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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・五部 暴流神忍 ミズキ編
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雨の中で

 それから、何事もなく一日が過ぎていく。時折、ミズキが顔を渋くして外を見つめていたが、雨が降っている以外に何もおかしいことはなかった。そのまま夜の就寝時間を迎え、俺達は雨音を聞きながら眠った。


「……」


 目を開ける。まだ雨音がしていた。窓のカーテンをめくって、外を眺める。雨は、止む気配を見せていない。それどころか、昨日よりも降水量が多い気がする。


「まぁ、たまにはこんな日もあるか。と、言いたいところだが」


 最近、水属性の神魔級迷宮に関わる事件で、人を救うために素材集めに向かった身としては、そう簡単に流していい状況では無い気がする。


「これ、止まないかもな……」


 俺は、未だ降り続く雨を見ながらそう思った。


「お、これ美味しい!!」

「グアッ」


 ロロとジャルクは、雨でも元気にご飯を食べている。その明るさにあてられて、皆も楽しく食事をした。


「……やっぱり、この雨はちょっと怪しいかもね」

「アリーもそう思う?」

「ええ。朝よりも、雨が強くなっている気がする。サイフェルムは、雨での土砂災害以外には強い都市だけど。この分だと、国下の川は、大洪水でしょうね」

「まるで嵐のようです。そして、この雨は自然現象的な物ではないでしょう」

「そうね。普通なら、サイフェルムにここまで雨が集中することなんて無いもの。サイフェルムは、風の魔力が渦巻いていた大地にある都市。雨雲が、自然と停滞できるような場所じゃないのよ」

「神魔級迷宮がなくなってもってことか」

「そういう事。だから、サイフェルは、ある意味で落ち着くには良い都市ね。ただ、冬の風がより冷たいのだけは難点だけど」


 アリーは、そう言うと食器を片付け始めた。


「殿、一刻も早く、迷宮を攻略するべきかと」

「そうだな」

「どうしよう。雨だと、修行やりづらい」

「グアッ」

「そうだ!!迷宮に帰ろう!!」

「グアッ」

「ニーナさんも、一緒に行く?」

「え、そ、そうだね。私も、朝の練習したいし」

「よし、行こう!!」


 ロロが、ニーナを連れて階段を駆け上がっていった。上の階に転移魔方陣があるのか。


「ロロ側の魔法陣を、私達も使えるようにしといて正解だったわね」


 アリーが、洗い物をしながらそう呟く。


「……」


 暫くして、しょんぼりした顔で、ロロとニーナ、ジャルクが戻ってきた。


「向こうも、雨」

「すごい雨でした」

「え?」


 ちょっと待て、サイフェルムとミエルの迷宮ではだいぶ距離があるぞ。偶然か、はたまた何か共通点が?


「むっ」


 ミズキが、険しい顔をして目を瞑る。そして、数秒して目を見開いた。


「驚きました。サイフェルムだけではありません。この雨雲、無差別に広がっています。水属性神魔級迷宮とサイフェルムを結ぶように伸び、なおもその大きさを拡大している」

「何だそれは。大陸ごと、海にでも沈める気か?」

「それが狙いかもしれない……」


 アリーは、そう言いながら飲み物を持って、俺の隣りに座った。


「連中は、自分たちがこっちに来れるようにしようとしているのかも」

「神魔級の魔物がですか」

「ええ。長い契約なんて、邪魔なだけでしょ。だから、潰しに来る気になったんじゃないの。得意なフィールドにしてね」

「深海から、陸地までを海中にして攻めてくるっていうのか」

「そう。あの深海の宇宙生物共がね」


 俺は、何となくその光景を想像した。多分、あれを見ただけで一般人は発狂する。何人が生き残れるのだろうか。それ以前に、サイフェルムが海に沈むわけだから、人が住めるはずもない。


「今頃、何処も土砂災害の対策で忙しいでしょうね。ライアさん達の迷宮探索も、一時中断されてるんじゃないかしら」


 サイフェルムの近くには山がある。そう簡単に崩れはしないと言っても、この降水量だと心配になるな。


「ともかく、早めに相手を倒すべきだっていうのはあるんだけど……」

「そうですね。では、行きましょう」

「いえ、まだ待ちましょう」


 アリーは、そう言うとお茶を落ち着いた感じで一口のんだ。


「……待つ、のですか?」

「そう。あえて待つ」

「何故ですか?」

「こんな大規模な魔法を使っているんだもの。息切れするかは分からないけど、自分から魔力を消費しているってことよね」

「……ああ~」

「相手が弱るのを待つのも戦術よ。夕方ぐらいがベストな時間かもね」

「そうだな。じゃあ、そうしよう」

「はい」


 俺達は、アリーの作戦通り。夕方近くまで待つことにした。


「にしても」

「どんどんと、雨が強くなっていきますね」


 俺達は、外に出る気も起きないので、室内で本を読んでいる。ニーナやアリー、ヒイラは何やら怪しい薬品をいじっていた。


「ところでミズキ」

「はい」

「あの連中に勝てるか」

「はい。勿論」


 ミズキは、一切の迷いなくそう告げる。


「恐らくだが、連中は普通じゃない。だいたい、宇宙の要素を持った生物だ。もしかしたら、俺達が想像もつかないような力を持っているかもな」

「そうですね。でも、負ける気がしないのです」

「理由を、聞いてもいいか?」

「ええ」


 ミズキは、スッと立ち上がる。部屋着のミズキは、綺麗なお姉さんという感じだ。身体にフィットする服を着ているので、そのスタイルの良さがよく分かる。見ていると、ミズキはその場で水になり消えた。そして、俺の後ろに出て来る。


「見ましたか、殿」

「ああ」

「水です」

「そう、だな」

「水は、全ての生物にとって欠かせないものです。それを、自由に操るのが私。水を己とし、全ての水を己の物とする。そうした時、私は誰にも負けない存在となるのです」


 なるほど。確かにそうかも知れない。生物にとって、水が必要でない者など居よう筈もない。だが、相手は宇宙生物だ。その、もしかしたらが……。


「不安は、拭えないようですね」

「……悪い。何故だかあいつらを見てから、変な不安が頭に残ってるんだ。今までの魔物は、それこそどこかで見たような動物に近い形をしていた。だが、あいつらはそれとは異なっている。本当に、未知の何かだと俺はあいつらを見て思ったんだ。それが、拭えない不安の理由かもな」


 俺がそう言うと、ミズキは俺を後ろから抱きしめた。


「大丈夫です。見知ったように見えるものでも、殿が知らない物はまだあります。あいつらとは違う、別の驚きで、私があいつらを倒してみせましょう。そして、その不安を拭って差し上げます」

「俺が、知らない物?」

「はい。だって、私……」


 ミズキは、スッと腕を構えて俺に見せるように前に出した。


「ニンジャですから」


 俺は、これ以上無いくらい頼もしい言葉を聞いた気がした。


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