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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・四部 炎羅神猿 カヤ編
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夢想

 カヤは、先程から驚くほど余裕をもった動きをしている。シリルの動きは、実は一体化したカヤよりも、その運動性能は高い。そのことに、シリル自身も気づいているはずだ。だからこそ、疑問なのだろう。先程から、カヤはさっきまでシリルと一体化せずに戦っていた状況と同じ状況に陥っている。だが、カヤの表情は穏やかだ。この地獄のような状況の中でも、運動性能で劣っていても。その動きには迷いがなく、余裕がある。


「……答えないか」


 シリルは、カヤが何も答えないのを見て、急に辺りを見回し始めた。


「これほどの被害だ。この周囲に木々が生えるには、少し時間がかかるな」

「そうかもね」

「そう、かもと言ったか?」

「……」


 シリルは、不意に空中目掛けて炎を飛ばす。すると、炎は当たり前だが、遠くに向かって飛んでいき、放物線をえがいて地面に着弾した。


「……」

「消えたな」


 シリルは、消えたと言った。自分の放った炎がだ。


「ふふふっ」


 カヤは笑う。視覚的に、聴覚的に、空気の振動さえも、何処にもおかしな要素は無かった。ただ、シリルはその全てをかいくぐって、答えを掴んだ。


「凄いよ、マジで」


 カヤが、棒で地面を軽く叩く。すると、先程まで地獄のような景色だった世界が、すぐに緑豊かな大地へと変わっていった。


「陽の光の感覚だ。穏やかな風すら感じる。だが、これ全てが」

「私の力」


 カヤは、そう言うとシリル目掛けて踏み込んだ。今度は、足元が燃えず、豊かな草木が生い茂ったままになっている。ただ、草を踏んだのにも関わらず、その草が折れてすらいないというのが不自然ではあるが。


「……」


 シリルは、カヤが踏み込みつつ放ってきた棒の突きを掴もうとする。だが、その瞬間に今まで見ていたカヤの姿ごと、先程までそこにあった棒が消えた。


「なんだ、これは……」

(夢想だよ。非現実的だろ。まぁ、魔法で再現してるんだけどね)


 どこからともなく、カヤの声が響く。だが、その声はこの景色の全てから響いているように感じられて、カヤの居場所はシリルには分からなかった。


「出てこい。バカにしているのか」

「……ごめんね。そういうつもりじゃないんだけど。なんだか、心が……」


 カヤは、シリルの前に再度姿を現す。その姿は、先程までと比べて穏やかだった。出で立ちに余分な動作がなく、今のカヤからは、先程までのような動的な印象を感じない。そしてゆっくりと棒を構えると、シリル目掛けて歩き出した。


「そんな舐めた動きで!!」


 シリルは、勢い良く踏み出してカヤを殴ろうとする。だが、気づいた時にはシリルは、地面に叩き伏せられていた。


「なっ!!」


 シリルは、慌てて飛び退く。カヤは、特に追い打ちをしようとはしない。ただ、シリルを見ていた。


「どうなってる!!」


 シリルが構える。次の瞬間、目の前に居るカヤの姿が消えた。かと思えば、シリルは顔面にカヤの拳を受けている。そして、シリルはあっさりと殴り飛ばされた。


「ぐ、ガハッ!!」


 シリルは、受け身を取って着地する。だが、おかしなことにシリルが着地した地点は、吹っ飛ばされた地点と同じ場所だった。そして、目の前にはカヤが動かずに立っている。


「今のは、幻か?」

「痛いなら、幻じゃない」


 シリルは、顔を押さえている。痛みが、現実を教えてくれているようだ。


「気に食わない力だ」

「そうかもね。正直、あたしも余り好きじゃないかも。でもね、不思議と心が穏やかなんだ。この景色の、細部に至るまで、あたしには感じる事ができる。これが、世界ってやつなのかもね」

「お前の力だろ。自分の力に酔いでもしたか?」

「かもね。まるで、自分が全てに溶け込んだみたい」


 そういうカヤに、シリルは唐突に全力の蹴りを放つ。だが、それをカヤは片腕で止めた。


「お前、私の動きを……」

「全てを感じることが出来る。そこに偽りはない。あんたさえも、あんたの小さな予備動作さえも、あたしには全て分かる」


 シリルは、そのカヤの言葉に何も言い返さず、圧倒的な威力を誇る拳でカヤを殴りつけようとする。休まず、息すらつかず、全力の連撃を8本の腕を使ってシリルは放った。だが、カヤはそれらの攻撃を、僅かな上体の方向けだけで避ける。シリルが絡めたフェイントすら全て見切り、カヤは超至近距離でのシリルのパンチを躱した。そして、そのすきをついて、シリルの足を蹴り払う。


「グハッ!!」


 バランスを崩し、シリルは転倒する。そして起き上がると、すぐに構えたが、やがて構えをといた。


「なるほど。お前は私達が一つになったときから、最初から全力だったわけだ」

「まぁ、そうだね。私達が一体化してからってことでもあるけど」

「それから、ずっとこんな魔法の中だったのか」

「ちょっと、扱い方最初はわからなかったけどね。すぐに慣れたよ」

「この魔法は、いったいどれくらいの空間に広がっているんだ?」

「さぁ?あたしにも分かんない。ただ、あたしを倒さないと、脱出は不可能だよ」

「……さて、それはどうかな」


 シリルの身体から、大量の青い炎が噴き出していく。


「根比べといこう!!」

「止めといた方が、良いと思うんだけどなぁ」


 青い炎が広がり、空間を焼き尽くしていく。立ち尽くしていたカヤすら巻き込んで、その青い炎は広がっていった。それは、何処までかは視覚的には確認できない。だが、シリルは確実にその果に炎がたどり着いたことを、魔力を通して確信した。



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