サイフェルムの歴史
「それにはまず、サイフェルムという国の成り立ちから説明しないといけないと思うわ」
「?」
シリル達との戦いから数日後。身体も思うように動くようになり、俺達は転移魔法で実家のサイフェルムに来ていた。今は、建築予定地をミルクが土魔法で均している。生えていた木などは、レムとミズキが綺麗にカットして良い材木になっていた。その横で、ロデが嬉しそうにノートに数字を書いて計算している。その横にロザリオがいて、その作業をサポートしていた。そんな光景を見ながら、俺達はやって来た来訪者の相手をしている。その会話のさなか、アリーがそう言い出した。
「……サイフェルムの成り立ちって、アリーちゃん知ってるの?」
「ええ。まぁ、あんたほどじゃないと思うけどね、シア・ゲインハルトさん」
「あははっ、私とアリーちゃんの仲じゃない。いつも通り、呼び捨てでいいよ」
「……そんなに、仲良くなった覚えがないんだけど」
「き、きついなぁ。長い付き合いじゃない。仲良くしようよ」
「問題事ばかり持ってくる付き合いはちょっとね……」
「あははっ、面目ない」
シアは、アリーの発言に頭を下げている。
「で、アリーちゃんは、何処まで知ってるのかなぁ?」
「……知ってたら、どうする?」
「……ああ~、そうだね。でもまぁ、アリーちゃんだし。言いふらしたりはしないかなぁ~と」
「私的には、普通のことだと思うのだけど。ま、気にしてるのなら言わないでおきましょう。召喚魔法に似たようなことだと思うのだけど」
「イメージって大切だからね」
「さっきから、2人で何を言っているんだ?」
俺には、2人が何をはぐらかしているのかわからない。
「そうね。ベイ達には話すけど、良いでしょ?」
「勿論」
「そうね、サイフェルムが出来る前から語りましょうか」
*****
そこは廃墟だ。かつては栄光と繁栄を極めた都市の一つであった。だが、今はその影はない。あるのはおびただしい瓦礫の山。無数の生物の死体。そして、見るも無残に姿を変えた空と大地だけだった。
「良く、この状況で生きていられたものだ……」
それは、誰のつぶやきであっただろうか。瓦礫の山から出てきた辛うじて生き残ったものの一人。その誰かが、その光景を見てそう呟いた。それはまさに、この世の終わりを象徴していただろう。人類はもはや滅びを待つだけであり、人類に味方している神はただ一体。生き延びたものは辛うじて都市機能の残っている他の都市に移住し、残された時間と向き合って、今の今まで命を狩りあっていた者たちと手を結んだ。
「まぁ、割に合わんかもしれんが、やってやってもよいぞ。ただし、わしをやる気にさせられたらじゃな。お前達次第というやつじゃ」
「は、はぁ……」
「まぁ、わしもあいつら好きじゃないからの。でも、面倒くさいの嫌いなんじゃ。わしが負けるなんてことは万が一にもないが、面倒なのは面倒なんじゃよ。そこでじゃ、戦を始める前に身体にエネルギーを溜める必要があると思わぬか?」
「えっと、つまりですね……」
「宴をひらけというとるんじゃ。勿論、人間を救うわしに感謝するための宴じゃぞ。そこんとこ分かっとるんじゃろうな?」
「あ、は、はい!!それは勿論!!」
「うむ、よろしい。な~に、資材が乏しいと言っても野菜や果物ならわしがすぐに成長させてやれるでな。気にせず使えよ。ただし、同じものばかりだと飽きるからな。そこ、気を使うように!!」
「はっ、ははぁ~」
*****
「こうして、人類は破滅から生き残ることが出来たのでした」
「……何でしょうかね。その話に出てきた奴。なんだかいけ好かないというか……」
「そう?まだましな方だと思うけど」
「いや、そうなんでしょうけど……」
ミルクが、作業の手を止めて話に割り込んでくる。何か、本能的に嫌な部分でもあったのだろうか? 口調を聞く感じだと、だいぶお年をめした創生級のようだが。
「さて、そこからが本番ね。辛くも生き残った人類。その殆どは故郷に帰り、国の再建を夢見たわけ」
*****
だが、そこには見たことのない光景が広がっていた。
「これは、どういうことだ……」
国の殆どが瓦礫とかした廃墟。その国があったであろうその場所に、彼らは再び帰ってきた。だが、そこには廃墟など存在していなかった。変形した地形も、植物がなくなった大地も、そこには存在していなかった。むしろ、そこには一面の大自然が広がっていた。ただし……。
「魔力で出来た、円形のドームだと……」
「迷宮ですね、これわ。この一帯が、巨大な魔力の迷宮と化している」
「我らの、我らのウインガルが……」
故郷は、巨大な迷宮と化していた。しかし、それだけで国の再建を諦める彼らではない。近くに拠点を作り、文明を1から築き上げ、彼らは迷宮へと挑む。それは、彼らにとって故郷を取り戻す戦いであった。だが、その迷宮に存在していた魔物の能力はとても強かった。特に、人型に近い鳥の特徴をもった魔物たち。その厄介な敵達に、彼らは徐々に追い詰められていった。
「このままでは……」
ある日、一人の男がそう呟いた。今は、拠点の周りだけは、辛うじてかき集めた資材で作った結界で何とか防衛できている。だが、鳥たちは日増しに力をつけてきていた。このままではまずいことになる。その男は、このままではこの国に未来はないと考えていた。
「……邪法にすがるしかないのか」
彼は、一冊の本を手に取っている。その本を握る手に力を込めて意を決すると、彼は何処かへと歩き去ってしまった。
*****
「逃げた、というわけではないでしょうね」
「そうよ、ミズキ。ここからが本題」
俺達は、ヒイラが配ってくれたお茶を飲みながら、またアリーの言葉に耳を傾けた。