新築・○○部屋付き
「だいたい、宇宙を構成している魔力ってなんだよ」
いや、魔法だしな。万能だ、万能だとは思っていたが。まさか、宇宙の存在にも一役買っていたとわ。
「もしかしたらこの魔力、何かが宇宙を作ろうとして出来た物かもしれないわね」
「……はっ?」
「なんて、冗談よ」
「……」
有り得る。宇宙なら、魔法がない世界にも存在した。それなのに、そんな魔力がある。何者かが、それを作り出した可能性は高い。え、この世界エイリアンとかいるの? 大丈夫?
「ま、もしそんな奴らが居ても今のところ私ですら観測できてないし、接触するとしても私らの寿命の外での出来事でしょうね」
「魔力があれば、別惑星でも呼吸できますからね。居ないとはいえないかも知れません」
「お、だとすると、あまり俺達と形態は変わらないかもしれない?」
「かもね」
なるほどな。ちょっと安心した。
「さて、宇宙で戦うとなるとカザネモードが有利になると思うのだけど」
「ああ、そうだな。でも、全属性でも良いんじゃないか?」
「うーん、そうなんだけど……」
「何か不安でもあるのか、アリー?」
「その城の中身ってさ、どれぐらいの広さなの?」
「……え、迷宮の中に迷宮があって、更にその中に迷宮があると?」
「そういう状態かも」
迷宮は、外面に反して広大な空間が広がっている。しかも、あの城は外面だけでもかなりの大きさだ。その内部が迷宮ともなれば、その広さは計り知れない。しかも、内部が宇宙であるとすれば……。俺達は、何を目印に内部を進むことになるんだろうか? 星とかはあるのかな?
「もし、何もない暗黒空間で、入り口も分からず彷徨うはめになるとしたら?」
「転移魔法で帰ってくる」
「それは出来るけど、迷宮の中にいる敵の位置も、自分の居場所も把握出来ないのは辛いと思うのよね」
「うーん、それはそうだな」
「魔力で、相手の居場所が探知できれば良いのですが」
「感覚的に、内部の構造が分からなかったわけでしょ。難しいかも」
「そう言えば、そうですね」
「やっぱり、カザネモードで飛び回るのが一番楽なんじゃ……」
「いや、楽とは言えないかも……」
属性特化一体化は、身体に極度の負担がかかる。最近は慣れてきたとは言え、それでもその負担は凄まじい。迷宮を飛び回る分の負担が、楽とはいえない気がする。
「でも、あてもなく宇宙を彷徨う負担は相当よ。精神がガリガリ削れるかも」
「なるほど。そう考えると、体力の消費が大きくともカザネモードで行くべきか」
「私は、そう思うわ。それに、もしかしたらあまり時間がないかもしれない」
「外の魔力のことか?」
「ええ。流石に、国王が倒れたら洒落ではすまないわ。大事になる前に、根元を潰しましょう」
「……ちょっと、試してみるか」
「そうですね。何時間までなら耐えられるのか、見ておくに越したことはありません」
そう考えた俺達は、揃って外に出る。そして、カザネを中心に一体化した。
「では、行って来ます」
「うん、行ってらっしゃい」
動く挙動さえ見せず、カザネは舞い上がる。飛び立つ衝撃を魔法で完全に打ち消し、カザネは飛翔した。そして、あてもなくカザネは星中を飛び回る。その過程で、何度か創世級迷宮を目にした。このカザネモードでも、まだ身体に震えを感じる。だが、それでも以前に比べて感じる恐怖は少なくなっていた。もしかしたら、もうすぐあいつらに俺達は届くのかもしれない。もう少し、時間があれば。
「ところで、どの辺で我々の限界を判断すれば良いのでしょうか?」
(えっ?)
カザネが、飛びながらそう言ってくる。
「いや、この状態だと私自身は身体に力が漲り過ぎていて疲れを感じないといいますか。解除して初めて分かるもので」
(ああ、そうなのか)
「ですから、どれ程の塩梅の時間飛び回るべきなのかなと」
(そうだなぁ……)
「私が、そこは判断致しましょう。ストップを掛けるまで、思うまま飛んでいただければ良いかと」
「分かった、アルティ」
(じゃあ、それで行こう)
アルティに判断を任せて、俺達は飛び回る。そして、現実時間で5分後。俺達は、家の前に着陸した。
「が、はぁ~!!」
すぐさま、俺達は一体化を解除する。すると、案の定物凄い疲れが襲ってきた。しかし、ギリギリ立っていられる。
「おかえり」
すぐさま、アリーは俺を支えてくれた。残りの皆には、アリーは回復魔法をかける。俺は、アリーにちょっと体重を預けながら家に入った。
「5分ね」
「え、これ大丈夫なんですか?」
「いや、実際の時間であって、我々の体感時間とは違います。それに、全力で飛び回っての5分ですので、多少手を抜けば実際の時間も伸びるはずです」
「えっと、行けるってことですかね?」
「そのはずです。この5分で、我々が何度星を周回したと思っているんですか?あの中がいかに広かろうとも、我々なら大丈夫でしょう」
「ほっ。なら良かったわ」
「では、後日改めて迷宮へ赴きましょう」
「そ、そうだな。後日な」
俺は、座りながら自分自身に回復魔法をかける。その途中、襲い来る身体の疲労からの睡魔に耐えられなくなり、そのまま机に突っ伏して寝た。
*****
「はっ!!」
起きた。起きるとベッドに寝かされていた。周りには、フィー達が寝ている。だが、アリー達はいない。部屋の扉を開けると、何やら美味しそうな匂いがしてきた。どうやら、晩飯前には起きれたらしい。
「おーい」
「あ、ベイ、起きた」
「夕食?」
「そうよ。タイミングバッチリね」
俺がキッチンに行くと、ヒイラがアップルジュースを入れてくれた。ありがたい。ちょうどのどが渇いていたんだ。……そう言えば、牛乳以外の飲み物は久しぶりだな。頂きます。
「……うん、美味い。いやー、やっぱりいつもの味……。って、これ牛乳やないか!!」
「えっ?」
一気に全部飲み干したわ!!めちゃくちゃ美味いよ!!いつもだけど!!いや、おかしい!!ミルクも寝ているのに、俺のグラスが別の飲み物に変わるはずが……。
「いやー、起き抜けのアップルジュースは美味しいですね」
「いるじゃん」
ミルクいるじゃん。気配、完全に消してやがったな。アサシンか。俺のこの愛する牛わ。いや、どのタイミングですり替えた? 俺がグラスを口に持っていくまでは、完全にアップルジュースだったはず。ぐぬぬ、どんなトリックだ。
「あ、そう言えばですねご主人様」
「何だ、ミルク」
「実は、あの部屋の用意ができまして」
「あの部屋?」
「えっと、……部屋です」
「えっ、なんだって?」
「だから、搾乳です」
「……」
「ちょっと、ストックが減ってきましたかねぇ……」
「……アリー」
「行ってらっしゃい!!」
なんでそんなに、満面の笑顔と嬉しそうな口調なんですか!!
「これで、皆に気を使いながらご主人様とこそこそ台所の隅でする補充作業も終わりということですね。ああ、なんだか寂しいような!!」
「はいはい。行くぞミルク。と言うか、どの部屋だ?」
「あ、あっちです」
それは、家の三階の中央付近の部屋だった。ほうほう、よく見ると壁の作りが他と違う気がする。
「ここでなら、ご主人様の巧みなテクニックに声を出しても周りに聞こえず配慮できてグッドとアリーさんが」
「アリー……」
俺の心の中に、サムズアップをいい笑顔でするアリーが現れた。
「よし、入るか」
「ちょ、ちょっと緊張しますね……」
「自分から誘っておいて、どうしたんだよ」
「まぁ、そうなんですが。なんと言いますか。押し殺してきたものを解き放っていいと言われたら。それはねぇ……」
「……入るぞ」
「今日のご主人様、何だかいつもより男らしく感じます!!いつも素晴らしいご主人様ですけど!!いつも素晴らしいご主人様ですけど!!」
俺は、ミルクの手を引っぱって部屋の中へと入った。