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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・六部 ???? ミルク編
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創世の力

「あ~、どいつもこいつも、うるさいのう」


 森の中を歩きながら、彼女はそう呟いた。彼女の周りの自然は至って静かだ。だが、彼女には分かる。異変を察知して近づき、集まってくる者達の音が。彼女の踏みしめている、地面を通して。


「あっちと、あっちに国と軍隊か。あっちに村。そしてあっちに都市と」


 森の中、彼女は見えているかのように方角を指差す。その時、彼女のお腹が可愛い音をたてた。


「……腹、減ったのう」


 彼女は、おもむろに右腕を横に広げる。すると、地面から突然芋が飛び出してきた。それを、彼女は知っていたようにキャッチする。


「ま、これでいいかの」


 彼女は、そう言うと何もない空間から、鉄の串を作り出した。それを芋に差し、地面に突き刺す。今度は、適当な木々に近づくと、その木に指を触れた。すると、一瞬にして木は枯れて、バラバラとなり、程よい木材となった。


「よしよし、よく乾燥しておる」


 無造作にその木材を手に取ると、彼女は、両手でその木材どうしをすり合わせて火を起こした。それは、一瞬の出来事だった。火の着いた木材を並べて、その上に枯らせた落ち葉を巻き、落ち葉の中に芋を入れて彼女は芋を焼く。


「どれ、出来たかの?」


 数分後、彼女は鉄の串を使って、芋を持ち上げた。


「良さそうじゃな。いただきま~す」


 彼女は、芋を口に近づける。彼女の口に芋が入ろうとした瞬間、芋の皮が全て消えた。ホクホクと焼き上がったその中身だけが、彼女の口に入る。その芋を、美味そうに彼女は食べた。


「う~ん、やっぱ自生しとるもんは違うのう。味が独特じゃわ。わしの能力で生産した、味の完全再現された量産品とは違う違う」


 彼女はそう言うと、懐からなにかの小さな粒を取り出した。それを、彼女は地面に投げる。


「とは言っても、美味いもんは美味いんじゃがの」


 すると、すぐにその小さな粒が成長し、巨大なリンゴの木になった。実ったばかりの実を取り、彼女は口に含む。すると、溢れんばかりの果汁が飛び出して、彼女の口の中を満たした。


「うむ、美味い。しかし、やはり飽きる。せっかくあの狭い迷宮から出てきたんじゃ。もっと新しい味を試してみたいもんじゃのう」


 彼女は、りんごの木を叩く。すると、木の繊維が弾け、折り重なり、新たな服を作り上げた。それは、まるで糸で出来たかのような仕上がりの服であった。


「よし、では水浴びと行くか」


 服を持ち、彼女は水場目指して歩き始める。彼女の焚き火した後は、そこに焚き火など無かったかのように姿を消し、後には炭のついた地面だけが残っていた。


*****


 創世級迷宮・最下層崩壊。そのニュースは、瞬く間にどの街にも、どの国にも響いたという。そして、その時刻。全ての人間が、全ての生物が、同じ方向を見つめていた。


「中身が死んだ、ってわけじゃ無さそうだね」


 ライアさんは、どうやら跳ね起きたようだ。そして、先程から小刻みに震えて、変な汗を流し続けている。俺は、そんなライアさんを、何故か抱きかかえていた。


「わ、悪いねベイ君。すぐ、すぐ治まるから」


 先程まで、ライアさんの体は血の気が引いたかのように冷たくなっていた。それを、今は俺が温めている。どうやら、先程までよりもライアさんの体調が治ってきたようだ。今は、身体が暖かくなっていくのを感じる。


「アリーちゃん」

「……これは予想外ね。まさか、ここまで早いとわ」

「人類は、もう終わりなのかも知れない」

「ライアおばさん、それは、まだ早い結論です」

「そうかもね。でもね、私には分かったんだ。あれは、やっぱり格が違う。神魔級なんて、比べ物にもならない。あれは、正真正銘の化物だ……」


 それは、俺達も感じた。何かが、この地上に降りたのが、あの一瞬で理解できた。それは、今まで見てきたどの魔物よりも強烈で、拭い去れないほどの恐怖する力を持った化物。姿は分からないが、その魔力はあまりにも大きく。この場所に居ながらにして、奴に殺されるのでは無いかと俺たちは思ったほどだ


「私にも分かります。創世級。特に、あの中にいる連中は格別」

「でも、アリーちゃん震えてないね。大したもんだ」

「おばさん、私、夫を信じていますから」


 アリーは、そう言いながら俺に微笑んだ。


「ふっ、アリーちゃんにはかなわないねぇ。ベイ君、いい子をお嫁さんにしたよ」

「はい」


 俺としても、そう思う。ただ、アリーの期待は重いのだ。だが、それが心地よい。どんな難題であっても、その気持に答えようという気になる。不思議なものだ。これが愛か。


「でも、今の所、破壊された街などは無いんですよね?」


 そう、ミルクは呟く。


「そうみたいね。すでにこの街にまで、創世級迷宮の最下層が消えたという情報は響き渡っている。だけど、何処かが襲われたという情報は、耳に入っていないわね」

「つまり、創世級は戦う気がないか。今は動けない理由があるんですよ」

「と、いうと?」

「理性的な相手ということです。となれば、下手に構わなければ衝突することもないはず」

「なるほど。成るように成るってわけね」

「そういうことです。今は、放おっておきましょう。何処にいるかも分かりませんし」

「へ、へ~。創世級を放おっておくかぁ。中々、大胆なことを言うね、ミルクちゃん。……だったっけ?」

「ええ、そうです、ミルクです。ライアさん、胸を見ないでいただけますか。私のは、ご主人様のなので」

「あ、ごめん……」

「大胆、とは言いましても、実際に打てるてもない訳です。ならば、いっその事この時間を有効に使いましょう。縮こまっていては、一回きりの人生が台無しです」

「そ、そうかもね」


 ライアさんは、その言葉を噛みしめるかのように、数回頷く。そして、その体の震えを止めた。


「確かに、縮こまっていても仕方がない。私は、私に出来る事をするよ」


 ライアさんは、フラフラと歩こうとする。だが、まだ身体がふらついているので、とても危なっかしい。結局、俺はまた、ライアさんを抱きしめることにした。


「あ、ベイ君。おばさんに、そんな……」

「ライアさん、無理はいけませんよ」

「む、む~」


 ライアさんは、何処か拗ねたような顔をした。しかし、何故か嬉しそうに感じる。


「そうね。時間は有効に使わないと。それじゃあ、まず始めに……」

「お、魔法の修行だね?」

「アルナファティクに行きましょう」

「……は?」


 ライアさんは、アリーを凝視した。


「アルナファティク。今回の水害で復興中の都市です。そこにロデの両親がいるので、まずは安否の確認をと思いまして」

「あ~、そうだったね。そう言えば、雨がひどかったんだ。完全に忘れてたよ」

「どうやら、雨はやんだようです。ですので、出来る限りロデの家には早く復興して頂き、お金を稼いでもらわないと」

「アリーちゃん、こんな時にお金の話する?」

「いえ、もし創世級がミルクの言う通り、理性的な相手であるならば、交渉できます。そして、交渉事には、何をおいてもお金がいります」

「……まさか、マネーパワーで創世級をたらしこもうと?」

「それも、ありかも知れませんね」


 アリーは、ライアさんを見てニヤリと笑った。



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