家
「めっちゃ綺麗だな!!」
時刻はその日の夕方。俺は、今日建ったとは思えないような家の中を歩いていた。廊下の床がツルッツルで輝きを放っている。新築って感じだ。いや、実際に新築なんだけど。
「でも、やっぱ家具が無いと殺風景ですね」
「もう数日したら届きますから。その辺はお待ち下さい」
「ミズキ、寝室にベッド移動させておいて」
「承知」
アリーに言われて、ミズキが消える。すると、程なくして上の階の部屋から音がした。仕事が早い。
「さて、こっちがヒイラ用の倉庫。あっちが私用」
アリーは、楽しそうに家の扉に目印を付けていく。まぁ、これだけ広いと、そうしないと分からなくなるかな。
「あ、それはロデさん達に任せようよ。私たちは、ほら」
「ああ、結界を張らないと駄目ね。よし、じゃあ上の階の部屋に行きましょうか、ヒイラ」
「うん」
「ベイ、お義父さん達呼んできてくれる。今夜はこっちで、食事一緒に食べましょうって」
「うん、分かった」
俺は、言われた通りに実家に戻って、カエラとノービスを呼んでくることにした。
「……」
「家だな」
「家だよ」
「ベイ、こんな家、あったかしら?」
「無かったよ。今日までわ」
「……」
まぁ、そういうリアクションになるだろうな。俺も、朝起きて変な家が隣に立ってたら、目をこすって幻かもって思うかもしれない。しかも、カエラ達特に建設途中を見に来なかったからな。そうもなるだろう。でも、あれは見る価値あったと思うよ。ミズキの超高速分身職人芸。ほんと、あっという間に気持ちよく家が出来ていく。あれは爽快だったなぁ。
「まぁ、中に入ろう」
「お邪魔します」
「俺の給料の何倍の払いで建てたんだ。この家は」
カエラとノービスが、しげしげと家の中を見回している。何もないけど、その分綺麗だ。ツルツルの床を触ってみたり、窓からの景色を眺めたりして堪能している。良いねぇ、こういうの。
「しかし、無駄に広いな、この家わ」
「そうね。うちの三倍くらい大きい」
「確かに、まるで学校みたいに広いね」
ほんと、何故ここまで広いのか分からないくらい広い。周りの木々より高いから、結構いい眺めが最上階からだと見えるんだよなぁ。春になったら、あそこから景色を眺めたいものだ。
「ご主人様、こっちに来て下さーい!!」
「ああ、すぐ行く!!」
ミルクに呼び出され、俺達は下の階に降りて、とある部屋へと向かった。
「おお~」
「広いキッチン!!」
「こいつはすごい。まるで、城にある調理場のようだ」
「いや、流石にそれよりは小さいと思うんですけど」
そこでは、アリー達が料理をしていた。アリー、サラサ、ヒイラ。3人が思い思いの料理を同時進行で作っている。さらに、ロデ、ロザリオ、レラが野菜をちぎってサラダを作っていた。それだけの人数が作業していても、まだスペースに余裕がある。すごい広さだ。
「テーブルはミルク達がすぐ持ってくるから、隣の部屋で待ってて」
「はい。ミルク特製テーブルですよ」
「椅子は、私が作りました」
ミルクとミズキが、テーブルと椅子を運んでくる。ミルクはツルッツルの石で出来たような大きなテープルを持っている。ミズキは、木を組んで作った椅子を持っていた。ほんと、この2人はなんでも出来るな。
「さぁさぁどうぞ、お義父さま。お義母さま」
「おお、ありがとう」
「重くなかった、ミルクちゃん?」
「いえいえ、この程度のテープルでは私の力の一割も必要ありませんので。まぁ、暫くお待ち下さい」
そう言って、ミルクはキッチンへと歩いていく。すると、ノービスがテーブルを持ち上げようとしてた。けれども、テーブルは持ち上がらない。ちょっと浮かせるくらいがやっとだ。
「がはぁ、はぁ。なんだこれ。重いぞ」
「ミルクは特殊な訓練を受けているから……」
「そ、そうなのか」
「大変なのね」
カエラは、キッチンの方を見ている。まぁ、そういうことでいいよな。
「出来ましたよ~!!」
ミルク達が、料理を運んできた。大きなテーブルに、豪華な料理が並ぶ。一般家庭の光景じゃないな、これ。
「飲み物は、好きなのをお注ぎ下さい」
「私は、お茶を」
「俺も」
「……」
スッと、俺の前には牛乳が置かれた。言わなくても出てくるのは嬉しい。
「さて、皆席についたわね。それじゃあ、新築祝いということで、乾杯しましょう!!」
「「「「「「乾杯!!!!」」」」」
その日、俺達は先程までの重苦しい出来事も忘れて、新たに家が建ったことをお祝いした。食事を終えた後、この件が片付いたらアリーの両親と兄、そしてお祖父さんも呼んで食事をしたいとアリーが言ってきた。ああ、それはとてもいいことなのだろう。俺達の中が認められ、2つの家族が友好を深める。とてもいいことだ。
「……家まで建てたんだし、次はウエディングドレスかしらね」
「……早くみたいな」
「楽しみね」
「ああ、とっても」
俺とアリーは、お互いに無言で近づいて抱き合う。そうしていると、ミルクが俺の背中をよじ登ってきた。胸が当たる、当たる。
「無論、私達もですよ!!」
「はい、マスター!!」
「ウエディングドレスか。作ったことがない」
「いや、それも作るのか?」
「それぐらい用意させますよ」
「わ、私がドレスを……。ウエディングドレスを!!!!」
何故だか、ひどくロザリオが興奮している。しかも、そのまま歓喜の涙を流して膝から崩れ落ちた。それを、ロデが仕方なさそうに受け止める。
「私は、ドレスって柄じゃないかなぁ……」
「え、レラさん似合うと思いますよ」
「そ、そうかな?ヒイラちゃんのほうが似合うと思うよ」
「え。いや、私はそういうの着たことないので!!」
「あ、私も私も」
「私達は、今のうちから考えておこう」
「そうだね。周りが強いからね!!」
何故だかレノンとサラも興奮していた。その光景を、アリーは楽しそうに見ている。
「あと4つよ、ベイ」
「ああ。そうだな」
「私、ミルクと!!」
「私、レムと」
「私、フィーです!!」
「そして、今回が私、ミズキ」
「……」
4人が名乗りを上げる光景を、アルティは何故だか静かに見ていた。
「それさえ成し遂げれば」
「創生級を倒せる。……と、いいなぁ」
「大丈夫。出来るわよ。ベイと、皆なら」
俺は、アルティを見る。アルティは、俺の目線に大きく頷いた。
「勝つぞ、ミズキ!!」
「承知」
そして、夜が更けていく。次の日の朝。俺達の家の前に、幻でも見ているかのような顔で、シアが突っ立っていた。