目的
「向こうに、別の反応があるな」
それは、黒い貝の城からではなかった。その端。その空洞の中かから、何かの魔物のいる魔力を感じた。
「まずは、そこに行ってみよう」
「……そうですね。あの城は、後回しにすると致しましょう」
見つからぬようにゆっくりと進む。そこには通路があり、巨大な水の泡のようなものが壁に貼り付けられていた。
「何だこれは」
「倉庫、と言ったところでしょうか」
「倉庫?」
泡に近づいて見ると。何かが中にいるのが確認できた。それは、巨大な目でギョロッと周囲を見ている。どうやら、俺たちが探している魚ではなさそうだ。
「ここには、特殊な魔物が隔離されているようですね」
「特殊な?」
「今の魚は、恐らく毒を持っているのでしょう」
「ああ、そういう」
「奥も見てみませんか?」
「そうだな」
ミズキに言われ、俺はゆっくりとまた進んだ。奥に行けど、並んでいる泡の数が減ることはない。まるでそういう壁の模様のようにも見える。
「ん?」
「当たりかもしれませんね」
そこの泡は、黄金に光っていた。俺が覗き込むと、そこには金色に光る怪魚が動いている。辺り一面の泡を確認し、光っているのはどれもこれと同じ種類の魚であることを俺は確認した。
「一匹で良さそうだ」
「そうですね。では、回収致しましょう」
俺は、泡の魔力を解析し、同じ魔力を生み出して相殺する。そして、目の前に現れた怪魚を風魔法で解体すると、泡を再び魔法で修復し、その切り身ごと転移して地上に戻ることにした。
「よし」
俺は、予め作られていたスペースに魚の切り身を並べる。そこは、新たに建築された俺達の家の近くに建てられた素材搬入用の小屋だった。そこで一体化を解除して、俺達は家へと帰っていく。
「アリー、見つけたよ」
「さっすがベイ!!」
アリーが、俺の声を聞いて上の階から走って降りてきた。すぐさま、俺の手を引っ張ってアリーは素材置き場へと向かう。
「……新鮮みたいね」
「さっき切ったばかりだから」
「身まで黄金に輝いている。間違いなさそう」
「で、どうする?」
「そうね。これだけ大きんだもの、私とヒイラ用に少し素材を頂いたら、後はロデに任せましょう」
「そうだね」
「ところで、迷宮はどうだった?」
「アリーの読み通りだった。迷宮の中に、迷宮が存在していたよ」
「やっぱり」
「ああ、巨大な黒い貝でできた禍々しい城がそこにはあった。あの中に何がいるのか、少し恐ろしいな」
アリーは、そんな俺の言葉にキョトンとする。
「ベイが、恐ろしいって言った?」
「ああ、言った。俺達は、かなり遠くまで感覚を張り巡らせてその魚を探した。だが、それだけ遠くを見ても、その貝の城の中の気配は感じ取れなかったんだ」
「えっと、誰もいないとかじゃなくて?」
「ああ。あの城の中には、確かに魔物が入っていくことを確認した。だが、その気配すら見えなかったんだ」
「手練がいるようですね」
「まぁ、見えないことは恐怖には違いないわね。でも、ベイ達なら大丈夫よ」
「だと、いいけど……」
貝の城に意識を向けた時、わずかに感じたあのドス黒い感覚。あれが、俺達に魔物の気配を感じなくさせていたのだろう。あれは何だったんだろうか。結界か。それとも、全ての存在を感じなくさせてしまうほどの巨大な何かの魔力だったのだろうか……。
「取り敢えず、数日置きましょ。そして、シアに渡す」
「うん、そうだね。こんな早く取ってきても、ビックリされるし」
「その間に、適当に私が捕獲用に使った道具をでっち上げとくわ。それで何だけど」
「うん?」
「これ、日持ちすると思う?」
「……冷凍しとこうか」
俺は、魔法で黄金の魚の切り身を一部冷凍させた。
*****
数日後、結論から言うと冷凍する必要は無かった。生のまま置いておいた切り身も、取ってきたそのままの状態で鮮度を維持している。やはり、何かおかしい切り身のようだ。
「今日も鮮度バツグンっと」
「魔力測定に入りまーす」
アリーとヒイラは、持って帰った素材の経過観察をしている。二人共楽しそうだ。
「アリーさん、無事に搬入しておきました」
「うん、ロデご苦労」
「国の英雄ですね、ベイ君」
「表には出ないけどね」
その数日後、シアが我が家へとやって来た。その日、俺達は届いた家具をアリーの指示で家に運び入れている途中だった。
「ありがとう~!!ベイ君!!!!」
「おわっ!!」
アリーを通り過ぎ、シアは棚を持ち上げていた俺に抱きついてくる。心底嬉しそうに泣き顔を俺の身体にこすりつけると、満足したように離れた。めっちゃ肩が濡れた。
「おっほん。改めてありがとうベイ君。アリーちゃん」
「で、お祖父様は大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。自分で見つけられなかったのは悔やんでたけど、王様も熱心に探してくれてたことは評価してくれたみたいだしさ。特に、口添えしなくても大丈夫そう」
「そう」
「でも流石だよ。わずか数日で達成するなんて!!」
「それは、私の発明したこの魔道具で……」
「なんですと!!」
アリーが相手をしてくれている間に、俺達は家具を運び込んでいく。うんうん、だいぶ人が住んでいる家らしくなったな。
「殿」
「どうした、ミズキ?」
「ここ数日、大人しくしていようというアリーさんの指示に従っておりましたが。気になることがあり、度々分身を走らせておりました」
「……それで」
「まだ、終わっていません」
「と言うと」
「日増しに、何か得体のしれない物がサイフェルム城へと流れていくのを感じています。これでは、焼け石に水。あの黄金魚の切り身をいくら飲ませたとて、時期に回復は追いつかなくなることでしょう」
「あのドス黒い何かか?」
「そうです。やはり終わらせるには、あの城にいる何かを倒すより他に無いようですな」
俺は、家の外にいるシアを見つめる。彼女は楽しそうにアリーの話を聞いていた。
「行かないとな」
「はい」
俺とミズキは、見つめ合うと互いに頷いた。