終幕
聖属性神魔級迷宮。その魔物・ノジュカントを撃退したことにより、ミエル達の故郷は貯めていた食料を使って戦勝祝を行っていた。夜も更けてきているのに、街は賑やかに騒いでいる天使たちで溢れている。だが、その中にベイ達と一部の天使たちの姿はない。
「時間になりました。交代しましょう」
「お願いします……」
「はい、これを食べて休んで下さい」
「ありがとう」
「……」
城の一室。その中には、一人の人間が寝かされていた。それは、他ならぬベイ・アルフェルトである。その周りには、集められた天使の軍隊。その中でも、回復を行う部隊のものが、入れ替わるようにしてベイに回復魔法をかけていた。しかし、一向にベイが起きる気配はない。もう、ベイが動かないまま回復魔法をかけ始めて5時間が経過している。
「……」
「ニーナ、まだ休んでなさい」
「でも、アリーさん。私、出来ることをしたいんです……」
「いい。体を壊したら元も子もないわ。それこそ、ベイが悲しむわよ。だから、もうちょっと休んでからにしましょう。いい?」
「……はい」
「なんで、こんな事に……」
ミエルが、ベイの手を握るアリーの横で呟く。そのミエルの腰あたりを、アルティがぽんと叩いた。
「それは勿論、あんな一体化をしたからでしょう」
「え?」
「つまりアルティちゃん、ミエル様が悪いっていうんすか?」
「いえ、この状況を悪いとは言えません。確かに、我らのマスターは未だに目覚めていませんが、それは極度の疲れゆえ。さきの戦闘で敗北することに比べれば、ましな状況であると言えるでしょう。ですので、なるべくしてなった、というのが正しいかと」
「でも、私の一体化のせいなんだよね?」
「そうです。あれはひどい。カザネモードやシデンモードの消費魔力量を、完全に上回っていました。4体分に増えた時点で既にそうだったのにも関わらず、さらに4体が合体することで、更に消費魔力量がその掛け合わされた力分増大したのです。そんな中で、あの鎧のフルパワー必殺技なんて撃つもんだから。マスター、めっちゃひいひい神経すり減らして魔力吸収してましたよ。それこそ、己の限界を踏み越えまくって、疲れ切って回復魔法5時間では目覚めないくらいに」
「あ~、納得したっす……」
アルティの言葉に、ミエル達は表情を曇らせる。そんな中、フィーが何か疑問を抱いたのかアルティに質問を投げかけた。
「でも、私達がなんともないのは、どうして?それほどの力を使ったのなら、私達にもそれなりの反動が残ってると思うんだけど」
「その疑問はもっともな発言です、フィー姉さん。理由は簡単です。負担の殆どが、マスターに向いているからです」
「なんで、マスターだけに……」
「今まで皆さんにお話した通り、属性特化一体化は、一時的に進化するようなものです。その際、進化のエネルギーが変換されて皆さんに行き渡ります。これが、今までの一体化です。ですが、今回はそれだけではありませんでした。この迷宮の主としてのミエルさんの能力。それが、今回の一体化のあり得ない力を引き出した原因です。この迷宮自体の力が、ミエルモードには加わっていたのです」
「それが、マスターだけに負担をかけたの?」
「はい。言うなれば、皆さんは今までの属性特化一体化と何ら変わらない負担を受けていたはずです。そんな中、この迷宮のボスを鎧として使い取り込んだことで、ミエルモードの力の限界がカザネモードやシデンモードと比べて明らかにぶっ飛んだものになってしまいました。この迷宮の魔力が、ミエルさんの理想。それをなし得る鎧の外殻を作り得てしまったからです。ですが、構成は出来ても魔力の供給は間に合いませんでした。そこで、我らがマスターの出番となったわけです」
「魔力吸収効率だけが、問題だったと言うわけっすか」
そのシスラの言葉に、アルティは頷く。
「今まで通りなら、4体合体した時点で、カザネモードなどと同じ力になっていたでしょう。ですが、それを外殻だけ実力以上で構成されるとは……。予想し得なかった結果ですね。ですが、おかげで勝てたとも言えます」
「つまり、ミエルモードはカザネモードよりも強いと?」
「ミルク姉さん、それは一概にはいえませんね。確かに、現時点で殲滅力は圧倒的でしょう。ですが、それでもカザネモードやシデンモードに劣っている部分はあります。まぁ、でも、一番ありえない力を持っているのは確かですね。最後の白い空間を作り出すあれ。あれ、結界とかじゃなくて空間を生み出す魔法ですからね。捕らえたが最後、脱出できるのはミエルモードのみという、倒されるか出れなくなるかの二択しかない空間ですから。まぁ、現時点で最強の魔法ですね」
「滅茶苦茶やばい魔法じゃないですか、あれ」
「その空間を作り出す力で、相手を切り裂きますからね。おそらく、受けきれる魔物はいないんじゃないかなって威力が出ていると思います。本当の意味で、殲滅力はトップですね」
「ノジュカントも有り得ないなと思いましたが、ミエルモードも有り得ない力を持ってますね」
「ああ。そのお陰で勝てた……」
「ベイ!!」
ベイ・アルフェルトは、目を開けてゆっくりと上体を起こす。そのベイに、アリーは大喜びで抱きついた。
「心配かけたね。ごめん」
「ううん、いいの。信じてたから」
目覚めたベイに、ヒイラ、ニーナも大喜びで抱きつく。その中で、ミエルは複雑そうな顔をしていた。
「ミエル」
「は、はい!!」
「君のお陰で勝てた。ありがとう」
「い、いえ。シスラ達も頑張りましたし。でも私、ベイさんにこれだけの負担を……」
「いや、それほどの相手だった。本当に勝てるか分からないと、考えるような相手だった。それほど、滅茶苦茶な力をもった相手だった。これまでの敵の、誰よりも」
「それは、そうですね」
「確かに、俺がかなり頑張る結果になってはしまったが、その価値のある相手だった。それに、今回の戦いで得るものもあったしな」
「得るもの?」
「どうやら、今回のことで体に負担がかかりすぎたらしい。そのせいかは知らないが、俺の体の感覚がまた変わっているようだ。今までは超感覚、心が読めるようになるだったが、今回は単純に魔力吸収量が上がったようだ。これなら、次ミエルモードになった時はうまくやれそうな気がする」
「流石マスター。ただでは気絶しませんね」
「だからミエル、ありがとう」
「……はい!!」
ベイ・アルフェルトの目覚め。それと共に、戦いの幕が下りる。ミエル達も笑顔を取り戻し、ベイを労った。こうして、ミエル達の故郷は平和を取り戻したのだった。




