癒やし
「お、おぇ」
ロロは、四つん這いになって固まっている。また吐きそうな感じだ。だが、もう既に吐いてしまったので、吐くものがないんだろう。そのまま、ゆっくり呼吸を整えている。
「自滅技ですか」
「慣れていなかったんだろうな。良い技だったんだが」
「だけど、あれはジャルクが、あの大きさじゃないと使えないのでわ?」
「いや、今から使っていけば、成体になってからも使えるようになるだろう。まぁ、限度はあるが」
ミズキは、分身を解除して近寄ってくる。そして、2人の頭を撫でた。
「練習が、必要だな」
「は、い。次は、もっとよく回る」
「グアッ……」
ジャルクは、嫌そうな返事をした。もう、吐きたくないらしい。
「安心しろ。慣れれば、吐かなくなる」
「……うぇぇ」
「グアッ」
そのまま、2人は黙る。そして10分。2人は、黙って俺に撫でられていた。
「復活した」
「グアアッ」
ロロは、スッと立ち上がる。ジャルクも、続けて足に力を入れて姿勢を正した。
「でも、なんだか気分が良くない。水浴びしたい」
「グアッ」
ジャルクも、ロロの提案に頷いた。
「あ、そろそろお昼の用意をしたいんだけど。皆、頼める?」
「アリーさん。はいはい、大丈夫ですよ」
「では、ロロたちに主とミズキは付き合ってあげて下さい」
「私たちは、その間にお昼ごはんの用意をしておきます」
「そうっすね」
俺は、レムにフィーを預ける。そして、皆はぞろぞろとアリーについて行った。
「お風呂へゴー」
「グアッ」
ロロは、ジャルクに跨ると、お風呂場へとノッシノシ移動を始めた。
「では、私達も行きますか」
「そうだな」
保護者として俺もミズキも、ロロの後に続くことにする。暫くして、俺達は脱衣所に着いた。
「で、なんでミズキは、俺の服を脱がせているんだ?」
「え、一緒に入るんですよね?」
「いや、入るけど。俺達は、水浴びする必要ないだろう」
「する」
「グアッ」
ロロは、俺にそう催促した。
「ということですので」
「……分かった」
俺は、諦めて服を脱いだ。
「広いぞ~」
新居の風呂場は広い。全員で入っても、それなりに余裕がありそうだ。と言っても、流石に少し狭く感じるかもしれない。だが、一人で入るには、広すぎるスペースだ。
「水、無い」
「グアッ」
「ああ、すぐに出すよ」
俺は、水魔法で浴槽いっぱいに湯をためた。すぐに湯船をはれる。魔法って、ほんと便利だよなぁ。
「おお~」
「グアッ」
ロロは、すぐに浴槽へと滑り込んでいく。一方、ジャルクは、何か俺を見つめていた。俺は、ジャルクへと湯船からお湯をすくってかける。それで暫く身体を動かしながらジャルクは、体全体を濡らすと、風呂へと入っていった。かけ湯という思考が、ジャルクにはあるようだ。
「気持ちいい」
「グアッ」
ジャルクは、湯船に器用に浮いている。沈まないんだな。意外と。
「殿、私達も入りましょう」
「そうだな。せっかくだしな」
俺は、ミズキと肩を並べて湯船につかった。ああ~、少しの疲れに、この暖かさが身体に染み渡ってとてもいい。やっぱ、お風呂って良いな。
「殿、お疲れでしょう」
そう言うと、ミズキは身を寄せて肩を揉んでくれる。ああ~、すごい良い力加減だ。俺は、思わず脱力した。身をミズキに預けて、湯船で目を閉じる。そうしていると、ミズキが全身を揉んでくれた。背中に、ミズキの体温を感じる。その状態で、耳元でミズキの呼吸する音を聞きながら、俺は全身をマッサージされた。ここが、天国だったのか。
「ジャルク、発進!!」
「ゴボボッ」
ロロは、ジャルクを沈めて遊んでいる。大丈夫だろうか、ジャルク。一応、水中活動も出来るようだが。
「んっ」
俺が、ロロを眺めていると、ミズキが俺の肩にキスをしてきた。愛おしそうに、ミズキは俺を抱きしめる。
「ありがとう、ミズキ」
俺は、マッサージの礼をミズキに言った。
「いえ、妻として、出来ることをしただけですから……」
恥ずかしそうに、ミズキは顔を赤く染める。可愛いな、このニンジャ奥さんわ。
「むっ、ジャルク。私もやるべきか?」
「グアッ」
ジャルクは、ロロの発言に首を横に振って、やめとけと言ったジェスチャーをした。どうやら、ロロはマッサージが上手くないらしい。
「失礼な。ジャルクに、いつもやってる」
「グアッ」
だから、やめとけと言った感じでジャルクは答えた。どうやら、下手らしい。
「では、ジャルクで練習」
「……」
ジャルクは、スッと泳ぐとこちらに逃げてきた。だが、ロロに尻尾を掴まれて、引き寄せられた。
「奥技、指圧粉砕拳!!」
「グアアァァァァ!!!!」
ジャルクの悲鳴が、お風呂場に響き渡った。
「さっぱりしたな」
「はい」
「いい湯だった」
「……」
風呂から上がると、ジャルクが、自分の尻尾を気にしている。少し、腫れ上がっているような気がする。大丈夫だろうか。
「そろそろ、ご飯の時間のはずです。行きましょう」
「ああ」
「お~」
俺達は、そのまま移動する。吐いたせいなのか、待ちきれないようにロロとジャルクは、急ぎ足でキッチンへと移動した。
「……」
ふと、外の景色を見つめる。先程まで晴れていたのに、急に雨雲が広がっていた。そして、ポツポツと雨が降り始める。俺達は、特に気にすること無く、そのまま食事を始めた。




