うねる
カヤの腕の中で炎が踊る。それは魔力で練られた火の力。その力が、形を変え性質を変え、一本の赤い棒へと変化する。その棒を握ると、カヤは慣らすようにその棒をくるくると回して敵に向けた。
「さて、少し本気だすよ」
「やっと、使う気になったか」
敵が身構える。だが、カヤは攻めること無く、何か考えているかのような表情を浮かべていた。
「……あんたさ、武器使わないの?」
「私がか。そうだな、お前が、その武器を使うことでかなり強くなるのなら、使っても良いかもな」
「余裕ってわけ。なら、後悔するよ」
カヤが、棒を構えた。だが、今までのカヤの構えと何処かが違う。その違いは立ち位置だ。カヤは、いつもなら棒の攻撃射程を考慮して、もう少し敵に近い位置まで移動する。だが、今のカヤはそれよりも少し離れた位置に陣取って構えていた。敵の動きを、待ち構えているのか?
「その距離では、その武器は届かんぞ」
「……」
敵もそう思ったのか、身構えながらもカヤに問いかける。だが、カヤはその言葉にニヤリと笑った。
「!?」
次の瞬間、何かが敵の顔めがけて飛んできていた。その何かを、敵は一瞬の判断で防御する。だが、防御が一瞬遅れたのか、顔に僅かな血がついていた。
「届かない場所で、構えるわけがないじゃん」
俺達は、カヤの手元を見ながら目をこする。カヤの手元で、棒がまるで生き物のようにうねりだしたのだ。いや、よく見ると違う。高速で棒が回転している。その中で、カヤが棒を動かすことによって、まるで生き物のように棒が動いているように見えたのだ。しかも、この棒……。
「それじゃあ、理解できたみたいだし、始めよう!!」
伸びる!! カヤの手元で、相手めがけて放たれた超高速回転している棒が、実際に見て測れる射程よりも伸びている。それを、何度もカヤは相手めがけて突き放った!! それは、ドリルを何度も身体に向かって叩きつけられるようなもの。それを、敵は苦しい顔をしながらも、なんとか腕で受け流して防いでいた。
「やるじゃん!!」
更に突きだけではない、棒は更に伸びながら、曲がりながら横薙ぎに相手脇腹を目掛けて飛んでいく。まさに変幻自在。前面のみではなく、側面への変化もつけられるようになったカヤの攻撃を捉えることは難しい。相手がいくら強かろうとも、この多彩な攻撃の前にはついていく事ができず、いずれカヤの攻撃が敵の身を捉え致命傷を与えるだろう。そう、俺達は確信していた。だが……。
「……」
敵が、にやりと笑う。そいつは、カヤの回転する棒の先を、素手で掴んだ。そして、カヤの棒の回転が徐々に止まり、ついにはその動きを止める。
「対応したの?この短時間で?」
「慣れればどうということもない。とは言っても、少し手こずったが」
敵が、棒に力を込めている。すると、カヤの身体が地面からわずかに浮き始めた。そのまま、カヤを持ち上げて相手は地面に叩きつけるつもりだろう。
「まぁ、それぐらいじゃないと困ってたけどね」
「?」
その時、相手が握っている棒の先から、強烈な破裂音がした。相手は、痛みに棒を握るのをやめる。だが、棒は何処も傷ついてはいない。
「それじゃあ、修行の集大成のお披露目と行きますか」
カヤが、戻した棒を地面に叩きつける。すると、地面が破裂した。
「なるほど。武器自体に、己の身体から作った力を伝わらせ、衝撃を辺りに振りまいたのか」
「正解。さぁ、高速回転しながら爆発する武器だよ。どうするぅ~?」
カヤが、再び棒を回転させながらそういう。その問に、相手は笑みで答えた。
「なら、私も少し本気を出すとしよう」
そう言うと、彼女の身体から、青い炎が吹き出した。それは彼女の髪を広がらせ、彼女の腕や肩を守るように燃えている。まるで生きている炎の防具。背面は、髪の炎で覆い尽くされている。胸などは炎に包まれていないのだが、それが彼女の余裕なのか、はたまたデザイン的な趣味なのかはわからない。ともかく、確実に強く、攻めづらい相手になったのは確かだ。
「次に掴んだ時、その武器は塵になる。その気で来い」
「やる気出るねぇ~。じゃ、お言葉に甘えちゃおうかな」
揺らめく炎を、カヤは見ていた。そして、一歩踏み込む。回転した棒の突きが、敵めがけて放たれた。だが、完全にその軌道は敵に見られている。まるで、飛んでくる蝶でも追うかのように、敵は先程まで対応できていなかったカヤの突きを眺めていた。そして、迷いなくその先端を握る。
「学習しないなぁ」
相手が棒先を握り込んだその瞬間、棒先から衝撃が放たれた。しかし、今度は放たれ方が違う。さっきは、衝撃が広がるように放たれていた。だが、今回は棒の延長線上にその先をえぐり取るように衝撃を纏めて放ったのだ。その結果、棒先から放たれた衝撃が、相手の肩に激突する。次の瞬間、そのまま敵は吹っ飛ばされた。
「甘い甘い」
カヤは、棒先に衝撃を送って、僅かに付いていた青い炎を消し飛ばした。どうやら、衝撃でなら払うことが出来るらしい。
「ふふっ、やるものだ」
吹っ飛ばされた先で、特に傷ついた様子もなく、敵が立ち上がる。だが、その肩からは、わずかに血が出ていた。
「あんたさぁ」
「?」
「いい加減本気出したら?」
「……なるほど。そういうことか」
「あんたと戦うの、二回目でしょ」
「その問いに、今は答える気はない」
目を離していたわけではない。油断があったわけでもない。だが、相手がその場から消えてこちらに跳躍してきた瞬間、その動きにカヤが完全に反応するまでに、まさに目の前までかかった。
「いっ!!」
「では、こちらから攻めよう。一撃、良いのを貰ったからな!!」
カヤは、なんとか相手の掌底を、棒でガードする。だが、そのままその威力で後ろに吹っ飛ばされた。受け身を取って、空中を炎を纏わせた蹴りで蹴ってその場に着地する。
「う、うげええええ」
だが、その場でカヤは口から血を吐き出した。
「カヤ!!!!」
「いきなりどうしたんですか!!」
カヤは、血を一旦吐き出すと構える。そして、相手を睨みつけた。
「あたしと、同じことをしたな」
「その通り。衝撃を、お前の内部に向かって放った。いくらかは相殺したようだが、完全には無理だったようだな」
「そうみたい。あんた、力ありすぎ」
「それが自慢だ」
敵の腕に、青い炎が渦を巻いて形成されていく。その青い炎の渦が、ダメージを負ったカヤ目掛けて放たれた。




