時代の流れ
「うっし、水浴びもして綺麗さっぱりじゃの!!」
彼女は、一糸まとわぬ姿で川から上がる。そして、作成した新しい服を着た。
「うむ。しかし、些か色が物足りないのう。少し染めるか」
そう言うと、彼女は種を取り出して地面に飛ばす。それはすぐに大きな木へと成長し、黒い実をつけた。その木を、彼女は叩いて実を落とす。その瞬間、彼女は持っていた布で実を弾いた。すると、実の色素が布に移り、一瞬の内に乾いていく。そして、黒い染め物の服が出来た。
「これを上に羽織れば、まぁ、マシじゃろう。今の時代の人間のファッションセンスは分からぬが、なに、違っていれば後で変えればいいだけのこと。よし、街に行ってみるかの」
そう言って、彼女は再び歩き始めた。鼻歌を歌いながら、彼女は進んでいく。何人かの人間とすれ違ったが、どうやら怪しまれてはいないようだ。彼女は、そのまま街を目指すことにした。
「さて、ここかのう。何というか、1世代前のような作りの街じゃな。いや、一応レンガ造りの家もあったかのう?あの都市もあの都市で、変に発達したところと田舎っぽいところがあったからのう。まぁ、これもありか」
彼女は、街の中へと特に門番に止められることもないまま侵入する。愛想よく彼女が門番に挨拶をすると、門番も笑顔で彼女に挨拶を返した。
「うむ。言語も同じじゃな。挨拶もしっかり出来ておる。野蛮にはなっておらんようじゃのう」
彼女は、街の中を散策する。そして、お目当ての店を見つけると、そこに入っていった。
「邪魔するぞ」
「は~い。おっと、可愛らしいお客さんだ。どういった用事だい?」
「うむ。ここで買い取りはやっておるかのう?金属製品とか?」
「買い取りかぁ。それならマルシア商会とか、ギルドとかのほうが良いと思うが。まぁ、うちでも買い取れなくはないぜ。使い古した鉄製品を、安値で良ければだが」
「ふむ。では、これはどうかの?」
そう言うと、彼女は何かを取り出すふりをして、その場で鉄製の剣を作り上げた。
「どうじゃ?」
「え。それは新品じゃないのかい、お嬢ちゃん?」
「良いんじゃ。もう、我が家には必要ないものじゃからのう。いくらか、足しになれば良い」
「そ、そうか?……まぁ、いい剣だな。良く研がれてやがる。よし、色つけてこんなもんでどうだ」
店主は、何か金額らしきものを書いて提示したが、彼女はそれに目もくれず頷いた。
「まぁ、それでよい。買い取ってもらっていいかの?」
「ああ、勿論だ」
店主は、お金を持ってくると、彼女に渡した。それを、彼女は腰に魔法で作り上げた、今出来たばかりの鉄製のウエストバッグに入れる。
「ありがとうの」
「ああ。どういたしまして!!」
店主と挨拶を交わすと、彼女は店の外へと出ていく。そして、彼女は今受け取った金額を頭に思い浮かべながら、市場を歩くことにした。
「なるほどのう。この金額なら、数日は食っていけそうじゃわい。あの若造、ぼったくったわけでは無さそうじゃのう」
市場の商品の値段を見ながら、彼女はそういう。暫く練り歩き、赤いリンゴを彼女は1つ買うと、宿屋に行って今日の宿泊分のお金を払った。
「お食事は、あちらから好きなものを取ってお食べください。夜の10時になりますと片付けさせていただきますので、ご必要でしたらそれまでにお願いいたします」
「うむ」
彼女はそう言われると、先程買ったリンゴを食べながら、色々な料理の並べられているテーブル付近に料理を見に行った。
「ほう。こんな小さな町で、バイキング形式か。そんなところは風習として残っとるんじゃのう。しかし、どれも郷土料理と言った感じで花がない。しかし、そんなものほど美味いということもある。どれ、試してみるか」
彼女は、そう言いながら食べていたリンゴの芯を空中に放り投げる。その芯が、再び空中から落ちてくることは無かった。
「……うーん。何というか、美味いとも言えない。それでいて食べられなくもない味じゃあ。上辺にしっかりと味はあるんじゃが、何というか、すぐにその味も消えて薄く感じてしまう。味付けが足りんのではないか?」
そう一人事を言いながら、彼女は皿に少し取り分けた味見用の料理を全て平らげた。
「……ま、最近こういうのも食ってなかったからのう。ある意味、新鮮じゃわい。じゃが、これ以上は遠慮するかの」
彼女は、宿屋の自分の部屋へと移動する。その間、所々に張られていた催し物のチラシのような物を眺めながら、ゆっくりと彼女は部屋へと向かっていった。
「ふむ。熊狩かぁ。開催時期は先じゃが、今から次の参加者募集とは、気合が入っておるわい。こっちは漁業大漁祭じゃと。取れてもおらんのに開催が決まっておるとは、アルナファティクと言う街は、余程裕福な街なんじゃのう」
一つ一つ、見逃す事無く彼女は眺めていく。
「うーん、どれもイマイチじゃな。手っ取り早く儲かる物はないのかのう。出来れば、わしの強さがアピールできるともっと良いのじゃが。そして、適当に裕福な会社にボディーガードとして雇われて、後は、気長にあいつらが出てくるのお待つとするか。また変なお願いをされても困るしの。今度は、あいつらを虚無の彼方に葬るまでは支配者として君臨するのは無しじゃ。支配者には、支配したものを守る義務があるからのう。今度は、そういうの無しであいつらと殴り合うのが先決じゃな。そっちのほうが楽じゃし」
そう言いながら、彼女は自身の部屋へと着いた。
「うむ、イマイチじゃ。微妙な硬さのベッド。わしが座っていた、以前の玉座とは比べ物にもならんわい。じゃが、久しぶりのベッドじゃ。ふむ。ま、良しとするか」
そう言うと、彼女は身につけていたサイドバッグを取って、ベッドに寝転んだ。すると、足元の壁に一枚のチラシが張ってあるのが目に入る。辛うじて、彼女のバストの間から。
「おや?ほうほう。なるほどのう」
彼女は、ニヤリと笑うと、そのままベッドに寝転んで寝ることにした。