修正される流れ
「と、言うわけなんだが」
「なるほどね。魔法が通じないかもしれない魔物かぁ。考えもしなかった相手ね」
「ああ。問題は、何処まで通じないのか、だと思うが」
「ベイの話からして、迷宮を包囲していた魔法使いの雨のような魔法の攻撃に耐えたところを見ると、ちょっとやそっとじゃ抜けない魔法の壁みたいね。でも、相手が神魔級という点から、普通の魔法使いがいくら集まったところでって感じはあるけど」
「そうなんだよなぁ。多分、あの魔法の雨よりも、アリー一人のクリムゾンランス乱れ撃ちのほうが威力があると思う」
「……私のストップも、効かないのかしらね。試してみたいけど、動きが早い相手には近寄りたくないのよねぇ」
「でしたら、ご主人様が使うというのはどうですか?」
「俺が、空間制御魔法を?」
「……」
「どうしたんです、アリーさん?」
「正直、あまりオススメできないのよね。空間制御魔法」
「え、なんでですか?」
「ミルク、この魔法ね、普通の人間が使える魔法じゃないのよ。それこそ、私みたいに存在が二人に別れてて、更に片方がその魔法を制御可能なレベルにまで自分の演算力を強化してるっていうのなら別だけど」
「……ご主人様も大概人間やめてますけど、アリーさんも似たようなもんですね」
「最高の夫婦でしょ」
「ぐぐぐっ、完璧すぎます」
「アリーちゃん、ほんとやばいぐらい天才だよね」
「神才よ、神才。個人で空間を制御できるなんて、私以外には出来ないわね。でも、ベイなら出来るとは思うわ。ただし、相当な時間がいるでしょうね。それに、今のベイは一体化するたびに体の構造が変化し続けている。そんな中で、むやみに新しい領域を身体に増やす行為は避けたいところね」
「そうですね。ご主人様の体がもつかどうか……」
全員が俺のほうを見ている。見た目は変わっていないけど、確かに俺の身体は色々と変わってしまっているみたいだからな。この変化が良い方向にだけ働いているのか、怪しいところだ。むやみに、今は無理な身体の変化を伴う魔法などはやめたほうが良いだろう。一体化は、しないといけないけどな。
「そう考えると、こんな風に連続で迷宮に挑んでいる状況って大丈夫なの?もしかして、もっと期間おいたほうがよくない?」
「カヤ、私は思うの。どんな変化にせよ、それは貴方達がベイに与えてくれた能力だから、決してベイに害を及ぼすことはないって。確かに、体力の消耗が激しかったり、限界を超えた集中などでベイが強制的な眠りについてしまうこともある。だけど、それでもベイは、今まで新たな力を獲得して、ちゃんと元気に過ごしている。恐らく、それは貴方達とベイが繋がっているから。ベイの一部に近い状態で、貴方達がベイに力を与えてくれるから。だから、貴方達がベイを思いながら力を使う限り、決してベイに悪い力は与えない。だから、大丈夫よ」
「……」
アリーが、カヤにそういう。そのアリーの顔を、ミルクがじっと見ていた。
「アリーさん、何か焦っていませんか?」
「……流石ミルクね。不安は隠せないか。以前、占いで創生級の出現を予測した占い師が居たでしょう」
「ええ、居ましたねぇ」
「あいつと同じことがね、今の私には出来るのよ。それは魔力の動きから、大雑把にではなく最も起こる確率の高い運命を言い当てるってだけの魔法なんだけど。これは、特殊な脳みそというか。ちょっとぶっ飛んでないと出来ない魔法なのよね」
「ということは、アリーさんには、私達の行動が先の先まで見えるという訳ですか?」
「いえ、見えないわ」
「?」
「アリーさん、それって言ってることおかしくない?」
「そうねカヤ。おかしく感じるでしょうね。でも、言ったでしょう。魔力の動きから、最も起こる確率の高い未来を当てるって。それってね、私が歩んだ未来。ベイが居なかった未来に向かって可能性が収縮するって力が未だに大きいから、結果は同じ。今の私がその占い魔法を使っても、創生級が解き放たれて未来が終わるって可能性しか見えていない。あ、私のほうが向こうの占い師より見れる時空の距離長いから、そこら辺まで見れるの」
「うん、でも、私達の近居ぐらい見えるんじゃないですか?そんなところまで見えるのなら?」
「自然に流れていった場合というか、ベイを呼ぶことを考慮していない魔力の流れの修正された未来になるわけなのよね。つまり、ベイ達はその存在そのものがそこにあろうと、魔力自体は流れを完全に遮って干渉してくるものではないって判断を今はしているわけ。まぁ、すごく大雑把にだけど」
「それって、私達の存在自体が無視されているってことですか?」
「そういうこと。大雑把に未来に向かって動く魔力の川には、まだベイ達は漂う小石のようなもの。完全に流れを変えられる水路とは思っていないということね」
「……これほどの、力を有している私達がですか」
なんだか、滅茶苦茶スケールがでかい話になってきたな。時代という流れには、まだ俺たちは、救世主とは認められていないということか。
「だからこそ、ちょっと焦ってるんだけど。要するに、いつ創生級が出てきても、今っておかしくないみたいな」
「なんですか、そのヤバイ状況わ!!」
「勿論、そんなすぐに出てくるはずは無いと思うけど。ベイ達って思ったより流れに影響を今の段階でも与えてるから、どう転ぶかなんて分からないわけよね。つまり、この占い魔法。今は殆ど役立たずってわけ。それこそ、ベイ達に限って」
「逆を言えば、俺達しか流れを変えられないってことか」
「そういうこと。そして、もしこの占い魔法でベイ達の存在が確認できたなら」
「俺達が、創生級に太刀打ちできる程の力を得た時、ということか」
「そういうこと。未来を変えうる、大きな水路。それに、ベイ達が完全になろうとしたとき、この魔法で知覚することが出来ると思う。ここに、こんなにも強い魔法使いがいることを」
そう言えば、今まで散々暴れてきたけど、その手の占いで補足されたようなことはなかったっぽいしな。そのせいだったんだろうか。
「しかし、これでもまだとわ」
「あたし達の敵って、どれほどの……」
「この前戦ったやつも、相当の規格外だったけど、それすら取るに足らない相手なんでしょうね。あそこにいる化物わ」
時代の流れを、未だに破滅へと導くという創生級。その強さ、想像もできない。だから俺は、今は考えるのをやめた。今は、目の前の神魔級迷宮をなんとかしよう。そう、頭を切り替えた。