ドラゴンライダー
「さて、そろそろ帰るとするか」
一晩安静にしていたせいか、身体が動きたくてたまらないといった反応を見せたので俺は、朝から城の外でストレッチをしていた。全身の筋肉を伸ばし、魔力を身体に漲らせて拳を空中に向かって放つ。それだけで、大気が揺らぎ、風の流れができたのを感じた。
「……良い空だな。飛び交い、増殖する機械の化物もいない、平和な空だ。日常っていうのは、こうじゃないとな」
雲が穏やかに流れ、青々とした空を見ながら俺はそう思った。そうしていると、何かの走ってくる音が聞こえてくる。
「見つけた!!」
「くぁ~!!」
それは、ロロとジャルクだった。ジャルクを頭に乗せて、ロロは一直線にこちらに向かって走ってくる。そのまま俺の足に抱きつくと、よじ登ってロロは俺の肩に座った。
「……大丈夫?」
「ああ、お陰で元気だ。ほら、この通り」
俺は、ロロを片腕で捕まえると、そのまま肩に乗せた状態でバク転した。その後、少し走って見せて元気だというアピールをする。そうすると、ロロは穏やかに微笑んだ。
「よかった。昨日は、安静にしてないとって、合わせてもらえなかったから」
「うん、ああ、ちょっと戦いで疲れちゃったからな。心配かけたかな?」
「うん、心配した。ジャルクも」
「くぁ~」
「おお、ジャルクもか。ごめんな」
「くぁぁ」
よしよしとジャルクを撫でる。すると、ジャルクは仕方ねぇなと言った鳴き声を漏らした。よしよし、可愛い奴め。
「族長、帰ってきた」
「ああ、ミズキが救出した中にいたのか」
「そう。他の皆も、何人かは死んじゃったけど、それでも皆生き残ってた。嬉しい」
「良かったな」
「……だけど、問題がある」
「問題?」
「族長を倒さなければ、族長には成れない。族長は、相棒を失ってはいるが、正直強い。今は勝てない」
「なるほどなぁ」
「というわけで、暗殺するしか無い!!」
「……いやいやいや、そこは、真正面から強くなって越えようよ!!」
「族長は、現役バリバリの戦士。片や、私は子供。伸び盛りとは言え、族長に追いつくには時間がかかりすぎる。それまで、待てる?」
「俺がか?」
「そう。待てないなら、愛の脱族もやむなし!!」
「結構、選択が重いんですね。ロロさん」
「愛に生きてるから!!」
「くぁ~!!」
ロロは、覚悟決めてるからと言った表情をしている。何故かジャルクも、脱族する気満々なようだ。
「……待つよ。俺わ」
「本当?覚えててくれる?忘れない?」
「ああ、ロロは印象深い子だからな。忘れないよ」
「くぁ~!!」
「ジャルクもな」
「……一ヶ月。いや、一年。一年で族長を殺す!!」
「いや、殺しちゃダメでしょ!!」
「無理でしょうね。一年では、流石に経験の壁を超えられない」
「アルティか」
アルティが、歩いてきて俺の腰辺りに寄り添うように捕まる。落ち着くらしい。
「でも、殺す!!」
「いや、殺しちゃダメだよ!!」
「じゃあ、半殺す!!それぐらいじゃないと、強いって言えないから!!」
「そこまでハードなの。族長選抜って」
「毎回、参加者の顔は、赤く腫れ上がってぼっこぼこ!!」
「ガチでやばい勝負だった」
「手がなくもありませんね。一年で、相手を半殺すことが可能な手段が」
「本当!!」
「ええ。魔物の強さは、保有魔力の強さです。成長する過程で、その魔力量が多ければ、成長する身体もより強力に成長していくでしょう。それこそ、同じ種族の誰よりも」
「すごい!!頭いい!!」
「仲間の皆さんのおかげです。それで、やり方なのですが」
アルティが、手のひらに何かを形成していく。それは、魔石だった。俺の、契約用の召喚魔石。
「マスターと契約することです。この石で」
「やる!!やる!!」
「ただし、条件があります。マスターの為にあること。マスターを裏切らないこと。マスターを信じること。それから……」
俺の肩から、ロロは飛び降りた。そして、ロロは俺の目の前に座る。そして、傍らにジャルクも座らせた。
「仲間を助けてもらいました。私をかまってくれました。ジャルクにも良くしてもらいました。そして何よりも、私に、一緒に居て欲しいと思わせてくれました」
「くぁ」
「……」
「この魂、身体。全てでも貴方に答えることが出来ないかもしれない。でも、それでも、貴方を見ていたいんです。その背中を、見ていたいんです。寄り添いたいんです」
「ロロ……」
「だから、誓います。すべての条件を、貴方の為に……」
「……はぁ。ロロちゃん、いちいち重いですよ」
「惚れました」
「これが、子供が言うことなんですかね。どういう教育をされているんでしょうか」
「身体にしびれが走るほどの好きな相手は、何を振り払ってでも掴めと」
「なるほど。私達と同じということですか。……少し心配事もありますが、まぁ、いいでしょう。ですよね、マスター?」
「ああ」
アルティが、魔石をロロの手に握らせる。そして、ジャルクの前にも、魔石を作って置いた。
「歓迎しましょう、ロロ&ジャルク!!今日から、貴方達も仲間です!!」
ロロが、握った魔石を見つめている。暫くすると、何かを感じ取ったのか、魔石に魔力を流して契約を完了した。それを真似て、ジャルクも契約を完了させる。ここに、正式に俺達の新たな仲間が増えた。その名は、ロロ&ジャルク。まだ未知数の実力を秘めた、天使と飛竜のコンビである。
「さて、ここまではいいのですが……」
「これで、強く……」
「マスター。ちょっとロロちゃんに、魔力を流し込んでみてもらえますか」
「魔力を、流し込む?」
「ええ。出来れば、マスターの肉体内の魔力濃度に近い感じがいいのですが……」
「俺の肉体内の魔力濃度……。こんな感じか?」
「ああ、ゆっくり濃度を濃くしていって下さい。はい。そのような感じでお願いします」
俺は、アルティに言われるがままに、ロロに魔力を流し込んでいく。すると、何故だかロロの顔が変な表情になってきた。まるで、何かを我慢しているような……。
「うっ、うっ。うぇぇぇえええええええ!!!!」
「ああああああああ!!!!ロロが、吐いたぁああああ!!!!」
「朝ごはんが、ドバドバ出てますねぇ」
「ロロ!!しっかりしろー!!」
俺は、魔力を注ぐのを止めて、ロロの背中を擦る。ひとしきり吐くと、ロロは元気になった。
「ほら、口元ゆすいで」
俺は、水魔法でロロの口を洗う。
「大丈夫か?」
「は、はい。まだ、体に力が入ってますが、大丈夫です」
「やはり、こうなりましたか」
「どういうことだ、アルティ?」
「この迷宮の魔力濃度と、マスターの肉体内の魔力濃度は、今や天と地程の違いがあるのです。その魔力濃度の濃い空間に、今のロロちゃんを取り込むと、こうなるのです」
「え?つまり、魔力の濃さに酔ったとでも言うのか?」
「酔ったと言うのは、おかしいですね。うちの皆さんのように、完全に肉体が確立、固定された状態ならば話は別なのですが。ロロちゃんは、まだ肉体的にも成長途中。そんな中に、大量の魔力が雪崩込むと、身体の魔力が無意識にパニックを起こしてしまうのです。使いようのない、消費しようのない魔力がいきなり入ってくるわけですから、そうなりますね。結果、排出したい、どうにか消費したいという肉体的行動に繋がり」
「吐いたと」
「そうなりますね」
「ということは、あれには、俺の魔力が」
「そうなりますね。虹色に光ってますから、多分そうでしょう」
新事実。魔力は、口から出すと虹色に光る。
「で、結論ですけど。ロロちゃんをマスターの体内に今取り込むのは、止めたほうがいいですね。つまり、今のロロちゃんは、一体化にも参加できないということです」
「そういうことか」
「ええ。さて……」
「くぁ!?」
「次は、ジャルクちゃんの番ですよ」
「くぁぁ!!」
逃げようとして、アルティに捕まるジャルク。
「これも、仲間の強さを確かめるために必要な行為ですから。もし耐えられるなら、マスターの体内の魔力に当てられて早く、そして強く成長できますからね」
「ジャルク、頑張れ!!」
そういうアルティの言葉に、俺はやらざる終えず。結果、ジャルクも虹色に光る粘液を、口から垂れ流すこととなった。




