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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・四部 炎羅神猿 カヤ編
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炎神

 その鎧の頭からは、燃えたぎる灼熱の髪が広がっている。赤々と燃える長髪。それは、カヤの鎧の背面を覆うほどボリュームが有り、熱く、そして揺らめいている。背中に大質量のパワーを、この鎧からは感じる。今までになかった感覚だ。


「さぁ、出し惜しみ無しで来なさい!!」


 カヤが、一歩踏み出して構える。踏み出した足の地面から煙が上がり、地面が赤く光りだした。恐らく、鎧の発する熱で焦げているのだろう。俺達は平気だが、この鎧、一体どれほどの熱量を放っているのだろうか?


「……面白い!!」


 シリルが、地面を蹴って飛びかかってくる。腕に集めた青い炎で、巨大な爪を作り上げると、俺達目掛けて、そのままその爪を振り下ろしてきた。


「遅すぎ」


 言葉を発すると同時に、カヤは青い爪によって切り裂かれた。だが、切り裂かれたカヤの姿が揺らめいて消える。その後、シリルが爪を立てた少し後ろに、カヤは構えていた。


「幻か!!」

「蜃気楼ってヤツかな。言うなれば」


 カヤは、軽く素振りでもするかのように、シリルに向かって棒を振るう。その一撃を、シリルも何も気にせずに止めた。だが……。


「?」


 シリルのガードしている腕が、どんどん押されていく。カヤは、まだ楽そうに片腕で棒を振り抜いている。だが、シリルは既に全開の力を込めているかのように苦悶の表情を浮かべていた。


「そりゃあ、無理だって。あんた、まだ迷宮を取り込んでないじゃない。それぐらいしないと、今のあたしには太刀打ち出来ないわよ」


 カヤは、そのまま棒を振り抜く。その威力で、シリルは山の斜面まで吹き飛ばされた。


「迷宮を、取り込むだと?出来るか!!それは、私達の家だぞ!!家を失うことになるんだ!!そんなことが出来るか!!」

「え、そういうやつなの?」

「当たり前だろう!!」

「今まで倒した奴らは、普通に取り込んでたよ?」

「なっ!?……どうやら、種族的な見解の違いがあるようだな」

「どうする?負けを認める?」

「……ちっ」


 シリルは、舌打ちすると再度距離を詰めて飛びかかってくる。今度は、8本ある腕で、連撃を放ってきた。だが、それでもカヤは、まだ楽勝そうに片腕で全ての攻撃を止めている。


「……んっ?いや、遅いんじゃない。なんか見えるな。動きが見える」


 カヤは、自分が感じた違和感を口にした。どうやら、カヤには相手の次の攻撃の動きが見えるようだ。肉眼的にではなく、感覚的に。カヤの身体の五感全てが、相手の動きを捉えて、カヤ自身に動きが読めるように教えているように感じる。


「くっ、この!!」


 片腕に青い炎を集め、一点に集中した特大の青い炎をシリルは、カヤ目掛けて叩きつける。それを、カヤは燃え盛る赤い髪で防いだ。


「ふん!!愚策だな!!私達の青い炎は、魔法を燃やし尽くし、消す!!貴様の髪を消し去り、貴様自身を焼くだろう!!」

「それは、どうかなぁ~」


 最初のうちは、青い炎が、カヤの髪にめり込んでいっているように見えた。だが、今となっては違う。カヤの髪が、青い炎の塊を、飲み込み始めていた。


「なっ!!」


 シリルが、慌てて青い炎を切り離して飛び退く。すると、青い炎は跡形もなく、カヤの髪の炎に飲み込まれて消えた。


「何故だ!!」

「相殺って知ってる?同じような魔法が、同じものを打ち消すやつ」

「貴様、まさか!!」

「まぁ、完全に似てるわけじゃないけどね。あんたの青い炎って、魔法の構成されている継ぎ目継ぎ目に入って破壊する魔法っていうか、そういう感じ?な、気がする。あたしのは、当たった相手の魔法構成の主軸にぶつかって消す感じ。まぁ、あたしのは浄化専門の火だと思ってくれればいいよ。あんたのほうが、威力的には上の魔法みたい」

「貴様の火は、対等な魔力で相手の魔法を打ち消す魔法ということか?」

「そういう事」


 かたや破壊する魔法。かたや打ち消す魔法。同じように見えるが、両者には違いがある。それは、破壊する魔法すら、打ち消す魔法は消すことが可能ということ。ただし、普通の魔法を破壊する場合、破壊する魔法のほうが魔力は少なくて済むだろう。だが、その破壊する魔法すら、消す魔法は対処することが出来る。要は、カヤの髪は、魔法に対する効果範囲が破壊する魔法よりも広いことが利点だ。だが、その相手の魔法と同じ魔力量をカヤも使う必要がある。これは、魔力量が相手より少ないとデメリットになってしまうところだな。だが、破壊は破壊。消すだけには出来ないこともある。


「私達の、自慢の火が……」

「さて、どうする?迷宮を、取り込むのやめとく?」

「……」


 シリルは、息を吸い込む。そして、天に向かって吠えた。雄叫びで、空気が揺れる。それと同時に、俺達の居た山に、亀裂が入り始めた。そして、そこから噴き出した火が、シリル目掛けて流れていく。


「いいだろう。本気で行くぞ!!!!」

「そう来なくっちゃ~!!」


 更に、シリルの身体が巨大になる。その身体はパワーに満ち溢れ、驚くほどの筋肉の発達が見て取れた。美人である顔はそのままに、肉体が驚異的な進化を遂げていく。まるで今の彼女の姿は、荒ぶる神のようだ。火と破壊を司る、青い炎の女神。それがプローヴァ。それが、彼女たちなのかもしれない。


「ぬぅううん!!!!」


 青い炎が、シリルを包んでいく。それは、まるで燃える炎の鎧。こちらのように、金属質なものはないが、その全身を覆って武装している姿は、まさに鎧であった。全てを吸い込み切ると、山の外側についていた土部分が崩落を始める。その崩落を、俺達もシリルも動かずにただ落下することでやり過ごした。何も問題なく、俺達は地面へと着地する。不思議な感覚だ。落下したのに、反動がない。どうやら、この鎧の足に何か秘密があるようだ。一瞬、魔法を放って、落下時の衝撃を緩和したような気がする。その証拠に、カヤの踏んでいる地面は、マグマでもかぶったかのように赤くなっていた。シリルの踏んでいる地面も、同じように青くなっている。だが、俺達より地面が凹んでしまったようだ。


「ここまでに成ったのは初めてだ。手加減は出来そうにないぞ。貴様は、本当に一つとなった私の相手をするのだからな!!」

「いや、むしろありがたいよ。さて、お相手致すとしましょうか!!」


 今の光景は、人類から見れば地獄のような光景ではないだろうか。赤い火の神と、青い火の神が睨み合い、お互いにぶつかり合おうと構えている。その光景は、周囲にいる人達にとって、絶望でしかないだろう。山が消え、山の破片が降り積もった小さな丘の上が、徐々に2体の神の熱で色を変えて溶けていく。2つの色の炎神のぶつかり合いが、今、始まろうとしていた。





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