ガントレットマスター・ミルク!!
「ガントレットマスター・ミルク!!見つけたぞ!!悪しき魔物、その根城の神魔級迷宮お!!クククッ、とうとうたどり着いたようだな、ガントレットマスター・ミルク!!私の身体は、とてつもなく火の魔法に弱い。が、別に火の魔法でなくとも、お前なら一回殴っただけで私を倒せる!!くらえー!!ギャアアアアアア!!ヘルボディーがやられたようだな。クククッ、奴は四天王の中でも最弱。お前らも消えろ!!ギャアアアアアア!!まさか四天王を一気に倒すとわな、恐ろしい。良かろう、かかってこいガントレットマスター・ミルク!!我の体の秘密が解けるかな!!お前は、迷宮の中心部に本体を隠し持っているだけだろうがぁ~!!次回最終決戦、大団円・ガントレットマスター大勝利、輝く未来へガントレット・ゴー!!」
「……」
そう一気にいい終えると、ミルクは、わざわざこのために描いたであろう紙芝居を勢いよく破りさいて捨てた。
「と、ミルクちゃん快進撃で終わるはずだったのですが……」
「うんうん」
「これだと、やっぱ駄目でしょぉおおおおおお!!!!もっと、もっと手応えのある相手のはずじゃなかったんですかぁぁああああ!!!!」
ミルクは、そう叫ぶとその場に崩れ落ちた。昔ながらの四つん這いスタイル。初期のミルクの、基本姿勢とも言える。その姿勢は、崩れていても何処か安定感のある佇まいをしていた。
「別にいいじゃないか。そこまで悔しがらなくても」
「ご主人様!!一体化!!全属性一体化は、私達にとっての大きな達成目標!!順々につなぐことで、ああ~、次は私がご主人様の役に立てるんだなぁ~。と、期待を煽るとても大きな達成目標なのです!!……それが出来ないこと、このミルク、悔しゅうございます……」
「面を上げい、ミルク。そなたの心、よく理解した。しかし、今はその時ではない。時が来れば、必ずやその覚悟を見ゆる時が来るだろう。その時こそ、この俺にその並々ならぬ力、あ、ずずずいっと見せてくれ」
「は、はい、ご主人様!!このミルク。この魂にかけて、愛するご主人様の為に、この腕を振るわせて頂きます!!」
「うむ。その言葉、万の味方を得るよりも頼もしい。では、それまでしばし我慢してくれるな」
「いえ、無理です(即答)」
「……」
即答された。しかも、そう言うとミルクは、四つん這いで物凄い速さで俺の足に掴まりにきた。そして、俺は足を掴まれた。
「な、何をする……」
「ご主人様、抱きしめて眠っていただいたこと、とても感謝しておりまする。ですが、少々我慢が効かなくなりまして……」
「まさか、ミルク、お主……」
「丁度、ベッドが空いておりまするなぁ……」
「……離せー!!このスケベー!!」
「クフフッ、良いではないですか!!良いではないですか!!」
ミルクは、圧倒的な腕力で俺を持ち上げてベッドに投げると、そのまま覆いかぶさってきた。あまりにも主張の強いその豊満なバストが、俺の胸に押し当たる。
「嫌だ~!!待ってよ、ミルクさん!!まだお昼よ!!ご近所迷惑よ!!」
「大丈夫です。設計段階で、この家はある程度防音。そして、ご近所さんもご主人様の両親のみ。完璧じゃないですか!!お昼からエンジョイ!!」
「いや、待て!!明らかに全員集まってくるだろ!!その上、今はライアさんもいるんだぞ!!まだ寝てるけど!!」
「……おっと、そうでした。部外者が一名いましたね。しかも、相手はヒイラさんのおばさん。起きてみれば、ヒイラさんの想い人が他の美少女とくんずほぐれつ。……燃える展開なのでわ?」
「いや、何処がだよ!!」
「乱入イベント発生というところでしょうか。私に抗議したければ、私より強いことを証明しろ的な?ベッドの上で的な?」
「いや、ライアさんだし、そうはならんだろ」
「どうですかねぇ。怪しい気がするんですよねぇ、あの人……」
そう言いながら、自身の服を脱ぎ始めるミルク。
「待て。ストップ」
「おや、何故ですか?」
「それ以上は、俺が我慢できなくなるぞ」
「ふふっ。勿論、望むところですよ」
「……」
ミルクの顔が近い。その距離が、徐々に縮まっているのを感じる。抵抗する気もなく、俺はそっと目を閉じた……。
ズッ。
「……!!」
「!?」
すべての空気が消し飛ぶ。一瞬にして、俺とミルクは同じ方向へと目を向けた。それは、この家のドアではない。それよりも遥か遠く、創生級迷宮のある方向に向かってだ。
「マスター!!」
「主人!!これは!!」
フィー達が、足速くドアを開けて入ってくる。俺とミルクも立ち上がると、俺はやって来たカザネを指さして頷いた。
「しょ、承知」
僅かだが、カザネの声が震えている。俺たちは、カザネを中心に一体化すると、転移して一気に創世級迷宮の近くへと飛んだ。
「……なんだ。これは」
それは、姿を変えた創世級迷宮の姿だった。その姿、一度見たら脳裏に焼き付いて離れなかったその姿が、最下層を変えている。否、最下層が消えたといったほうが、この場合は正しいのだろう。俺たちは、辺りを見回す。そこには、まるですべての季節がいっぺんに訪れたかのように咲き誇る花々の姿が見えた。しかし、それ以外は何も見えない。魔力であたりを探っても、どんな驚異的な存在も捉えることは出来なかった。
「杞憂、でしょうか……」
「いや、それはない。考えたくもないが、最悪の事態が起きてしまったようだ」
「でしょうね。マスター、カザネさん。それが事実のようです。我々は今、確認してしまったようです。真の創世級。それが、野に放たれたのを」
「……」
辺りに咲き誇る雄大な自然を、俺達は数分間、思考を止めてその場で眺めていた。




