2つの方法
「はぁ……」
アリーがため息をついている。顔をしかめて、片腕で髪をかきあげた。
「どうするんだ、アリー?」
「そうね。流石に国の姫に面と向かって恩を売りました、って事はしたくないんだけど……」
「やるしかないんじゃない、アリーちゃん?」
「そうね。ヒイラの言う通り。ただ、やり方って物があるでしょう?そこよね」
「複数選択肢があると?」
「ええ、そう。ベイの言う通り。やり方は2つある」
アリーが、指をパチンと弾く。すると、空中に光の映像が現れた。
「一つはこっち。前に先祖がやったやり方。魔物の素材を使って、身体を蝕んでいる魔力を相殺する方法」
「魔物の素材で?」
「そう。確か、魔力を蓄える魚みたいな奴。金色で、切り分けてもその身体自体が魔力を放っている。その魚自体は戦闘を行わず、魔物たちの回復のみをする面白い習性を持ってるんだって。まぁ、実際に見たことないから知らないけど」
「というか、相殺とか出来るの?別の魔物なのに?」
「そうね。同じ迷宮の魔物だといけるのかもしれないわ。もしくは分身体とか、分裂した別物とか。ほら、そういう奴ら居たじゃない」
「確かに、居たな」
「そういうのかも。で」
アリーが、空中に映し出していた魚の映像を消す。そして、俺を見てきた。
「一番、手っ取り早いやつ」
「お、おう」
「アリーちゃん、私、分かったよ……」
「これ、最後の手段ね」
「アリーさん、一番簡単なのに、最後の手段とはどういうことですか?」
サラサがアリーに尋ねる。サラサは、レムとミズキが刻んだ薪を、レラとレノンとサラと一緒に紐で纏めながら話を聞いていた。ロデも、話を聞きながら出来た薪の束を数えている。国の一大事を知っても、しっかり仕事はしているようだ。
「そうね。まぁ、こっちの方法だとメリットがないっていうか。最悪、国を壊しても良いいかも、みたいな?」
「それは、穏やかじゃないですね」
「で、結局それって、ベイ君に体内の魔力を相殺してもらえばいいってことなんだよね」
「正解」
「俺か。まぁ、出来るとは思うけど……」
「ダメダメダメダメ!!」
俺の言葉に、ロデがそう言いながら寄ってくる。ついでに、遅れてロザリオも着いてきた。
「何故だ、ロデ先輩。私は良いと思うが?」
「サラサちゃん、少しは考えなよ。命の恩人だよ。国の姫様の。ろくなことにならないって」
「……そうか?」
「そうだよ!!国に召し抱えられコース直行だよ!!ベイ君は、うちの稼ぎ頭になるんだから。そんなお金にならないことさせられません!!」
「え、宮仕えの給料って、そんなに安いんですか?」
「いや、人にもよるけどね。圧倒的にベイ君を雇うには安い!!国の給料なんて、ちょっと神魔級の魔物の素材さえ売れば5年分は一気に稼げちゃう!!そんなの、やる価値ないでしょ」
「ああ~、確かに」
今の俺達なら、神魔級の素材ぐらい幾らでも取ってこれるからな。それなら、魔物狩りしてたほうがマシだ。
「しかも、主に売り先は国。どうせ同じところからお金貰うなら、こっちが楽して儲かる方を取らなきゃ
。宮仕えなんて無駄無駄無駄。あ、アリーさんも、ヒイラさんも、サラサちゃんもうちで雇うから。就職活動なんてしなくていいですよ。しかも、好きな時にちょこっと働くだけでOK。それぐらい儲かる算段です。人生バラ色だね!!」
「……うん。こちらが素材流通の手綱を完璧に取っていれば、もう勝ったも同然だからね。問題ないと思います、ベイ様」
「そうか。2人がそう言うなら、直接恩を売りに行くのはやめたほうが良さそうだな」
「そうね。私も賛成だわ。ロデと同じ意見ていうのが嫌だけど」
「いや、良いじゃないアリーさん。それぐらい」
「まぁ、せっかく家を作ってるんですもの。サイフェルム崩壊計画を進めるのも面倒だし、魔物狩りをする方向で行きましょう」
何? サイフェルム崩壊計画って。いや、何かアリーが手に魔法で本みたいなもの出したんだけど。背表紙にサイフェルム崩壊計画って書いてあるんだけど。やばいんじゃないの? 既に立案済みなの?
「アリーちゃん、何、その本?」
「何ってレラ。見たまんまよ。見たまんま」
「ちょっと、見せてもらっても良いかな?」
「良いわよ」
「……」
レラも、薪を束ねていた手を止めてアリーから本を受け取る。数ページ目を通すと、明らかに動揺しているのが見て取れた。
「これ、意外としっかりした内容だね……」
「そうね。無血崩壊って結構難しいのよ。だから、一応今のうちに練っておかないと」
「これさ、見つかったらやばいんじゃない?」
「ああ~、見つからないわよ。私の魔法で出来てるから。私が魔力を込めるのをやめると、証拠も残らない」
レラの手から、スッと本が消えていく。確かに、あれでは証拠は残らないだろうなぁ。いや、やっぱ立案されてたんだ。サイフェルム崩壊計画。
「さて、方針は決まったわね」
「素材を取りに行く。ということですね」
「そうよミズキ。目指すは水属性神魔級迷宮、金の海!!」
「確か、前に行ったとこだよな」
「そうね。そこに、黄金の魚が居たという話よ。そして、恐らく私達が探しているものもそこにある」
「今まで、隠れていた古代の神魔級迷宮か?」
「ええ、そう。ここ数年、王家で石化発症者は居なかった。それが、急に発症したということわ」
「出てきていると?」
「まぁ、そうでしょうね。そして、それは恐らく神魔級迷宮の中にある」
「神魔級迷宮の中に、神魔級迷宮があるってことか?」
「そういう事。初めてのパターンね」
アリーの言葉に、ミズキが僅かに顔を伏せる。そして、水の手裏剣を腕に出現させた。それを、ミズキは残っている大木目掛けて放つ。手裏剣が木に当たると、その大木が縦に裂けた。
「では、行くとしましょうか殿」
「やる気あるなぁ、ミズキ」
「皆、ここまで大きな力を得てきました。今度は私の番です。であれば、自然と気合が入るというもの」
「はいはい。やる気はあるみたいだけど、今日は無しね」
アリーが、ミズキに向かって手を叩きながらそう言った。
「むっ」
「ほら、今日は大事な家造りじゃない。やるにしても明日から。良いわね?」
「あ、そうですね。分かりました」
「よし。じゃあ、再開しましょうか。意外と一日待てばお祖父様がなんとかしてくれるかもしれないし」
「そうですね。私たちは、私達のやりたいことを今はするとしますか」
「しかし、既にだいぶ土地は開けたんじゃないか?」
「何言ってるんですか、ご主人様。ここから基礎を私の魔法で作って、外壁や床も私の魔法で作って」
「私が外観を整えれば完成です」
「うんうん。完璧な建築計画ね」
「……え、建てるの。今日?」
「そりゃあ、そうですよ」
「小物類が足りないので、建てるだけになりますが」
「ベッド移動すれば、すぐに住めるわね。いっそそうする?」
「おお、良いですねぇ~」
「では、急いで作るとしますか」
「……」
その日、本当に実家の周辺に、似つかわしくないほどの豪邸が建った。
 




