破壊された檻
「やっほ~!!ライアおばさんだよ~!!」
「おばさん!!」
ライアは、転移したその足でサイフェルムへと来ていた。そして、見たことのないでかい家から知り合いの魔力を感じると、その家のドアを叩く。そして、出てきたヒイラに突如として抱きしめられていた。
「おー、よしよし。ヒイラちゃんは、甘えん坊だなぁ~」
「良かった。無事で良かったよ!!」
ヒイラは、泣きながらライアを抱きしめている。その後ろから、アリーが顔を出した。
「あら、おばさん。もう終わったの?」
「うん。ライアおばさんだよ。当たり前じゃないか!!」
「ふふっ、流石おばさんね」
「当然!!……あれ、ベイ君わ?」
「あ、そうね。ベイー!!」
アリーが家へと入っていく。すると、アリーに支えられてベイが出てきた。
「ライアさん、お久しぶりです」
「おおー!!ベイ君、お久~!!」
ライアは、ヒイラに抱きつかれたまま、ベイへと歩み寄った。そして、ふむふむとベイを眺めると、そのまま抱きしめる。
「えっ?」
「どうやら、辛い修行をしたばっかみたいだね。よしよし、いい子いい子」
「あ、あはは。分かりますか」
「そりゃあそうよ。ライアさんも、よくボロボロになるからね。分かる分かる」
暫く抱きつくと、ライアはその場で動かなくなった。
「ん?ライアさん?」
「……くぅ~」
ベイは、ライアを観察する。すると、抱きついたまま、ライアが眠っていることが分かった。
「ライアおばさんも、お疲れみたいね」
「無理もない。迷宮を1つ、相手取って戦ったんだから」
ベイは、片腕でライアを持ち上げる。そして、家のベッドに寝かせると、自身も別のベッドで眠りについた。
「弱すぎいい!!!!」
ミルクは、起き抜けにそう叫んでいた。その声で、ベイ達は目を覚ます。
「何だ、ミルク。いきなり」
「いや、あいつ弱すぎるでしょう!!一体化無しでしたよ、レム!!」
「仕方ないだろう。そういう特性の奴だったんだ。お前とは、相性が悪かった。いや、この場合は良かったというのか?」
「いえ、私と相性がいいのは、ご主人様だけですので!!ようは、弱かっただけです!!」
「まぁ、そうだな」
「アルティ!!あれでいいんですか!!」
「ええ、情報は収集済みです。ですが、ミルクさんの一体化情報が無いのは、痛いですね」
「でもでも、あんなザコ相手に、一体化する意味ないでしょう?」
「そうですね。弱い相手に一体化していただいても、意味がないです」
「つまり、私の一体化は、まだお預けってことじゃないですかぁぁああああ!!!!」
ミルクは、力いっぱい叫ぶ。そのミルクを、ベイは抱き寄せた。
「よしよし、ミルクはスペシャルだもんな。だから、いずれ相応しい相手が出てくるさ」
「ご主人様!!そ、そうですよね!!私はスペシャル!!その私の相手が、あんな奴で務まるはずもございません!!そう、どうせなら、創生級クラスでないと!!」
「はいはい」
はしゃぐミルクを、ベイはなでなでする。そして、そのままミルクを抱きしめて二度寝した。
「また、寝られてしまいましたか」
「ミルク、起こしちゃダメだぞ」
「わ、分かってますよ。ああ、しかし、ご主人様のいい匂いが。ここが天国」
寝ているベイに、ミズキが近づく。そして、そっと寝ているベイに、口づけをした。
「お疲れ様です、殿」
「あっ、ミズキ。何を」
「では、私も」
「フィーも」
「わ、私も」
「えっ」
ミルク以外の全員が、ベイに口づけをしていく。しかし、ミルクは抱きしめられているので動けない。
「ば、馬鹿な。そんな、こんなことって」
「天国だろ。羨ましいぞ、ミルク」
「ぐぬぬ、ご主人様が起きたら、私もやりますからね」
「あはは、そうだな」
ミズキは、笑いながら愛おしそうに、ベイの頭を撫でていた。
*****
「……そろそろか」
衝撃が重なり始める。それは、偶然に近い物だ。無計画に暴れまわる化物共の攻撃が、その一時のみ、同じ方向に集中して放たれる。その瞬間、迷宮の壁は、攻撃の損傷によって最も薄くなったと言えるだろう。それと同時に、その化物は、溜め込んでいた魔力をその一方向目掛けて解き放った。
「……」
静かに、空間に凹みが広がっていく。ゆっくりとその間に、土で出来た巨大な身体が吸い込まれるようにして割って入り、その穴を補強していった。そして、その一瞬の先。ついにその化物は、壁を破って外の世界へと着地する。
「よっと。ふぅ、やれやれ、やっと出れたか。しんどかったのう」
それは、ゆっくりと後ろを見た。その小さな化物の背中。そこにある迷宮から、無数の鎖のようなものが飛び出して、彼女へと迫ってきている。
「もう出たからな。内側からは頑丈だったが、外側からはどうじゃ?」
そう言って、彼女は腕を鎖目掛けてかざした。すると、鎖が空中で分解されていく。そして、そのままその迷宮の最下層が砕け散った。
「外側からだと脆いもんじゃの。さて、忌々しい迷宮から脱出したことじゃし、外の世界を見て回るとするか。まぁ、その前に水浴びじゃな。わしの身体が汚れるわけも無いが、エチケットは大切じゃからの」
そう言って、化物である彼女は一歩踏み出す。すると、辺りの草花が枯れた。
「おっ、相変わらず脆いもんじゃのう。どれ、これでいいかの?」
彼女は、再び一歩踏み出す。すると、今度は草花が枯れることはなかった。反対に、今度は彼女の周囲に花が咲き始めていく。そして、その花が広がり、枯れた草花を蘇らせた。
「大きく育てよ。わしが、支配する星の草花なんじゃから」
彼女は歩いていく。そして、その背後で、最下層を失った創生級迷宮が、大きく音をたてて地面へと落下した。しかし、辺りの地面に損傷はない。それを分かっていたかのように、彼女は歩きながら笑みを浮かべた。
今ここに、最強最悪の生物が解き放たれた。水色の髪、褐色の肌をした少女にも見える彼女。しかし、その胸には、外見の年齢に不釣り合いなほどの大きな胸を持っている。彼女こそ怪物。彼女こそ化物。時代すら破壊し、作り上げることすら容易だというその力を持つクラスで、彼女は呼ばれている。
それは、創世級。
この世に君臨する、最強最悪の生物の称号。地の力を持つ最強の神。その彼女が今、人里目指して歩き始めた。