青い山の破壊神
それから、どれくらい時間が経っただろう。何回かの休憩をはさみつつカヤは、ミルクとレムと訓練を行っていた。そのうちに、空が暗くなっていく。
「くぁ~!!」
「もう、こんな時間」
「そうだな」
「ロロちゃんと、ジャルクちゃんもお家に帰らないとですね」
「う~ん、今日はそっちに泊まっていい?」
「ああ、勿論いいさ」
カヤが訓練をしていると、ロロが俺達の元へとやって来た。訓練しているカヤ達を、その後はロロとジャルクも見守っている。そして、カヤ達の動きを真似ようとしてみたり、自分自身に活かせないかと、動きながら考えていた。なんだか、その姿が微笑ましかった。
「あ、見てみて。ジャルク、レーザー吐けるようになった」
「ぐあぁぁああ!!」
ロロの言う通り、ジャルクの口から滅茶苦茶細いレーザーが発射される。それは、チリチリと地面に生えている草を焦がし、少しだけ焦げさせた。マッチの代わりにはなりそうだ。
「おお、凄いなぁ。成長してるなぁ、ジャルク」
「くぁ~」
「威力はいまいち」
「くぁっ……」
「まぁ、それは今後次第だよな」
「なんか、ほのぼのしてるね」
俺がロロ達を見ていると、カヤ達が訓練を止めて寄ってきた。カヤは、担いでいた棒を、ロロを見ると片手で振り回す。
「出来る?」
「そのぐらいなら」
カヤの動きを真似て、ロロも出現させた薙刀を振り回した。いや、かなり危ないよ、これ。上手く回せてるけども。
「それってさ、刃部分しまえないの?危ないよ」
「しまう。こ、こうですか」
ロロが、顔を真っ赤にして念じる。すると、薙刀の刃部分だけが消えた。
「それで良し。じゃあ、次はこれね」
そういうと、カヤは棒を回転させながら、自分の周りを一回転するように棒を回していく。その動きを、ロロも真似しようとするが、どこかぎこちない。
「えっと、よっと」
「そこまで出来ると、どこでも回せるようになってくるから楽しいよ。持ち替えも早くなるし」
「あ、ありがとうございます」
「うんうん。同じっぽい武器だからね、教えられることは、なんでも教えるよ」
「なんでも。……では、旦那様を夢中にさせる夜のテクニックなどを」
「はい。その話は無し!!」
俺は、慌ててロロの口を、腕で押さえた。
「そうだなぁ。やっぱ、お互いに密着するっていうのがさぁ……」
「カヤ!!ストップ、ストップ!!」
「まだ早いですよ!!」
「いや、早いってことはないんじゃないっすか?」
「間違ったことを覚えちゃうよりは、いい気がしますね」
「いえ、でも、今する話でもないかと……」
「なるほど。実践しながらじゃないと、勘違いするかもしれないっすからね」
「いや、そういう問題でわ」
「どっちでもいいから、ともかく今はなし!!今はなし!!」
「は~い」
カヤが、俺の言葉に話しをするのをやめる。素直な子で良かった。だが、それと同時にロロに近づいて、何かを言った。
「実践するときね、教えてあげる」
「……分かりました。不安、残りますが」
「大丈夫。今から学ばなくても、相手が主様なら、問題ないから」
「……はい」
カヤが、にこやかな笑顔でロロから離れる。それと同時に、ロロは俺の袖あたりを掴んだ。なんて言われたんだ?
「おっと、すっかり暗くなってしまったな。帰るか」
「は~い」
「ロロちゃんは、泊まっていくと言っておかないと」
「それは、私が分身で伝えよう」
「そうか。なら、すぐに帰ろう」
「くぁ~」
「お~」
ロロ達を連れて、俺達はそこで切り上げて、部屋に戻ることにした。
*****
火の神魔級迷宮は、相変わらず兵士達に監視されている。その防衛線は、日ごとに密度を増し、今や神魔級迷宮が存在している国の国防以外の全戦力が、全てそこに集結していた。
「さて、この事態を打開する手立ては無いのかな。魔法軍事部の諸君」
「我々も、何の手立ても無しで、ここまで来たわけではないんだよ。見たまえ」
この国の軍事を任されているリーダーらしき男に、年季の入ったローブを着た年老いた男が言った。男が指差す先には、巨大な大砲のようなものが運ばれて来ている。馬型の魔物が5体がかりで、その巨大な大砲を運んでいた。
「ほうほう、また凄そうな物を持ってきたな」
「そうだろう。あの大砲の動力には、魔力を充填された水の魔石がこれでもかと搭載されている。まぁ、言うなれば、超巨大な水鉄砲だ。もっとも、山一つ消し飛ばす威力はあるだろうがな」
「それは、恐ろしい水鉄砲だな」
「これで、迷宮ごと破壊してしまえばいい。どうだろうか?」
「……大丈夫なのか?」
「計算ではな」
「……」
リーダーらしき男は、大砲を眺めている。だが、やるしか無いかという顔をすると、山の方を指差した。
「よし、それでは取り掛かろう。兵たちを下がらせてくれ。余波に巻き込まれんようにな」
「分かった。おい、頼む」
「分かりました」
男に指示されて、兵士が駆けていく。それと同時に魔法使いの兵士たちが、地形を土魔法で変形させ、防波堤を作り始めた。それを行いながら、大砲も土魔法で台座を作り固定していく。数時間かかり、その作業は終りを迎えた。
「さて、破壊するとするか」
「起動準備、出来ています」
「魔法陣の構築、問題ありません」
「よし。では、発射!!」
その瞬間、大砲から圧縮された水のレーザーが、山目掛けて放出された。レーザーは、目で捉えることが出来ないほどの速度で伸び、山の中腹目掛けて飛んでいく。そして、間をおかず超高圧の水のレーザーが、何かに激突した。
「……」
「予想はしておった」
水のレーザーは、その何かに防がれていた。それは、片腕で水のレーザーを止めている。そいつはにやりと笑うと、腕から青い炎を放出し、水のレーザーを破壊していった。
「化物が」
「いや、これを待っていた。逃げられでもしたら事じゃからな」
「?」
「まだ、手加減しとるということだ」
そういうと、ローブを着た男が合図を出す。すると、魔法使いたちが新たな魔法陣を起動させた。
「これで、全魔石、稼働準備完了です」
「やってくれ」
「はい」
その言葉と同時に、大砲から出ている水のレーザーの威力が増した。そのレーザーは、更に巨大な水の柱となって、広がっていた青い炎すら飲み込んでいく。その威力に地面がきしみ、山にヒビが入り始めた。
「おお~」
「やれやれ」
誰もが、迷宮の崩壊を確信した。だが、そこから信じられないことが起こった。青い炎の斬撃が、水のレーザーの柱を、8分割するように遡っていく。そして、その斬撃が大砲に届くと、大砲は魔力を撒き散らして、巨大な爆発を起こした。
「うおお!!!!」
「近場で、起動させんで正解じゃったな」
大砲は、魔法陣による遠隔操作で発射されている。それでも、だいぶ離れたとはいえ、大砲破壊の衝撃は、彼らの避難場所まで届いていた。衝撃が止むと、それぞれの持場にいた者たちが、双眼鏡で山を確認する。山の地面が崩れ、その中から青い炎が溢れ出していた。それは、炎で作られた山だった。まるで、一つの巨大な火のようだ。その巨大な火は、回りには燃え移らず、山の形を保ち続けている。その中腹に、笑みを浮かべた女の魔物が一体立っていた。
「何だあれは」
「今までに、報告があったものとは違うな」
それは、8本の腕を持っていた。炎に覆われていて分からないが、そいつが3つの目でこちらを見ているのが、兵士たちには分かった。それは、双眼鏡を見ていない者達にも伝わった。恐怖という感情とともに。
「お、俺達は、何と戦っているんだ……」
「分からない、分からない!!!!」
全ての兵士たちが、その恐怖に立っていることが出来ず、その場に座り込んだ。あるものは、恐怖から涙を流し、あるものは意識を手放した。
「魔物、ではないのか」
「魔物だ。だが、あんたの言いたいことは分かる。あれは、神かも知れない……」
暫くして、その恐怖は消える。燃えていた山は自ら土を纏い、その真の姿を再び隠した。そして、その女の魔物は消えていた。