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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・四部 炎羅神猿 カヤ編
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 翌朝、昨日の事もあったので迷宮の様子を見に行くことにした。昨日の夜には、カヤは疲れた様子で、すぐに晩御飯を食べると眠ってしまったが。今朝起きて元気に体を洗うと、調子が良さそうにストレッチをしていた。自然回復できたらしい。そんなこんなで、朝食を食べると俺達は、また迷宮へと出発した。


「まぁ、ゆっくり行くか。今度は、昨日より息を潜めて」

「……その必要ないかも、主様」

「うん?」


 カヤは、昨日作られていた巨大な壁の上に駆け上がり飛び乗る。俺も、魔法でカヤと同じようにして土の壁の上に登った。俺達は、そこから迷宮を眺める。そこには、青い炎で覆われた山が見えていた。その山の周囲の草木はなくなり、まるで巨大なコンロが地面においてあるかのようだった。その回りには、昨日見た兵士たちの姿はない。だが、その場所よりも少し離れた所に、人の気配を感じる。どうやら、更に遠方からの偵察に切り替えたようだ。


「音が聞こえる。何か作ってる」

「まだ、諦めてはいないって所か」


 それよりも、昨日の一件で死者は出てないんだろうな。山から逃げ遅れた人がいたら、今頃消し炭だぞ。


「兵士はいないみたいだから、ガンガン行きましょう、主様!!」 

「いや、一応警戒しているみたいだから、地上に降りて行こう。流石に、この土壁の上を移動していたらバレる」

「は~い」


 カヤは、勢い良く土壁から飛び降りた。俺も、地面に降りてカヤを先頭に迷宮へと近づいていく。やがて、周囲の空気の温度が上がり、身体がじっとりと汗を流し始めてきた。俺は、魔法で身体を冷やしながら進むことにする。カヤは、俺とは違って逆に調子が良さそうだ。元気に腕を振り回している。むしろ楽しそうですらあるな。これから、戦いに行くようには見えない。


「……来たか」

「2人だな」


 早足気味に山へと接近していた俺達だったが、その目の前の山から、何かの気配を感じた。それは、山の青い炎に紛れてこちらに向かってきている。炎で姿は見えないが、俺達には分かる。その2人は、山の斜面を駆け下りると、ゆっくりと歩いて俺たちに近づいてきた。その2人に対して、カヤは武器も構えず自然体で構えている。俺も、すぐにサリスを握る心の準備をするだけにした。


「待っていたぞ」

「そっちの女は、待ってない」

「あら、そう。でもね、こっちはそっちに用があるの。あと、うちの主様に色目を使わないでくれる?」

「い、色目など使ってない!!」

「そうそう。まだ実力見てないし」


 その2人は、初めて俺たちが見たこの炎の山の魔物女性2人だった。片方は真面目そうで、片方は気楽そうに構えている。その2人は、カヤと会話すると、更にゆっくりと俺達に近づいてきた。


「そっちの男を、渡して貰おう」

「い・や・だ」

「じゃあ、やるしか無いじゃん」

「血の気の多い連中ですこと」


 カヤは、2人が戦闘態勢を取るのを見ても構えない。余裕の様子で片足立ちしている。そう言えば、カヤも最初合った時は、戦闘を仕掛けてきた方だったんだよな。かなり落ち着いた性格になったもんだ。


「構えろ」

「あら、待ってくれるんだ。なら、そうしましょう」


 カヤは、適当に無手で構える。俺から見たら、まだ余裕と言う感じだが、敵から見たら真面目に構えてるように見えるんだろうか。


「……武器はどうした?」

「あれ、知ってるんだ?ああ、あの三つ目から聞いたのか。今は、使わないってことで」

「後悔するぞ」

「どっちがかしらね」

「……うーん、任せる」

「そうか。私が相手になろう」

「一対一ってわけ。そこは好感が持てるわね。どうぞ、かかってきて」

「私、あっちの男試す」


 そう言うと、気楽そうに構えていたほうが、俺に一気に飛びかかってきた。だが、そいつの脇腹にカヤは、正確に蹴りを入れる。蹴りをもらった魔物は、そのまま少し飛ばされて、受け身を取って着地した。


「ごめんね。あたしが居る限り、主様に手を出させる訳にはいかないの」

「お前を倒してから、というわけか」

「そういう事」

「ちぇっ、つまみ食いは無しか。早くやっちゃって。そんで、早く確かめて帰ろう」

「分かった」


 真面目な方が、カヤに拳を振るう。それを、カヤは余裕の表情で避けた。さらに、相手の力に己の力を乗せて相手を投げる。近場の土壁まで飛ばされ、その魔物は土壁の真ん中あたりで受け身を取って着地すると、大きく土壁を蹴り砕いて、再度カヤに突進してきた。


「今ので分からない?」


 カヤは、そのまま再度殴ろうとしてくる敵の拳を、また同じようにして掴む。そして、自分を中心に相手を掴んでぐるぐると勢い良く回ると、再度相手を土壁目掛けて放り投げた。先程より勢いを増した投げに、魔物は土壁に着地することが出来ず、何枚も土壁を砕き、叩きつけられて止まる。だが、すぐに起き上がったところを見ると、あまりダメージはないようだ。


「やっぱり、筋肉の鎧が半端ないね。服装は軽装なのに」

「効かんぞ。そんな攻撃わ」

「貴方の攻撃も、あたしには当たってないけど?」

「いずれ当たる。そして、当たった時がお前の最後だ!!」

「それはない」


 再度の突進を、魔物は行う。その魔物の嵐のような拳の乱撃を、カヤは全て華麗に躱した。そして、その乱撃のさなか、カヤは一撃だけ相手に攻撃をする。その攻撃方法は平手。平手を、相手の腹に押し付けたのだ。パンという、腹を軽くたたく音が聞こえる。その瞬間、魔物が後ろに吹き飛ばされた。


「うごっ!!」

「何だ!?」


 魔物は、地面に受け身を取って着地する。だが、その動きには、確実にダメージが通っていることが確認できた。痛そうに、魔物は腹を気にしている。勿論、それは一瞬にすぎない動作ではあったが。


「くっ!!」

「あら、もう突進は終わり?」


 魔物は、構えて距離をゆっくりと詰めてくる。先程と同じように、飛びかかっていったりはしない。どうやら、カヤを強いと認識したようだ。


「今のは、なんだ?」

「あんたの内側を、殴ったのよ」

「なるほど。通しか」

「理屈は分かったみたいね。身体の中まで丈夫じゃなくて良かった」

「次は、鍛えておく」

「次はない」


 カヤと、魔物が再び構える。お互いに睨み合っていると、不意に地面が揺れ始めた。


「なんだ、地震か!!」

「主様!!」


 カヤは、すぐに俺に飛びついて辺りを警戒する。俺は、何故かこの状況でも冷静でいられた。何か降ってこないだろうかと、周囲を見渡す余裕すらあった。


「地面が!?」

「崩れそうだぞ!!カヤ、転移する!!」

「はい!!」


 俺達は、その場から転移魔法で消えた。


「……逃したか」


 地面の、亀裂が塞がっていく。まるで、何かに地面が押され、くっつけられるかのように。


「あいつ、出来ます」

「男、見れなかった」

「反応を見ていた。挙動を確認していた。あの男、動体視力はある。それだけ動ける。あれぐらい出来るということだ」

「では」

「当面は、あいつに絞る。戻って来い」

「はい」

「ちぇっ」


 2体の魔物は、山に戻っていく。何者かの声に従って。

 



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