八本腕の炎姫
火がこちらにまで迫ってくる。その火を、レムが魔力の壁を張って防いでくれた。シリルのお仲間たちは、この程度ならなんでもないと言わんばかりに、火を気にせずリーダーを応援している。足元が燃えているのに、全く気にする様子がない。まぁ、青い炎の中に居ても平気な身体みたいだから、このぐらいでは問題ないんだろう。どういう原理かは、分からないが。
「……」
一呼吸分くらいの睨み合い。その後、先に動いたのはカヤだった。一歩踏み抜いて前に前進するのかと思いきや、カヤは空高くジャンプした。足から火の魔力を放出して空中を蹴り、どんどんカヤは空に上っていく。そして、一定距離に達すると、カヤは足に魔力を貯めて反転。地上目掛けて貯めに貯めた魔力を放出し、空中を蹴り抜いた!!
「ふっ!!」
空に大きな爆炎の雲が出現する。それはあまりの爆発力に閃光を放ち、金色の雲のように見えた。金色の雲を蹴り、カヤは地上へと加速する。地上で待ち構えている、シリル目掛けて。
「面白い……」
シリルは、腕に更に青い炎を纏わせて空中に腕を上げた。どうやら、受け止めるつもりのようだ。その動作の間にも、カヤは全身から魔力を放って加速しながら落下してきている。更に棒をシリル目掛けてカヤは突き出し、身体を捻らせて回転し始めた。今のカヤは、カヤそのものが一つの弾丸のように見えた。赤い火の魔力の弾丸が、シリルの目掛けて直進する。
「あ、駄目だこれ。皆、全員で壁を張るぞ!!」
「はい、マスター!!」
レムの壁に、合わせて俺たちは魔力の壁を張り強固にする。
「ねぇ、私達もやったほうが良いんじゃない?」
「大丈夫でしょ、あれぐらい」
「……私は、張っておくか」
「大げさだ……なぁ!!!!」
カヤが、シリル目掛けて直撃する。カヤの棒を、シリルは掴んで止めようとしていた。だが、その威力を完全には押し殺しきれていない。激突の衝撃で、カヤの超加速と魔力で威力を増した衝撃波が、辺りに広がった。それは地面にヒビを入れ、周りの大気を灼熱に染める。俺達は周りを魔力の壁で囲ったので、熱も衝撃も大丈夫だが、敵の彼女たちはどうだろうか。
「おっ、おおおっ!!!!」
「ちょっと、地面揺れすぎ!!」
「一人飛ばされちゃった!!!!」
「壁を張っといて、正解だった……」
どうやら、被害は軽微なようだ。というか、この空気の中で呼吸できて、喋れてるの凄いな。
「うぉぉおおおおおお!!!!」
掴まれている棒に、カヤは渾身の力を込めて衝撃を放った。棒も回転させて、威力を更に増す。棒全体から放たれた衝撃に、シリルは棒を掴んでいることが出来ず、一瞬離してしまった。だが、一瞬あれば今のカヤには十分だった。この状況でカヤの棒を離せば、二度と掴み直すことは出来ない。カヤの攻撃は、その一瞬でシリルの身体の半身に激突し、その体の半分を塵へと変えた。
「……ふぅ」
地面をその威力のまま削り取り、残りの威力を受け流し切るためにカヤは、空中に何度かジャンプして回転で威力を殺してから着地する。カヤが後ろを振り向くと、身体を半分削り取られたシリルが立っていた。
「あたしの勝ち、ってことでいいのかな?」
「……」
カヤの勝ちだろう。と、思っていた。身体が半分になってしまったシリルの表情が、ニヤッと笑うまでわ。
「ここまでの技を、まだ持っているとわな」
シリルの身体から、青い炎が吹き出す。それは、彼女の半分の肉体を形作り、完全にその姿を再生させた。
「うげぇっ、回復魔法まで使えるの!!しかも、回復速度が早い!!」
「回復魔法か。違うな。私達の身体は、元からこの青い火だ。体を作り直した、という方が正しいだろう。お前のその武器と同じだ。私達は、そのように身体を作り直せる。私達は火だ。完全に消さない限り、何度でも燃え上がる。だから、身体を半分消し飛ばしたくらいでは、致命傷にはならんぞ」
「め、滅茶苦茶な奴ね」
「とは言っても、もう一度あれを体の中心目掛けて打たれては、本当に消えかねない。では、本気を出させてもらうとしよう」
シリルが、彼女の仲間目掛けて手をかざす。すると、彼女の仲間たちが青い炎となって、シリルへと集まっていった。そして、その体に吸収されていく。
「やっと、一体化した」
シリルの身体に腕が生えていく。その身体は更に強靭に膨れ上がり、その身長を増加させた。シリルの額に新たな目が出現し、辺りを見回す。その身に宿った力を示すかのように、シリルはその場で身震いすると、一瞬にして地面が青い炎の波で埋まった。
「ちょ!!魔力の壁が消えていくんですけど!!!!」
「レム、切り払え!!皆も、攻撃で払うんだ!!」
「はい!!」
魔力の壁が消えるのと同時に、レムが辺りを切り払う。なんとか、俺達のいる部分だけは青い炎が避けていった。カヤは、棒を地面に突き刺して、その棒の上によじ登っている。そして、棒に衝撃を乗せて放ち、辺りの青い炎を消していた。
「望んだ通りの姿になったぞ。だが、生憎この姿で暴れるにはここは狭すぎる。上に着いて来てもらおう」
両腕で胸を打ち鳴らし、大声で吠えるとシリルはジャンプする。炎の天井をくぐり抜け、どうやらシリルは地上へと出たようだ。
「……よし、あたしらも行きますか!!」
「ちょっと待ってください、カヤ!!あなた、一体化した時のイメージはあるんですか?」
「イメージ?」
「私がもっと速くなりたいと願ったように、シデンが新たな力を願ったように、ミエルさん達が力を合わせたいと願ったように、カヤさんにも、そんな強くなりたいという理想はあるんですか?」
「う~ん、なんとかなるんじゃないかって、漠然と考えてたくらいだしぃ。そこまで、具体的じゃないかな……」
「だとしたら不味いですよ。ただ、力が引き上げられただけの一体化になりかねません!!」
「せっかく属性特化一体化をするのですから、何か考えられたらいかがですか?」
ミルクとカザネが、そうカヤに言う。というか、ここ暑いんだけど。魔力で冷やしてるのにまだ暑い。この青い炎、何度くらいあるんだ。レムがさっきから切り払っていっているけど、全然温度が下がってる気がしない。
「う~ん、そうだなぁ~」
「何かないんですか!!何か!!」
「やっぱり、あたし全身全霊で主様の為に居たいっていうか。主様のためになんでもしてあげたいって気はする。ミズキみたいに、役立ってあげたいし。ミルクみたいにお世話してあげたい。フィー姉さんみたいに癒やしてあげたいし。レムみたいに安心感を与えてあげたいなぁって。でも、あたしはあたしだし、皆みたいになれる訳が無い。あいつ、シリルみたいに皆で一人じゃないから。あたし達それぞれだから、出来ることってあると思う。だから、あたしは……」
「あたしは?」
カヤが、目をつむって黙る。それを俺たちは、黙って見守っていた。
「神様になりたい!!!!」
「……はっ?」
ミルクの疑問の声が、辺りに響いた。




