つあったのだ。
「ふっ、やりますね」
「お主、名前わ」
「ミルク。ミルク・アルフェルト」
「ミルクじゃと。くはは、なるほど。その名が相応しい。わしは、レーチェじゃ」
「いい響きの名前ですね。レーチェさん」
「ミルクも、また良き響きじゃのう」
会話は穏やかだ。だが、外から見ている分には、そうではない。睨み合っている。微笑んだりはしているが、内心で睨み合っている。俺には分かる。2つのエデンが、お互いを認識してしまったのだ。この2つのエデンを見つけた俺にとっては、幸運でしかない。しかし、とうのミルクとレーチェにとっては、競り合う敵を見つけてしまったと言う認識なのだろう。何という不幸。そして、何という最高の光景。エデンとエデン。その間に、何か奇跡的なパワーが溜まっている気がする。俺には、そんな気がしてならない。
「少し、わしも同行させてくれぬか。お主の兄、気に入ったのでな」
「いえ、夫です」
「……そのなりで、婚姻しておるのか?」
「貴方こそ。私と同じ身長なのに、口調が古臭いですね。お年を重ねていらっしゃるのではないですか?」
「……既婚者か。むしろ良い。嫁は気に食わぬが、条件としては有りじゃ」
「ところで、何時までマントをはだけさせているんですか?露出狂ですか?変態なんですか?そのシャツ、乳首透けるんじゃないですか?法的に大丈夫ですか?」
「ええい、うるさい!!厚手じゃから見えんわ!!だいたい、そこいらの布製品と一緒にするな!!もう良い!!確かめたから隠す!!」
ああ、エデンが隠れてしまった!!
「ふん、口の聞き方がなっていない牛乳じゃのう。ベイよ、嫁の教育はしっかりせんといかんぞ」
「あ、はい」
「いえいえ、ご主人様は悪くありません。むしろ、この露出狂が悪いのですから」
「露出しとらんわ!!何処がじゃ!!大部分隠れておったじゃろう!!」
「そのシャツ。短いですよね?」
「おう、そうじゃが?」
「下から、胸が見えますよね?」
「……お、おう。そうじゃな」
「……下乳露出狂じゃないですか」
「いやいやいや、わしの下に潜り込んでくるやつなぞおらんじゃろ!!そんな奴が日常茶飯事におったら、人間社会崩壊じゃぞ!!モラルの低下じゃぞ!!」
「なるほど。覗かれないのを理由に、露出して楽しんでいたわけですね」
「楽しんでおらんわ!!涼しくて楽だからやっとるだけじゃ!!蒸れるんじゃ!!」
「ああ~、それは分かります」
「じゃろう!!都合がいいんじゃよ!!たくっ、なんじゃこいつわ。わしを露出狂呼ばわりしおって」
「す、すいません」
「まぁ、良い。ほれ、何処かに行く予定とかはないのか?」
レーチェは、俺を見つめる。そして、俺はロデを見つめた。
「そ、それでは、農場にでも行ってみましょう」
「お、良いのう。よし、行くとするか」
「なんで、貴方が仕切るんですか」
「いや、わし年長者じゃし」
「ほほぅ。……ま、良いでしょう。ご主人様がお招きしたんです。変な行動は、やめてくださいね」
「何もせんわ!!さっきから、普通じゃったじゃろうが!!わし、滅茶苦茶一般的なんじゃが!!」
そう言いながら、ロデの案内でレーチェとミルクは進んでいく。並び立つ2つのエデン。それが歩いて揺れている。ああ~、最高だな。
「ベイ」
「どうしたんだ、アリー?」
「あの子、おかしい。身体から出ている魔力に、揺らぎがない。完全に、魔力を制御してる。只者じゃない」
「……」
どうやら、思考が何処かに旅立っていたようだ。おかえり思考。そして、おかえり現実。今の言葉で、はっきりとした。そう。楽園が2つとか言っている場合ではない。恐らくもなにもない。レーチェ・デカブラ。彼女はもしかすると。いや、もしかしなくても。
「創世級……」
「……嘘でしょ。あんな子が」
「いや、間違いない。レーチェさんは、神の奇跡を授かっている」
「神の奇蹟?よく分からないけど、ベイには彼女の秘めている力が分かるのね。凄いわ」
「……」
いや、そういう物ではないんですけどもね、アリーさん。俺は、歩きながらレーチェを見つめる。レーチェは、そんな俺を見ると、可愛らしくウインクしてきた。……可愛い。
「ご主人様~」
「ミルク、どうした?」
「私がおりまする!!私がおりまする!!」
「よしよし、ミルクは最高だなぁ~!!」
「ご主人様!!もっとかまって!!あいつより、私を見て!!」
「なんじゃと!!ベイよ、そっちよりわしの方が良かろう!!許すゆえ、もっと見るが良い!!」
「残念でした~!!ご主人様の視界は、私でいっぱいです~!!貴方の入る隙間なんてないんです~!!」
「ふざけるな!!避けろ!!ベイが見たがっておるじゃろ!!」
「見たがってません~!!」
「あはは」
こんなミルク、初めて見るな。俺は、よじ登ってくる2人を抱えて苦笑いを浮かべながら、ロデについて行った。